アリスと泥とジャンキーと
「起きろ、起きろゴミ野郎」
エディが目を開けると、眼前に少女の顔があった。
少女の赤い双眸は妖しくも美しい。
きめが細かく白い肌に映えて、その存在感をより増しているといえた。
「お前ラリって見苦しいから、クスリ抜いてやったわ。」
少女が事もなげに言う。
エディが使っているのは、地獄という名の、かなり悪質なドラッグに、新世界という、これまた悪質なドラッグを混ぜたブレンドの粉末だ。
近年出回り始めたクスリで、これを麻痺治しのポーションに溶かして飲むと、前頭葉を貫く様な刺激が襲い、体内を波の様な喜悦が走る。
そして目に、耳に、脳に、視覚化、聴覚化、感覚化された神意が届く、という妄想に支配されて、心と思考がどこまでも狂ってゆく。
腕の立つ魔法医師であるジャン・ジャックでも手の施し様がないであろう、最悪の逸品だ。
それを抜くことなど、誰にも出来はしないと言われていたし、エディもそう思っていた。
しかし今、実際にクスリが抜けている感覚があるのだ。
心も、思考も、いつもとは別物だ。
薬物に手を出す前の、透明な心と思考がエディに戻っている。
「クスリが欲しくなくなってらあ…」
エディは、兄貴分であるヴァリッジにも、ジャン・ジャックにも負い目があった。
ヴァリッジもジャン・ジャックも、しっかり身を立てて、冒険者として、医者として活躍している。
なのに自分だけが、貧民街で育った頃のままだ。
いつまでもふらふらと強請と恐喝混じりの追い剥ぎを続け、得た金を薬物につぎ込み、昼夜問わず街の内外を徘徊する。
薄汚れた野良犬の生き方、これまでの自分の全てが、エディの劣等感になっていた。
しかし今は違う。
クスリが抜けて、心も体も自由になった。
やっと自分も何かのスタートラインに立った。
その気持ちが、にわかにエディに幸福感をもたらしていた。
その多幸感をもたらしたのは、この赤い双眸の美しい少女だった。




