己は人を殺さない
「なっ、何だこのゴブ……!」
母娘を捕らえている野盗ふたりのうちの片割れが「なっ、」と喋り始めた瞬間、ガインは野盗から母娘をひったくり、解放を終えていた。そして「何だこのゴブ」と喋っている間に大剣で腹を横一文字に、皮鎧ごと骨もろとも両断し絶命させていた。もうひとりも、この一刀で同じく皮鎧ごと両断し絶命させた。その凄まじい一撃は、彼らの恐慌を煽るには十分だった。
「何なんだこいつ!?」
「ただのゴブリンじゃねぇ!変異種だ!」
「神殿作の銀の鎧!?何でゴブリンのくせにテンプラーなんだ!?」
「お頭ぁ!お頭ぁ!」
「こいつはやべぇ匂いがプンプンしやがる!ずらかれ、てめぇら!」
野盗どもは総崩れだ。逃げ出すも、ガインの速さから逃れる術など彼らにはない。
「己にも貴様らと同じ、盗みを生業としていた頃があった」
「ひぎぃああ!」
野盗がまたひとりガインに斬られ、絶命した。
「だが己は人を襲っての略奪はしていない」
「助けてくれ、助けてくれ俺が悪かった俺がぁぁ」
またひとり、ガインに斬られた野盗が絶命した。
「己は貴様らとは違うんだ」
「し、死にたくない、死にた」
またひとり。
「人の尊厳を奪うなんてことはしない」
「お頭ぁぁぁ」
またひとり。
「己は人を殺さない」
「狂ってやがるのか、てめぇ!?人殺しのバケモンだろうが!」
最後のひとり、お頭と呼ばれていた男が絶命した。
「お前らみたいなのが、人を名乗るな。己は、人を殺さない」
人としてのまともな生き方を捨てたのなら、それは魔物と変わらない、とガインは心の中で呟いた。
「何故、神は、己を人間に、お前を魔物にしてくれなかったんだろうな。お前も己も、不幸な生い立ちだな」
ガインは、自分の緑色の肌と、野盗の頭目の肌の色を見比べた。人間になりたい、と思ったのはこの時が初めてだった。




