穴倉侵攻
「止マレ化ケ物!止マレ!」
ゴブリンたちが叫びながら投石を繰り返す。
止まれ化け物、と言われて止まる化け物が果たしているだろうか、などとぼんやり考えながら、穴倉はゆっくり、至極ゆっくりと突き進んでいた。
穴倉は、体が透明に透けている、もぐらの魔物である。
頭部には、羊の様な巻き角。
体の中央には、赤い心臓が脈打って見える。
風体の怪しさが尋常ではないし、言葉にも投石にも怯まないことから、得体の知れない恐怖をゴブリンたちはかんじていた。
「止マレ!」
焦れたゴブリンが一匹、勢いよく駆けた。
手には石を研いで作った短剣が握られている。
「心臓ヲ!」
狙うは、体の中心に見える、脈打つ赤だ。
しかし短剣は、穴倉の爪に受け止められる。
ゴブリンの持つ短剣と同程度の長さに伸びた爪は、石の短剣の一撃にびくともしない。
そして穴倉の頭部に亀裂がはしり、勢いよく左右に割れた。
中から触手が勢いよく飛び出し、瞬く間にゴブリンの全身に巻きついた。
そして時間差で、一際太く、長い触手が二本、頭部からゆっくりと現れる。
メインの触手、いわゆる触腕だ。
まるで首をもたげる蛇の様な、見るものを怖気づかせるその二本の触腕の先端は、へらの様に平べったくなっていて、無数の丸いへこみがある。
へこみの底には、小さな針。
そしてへこみからは、透明の粘液が染み出て垂れ流しになっており、ゆっくりとゴブリンのこめかみに吸い付いた。
数瞬の沈黙の後、絶叫するゴブリン。
へこみの底にある針たちが一斉に伸び、ゴブリンのこめかみに刺さった。
そして、血を吸い上げる。
脈打つ触腕。
穴倉の体の中が、だんだん緑色に染まる。
ゴクンゴクンゴクンゴクンゴクン。
まるで喉を鳴らす様な音が、ゴブリンの絶叫の中でいやに響く。
他のゴブリンは呆けた様な顔で、その様子を見ていた。
「───美味い」
顔面にまでゴブリンの血の緑色が届いた瞬間、穴倉が目を細めながら、おぞましい一言を放った。
その言葉に歯噛みしたゴブリンたちは、いっせいに怒りの表情になり、咆哮をあげながら穴倉に飛びかかった。




