ガインの回想
ガインは思い起こしていた。自分のこれまでを。
ゲブ・ガインは、ゲブ族の村に生まれ、母一人子一人の貧しい生活をしていた。貧困が、森に入って来る冒険者から食糧や装備を盗む術を身に付けさせた。ガインは、物心ついた時にはゴブリン・シーフとなっていて、母を盗みで養う身となっていた。だが九つの時、森の奥深くで野営する人間の女の食糧を盗もうとして捕まった。人間は、華奢な割に力が強く、ガインを片手でねじ伏せた。そしてガインはそのまま、森から連れ去られた。
人間の住居は、森を抜け、人間の町を三つ越えた山の山頂付近にある神殿だった。人間はそこでガインに潤沢な食事を寄越し、複数の言語や読み書きを教え、剣術、体術、魔法を叩き込んだ。そんな人間をガインはいつしか慕い、師と仰ぐ様になった。言葉も使える様になり、意志疎通も苦にならなくなったある日、師と共に初めて町に降りてみると、誰もガインを魔物扱いしなかった。師は、人間、魔物、分け隔てなく孤児を引き取って育てる、変わり者の神官としてこの町で有名だった。ガインは、師にも町の人間たちにも、孤児だと思われているらしかった。
五年の歳月で、ガインの体躯は人間並みの大きさになっていた。師は「ゴブリンが小さいのは、成長期にまともな栄養を摂取出来てないだけです」と言っていた。ガインは、他のゴブリンたちにも、栄養ある食事をさせてやりたいと思った。遠い記憶にあるやつれた母の顔が、浮かんでは消えた。
ゴブリンながら神殿騎士として働いていたガインは、ある日、自分が孤児ではないことを師に告げた。師は驚いたが、すぐに謝罪してくれ、「あなたは自由」と言った。母に会いたい。ガインは故郷に帰ると決めた。
麓の町ンカフでは、師が開いてくれた送別会で、酔って泣く師に殴られ抱きつかれた。そして餞別にと、師の愛用する大剣を渡された。翌朝、師はやっぱり返せとわめき散らしたが、照れ隠しが白々しいと皆に笑われ、素直になれない悪戯っ子の様に口を尖らせて、たまには帰って来い、寂しい、と、目に涙を溜めながら本音を言ってくれた。いい師に出会ったと胸が熱くなった。ガインは、ンカフを後にしてすぐに涙が溢れ出し、しばらく泣きながら歩き続けた。




