もう着く
しばらく馬車に揺られながら、ジャービルは横を向いた。
目の前に飛び込んで来たのは幌。
よく見ると小さな穴が開いている。
「……」
この馬車を使い始めた時から幌は変わっていないはずだが、こんな穴が開いているなんて知らなかった。
覗いてみると、外は真っ暗闇。
外の景色が見えない。
(夜明けは近いはずだが)
悪路で馬車がゴトゴト揺れる。
穴と目の位置が合わなくなり、それでも穴を目で追うジャービルの目は泳いでいるかの様だ。
どんなに注意深く見ても幌の穴から見えるのは真っ暗闇。
見るのをやめたジャービルが視線をシャサに戻すと同時に、エタースが起きた。
「あーっ、よく寝た……! 痛て……」
エタースが痛がったのは、激闘によって出来た傷の為なのか、荷馬車に座って寝ていたせいでどこかが痛むのか、はたまたその両方か。
「腹が痛え。 おいゲド! 止めてくれねえか」
エタースは腹痛に襲われていた様だ。
酒を飲むと、この男はいつもこうだった。
「もう里に着きます。 我慢出来ますか?」
荷馬車に向けて返事をしたのは、ゲドではなくレインだった。
エタースはギョッとした顔で、「何だ、もう着くのか? ……おう、ならいい」と言って目を瞑り、狸寝入りを始めた。
誰もがレインに一目置く。
エタースだってそれは変わらない。
レインは年下だが、パーティの中での立場は強い。
力こそ全て、がまかり通る“混沌”において、最強のレイン・ウインターウッドに逆らう様な真似はしない。
そのスタンスは、ジャービルと同じと言えた。
ジャービルは、自分より強いシャサに気を遣う。
気に障る様なことはしない様にしている。
それと同じだ。
そんなことを思うエタース。
シャサを見ると、幌の入口をめくって外を見ていた。
「ああ、マジでもう着くじゃねえか」
いつの間にか外は少し明るくなっている。
ジャービルがこっそりと、穴をもう一度覗く。
するとやはり、闇が少し薄くなって見えた。




