炎使いはいませんか
イルマは、しばし瞳の中を覗き込む様に見ていたが、それで何かが進展するわけでもなし、瞬きと共に目と目の間、鼻筋辺りを見ながら話し始める。
「これが噂の吸血鬼。 魅惑的な瞳ですね」
それは社交辞令なしの感想だったが、フォンテスには回りくどいおべっかにも、嫌味にも聞こえた。
故に、若干冷淡な物言いとなる。
「単刀直入に言え。 何をさせたいのだ」
フォンテスに、イルマを恫喝する気はない。
だが、この場では弱者に該当するイルマにとって、吸血鬼の真祖であるフォンテスの冷淡な言葉は刺激が強い。
イルマには、ある種の研究者特有の無神経さがあるが、ただの人間である。
魔の者の言葉への耐性はない。
イルマは今まで、自分より圧倒的に強い魔の者と至近距離で向き合ったことなどなく、フォンテスの存在そのものに本能的な危険をかんじた。
言葉の内容そのものは気にしていないのに、無力感から足が震え、その場にへたり込みそうになる。
すると横にいる夫デシネが、イルマの腰に手を回し、強く抱き寄せた。
その瞬間、震えが止まり、落ち着いたイルマ。
圧倒的強者を向こうに回して、何ら引けをとらない存在になっている夫。
ことが終われば、聞きたいことが沢山ある。
頼もしさと共に、自分の知らない何者かになった感ある夫の体温をかんじながら、イルマはフォンテスに訊く。
「あなたたちの中に、炎使いはいませんか?」




