2089/2233
イルマなりの誠意
イルマは研究者だ。
だからこそ、研究者が根拠なく定説を構築することがないと知っている。
吸血鬼が人間と友好的でないことも、すぐ襲いかかって来ることも、確かな情報のはずだ。
しかし、目の前の吸血鬼は違う。
友好的な態度とは言えないが、聞く耳を持っている。
イルマが知る吸血鬼像とは重ならない。
(吸血鬼の気性の荒さには、何か条件があるの? それとも、何か変化が? 興味は尽きないけど、今は……)
思うところがあるイルマであるが、優先すべきは吸血鬼の生態の研究ではない。
この場から脱出する手段の模索。
これが最優先事項だ。
イルマは、研究者として、歴史的な場面に自分が立っていると思いつつも、思考を切り替える。
自分の前に立つ夫デシネの脇から顔を出して、次いで真横に並び出た。
全身さらしたのは、聞く耳を持ってくれた吸血鬼フォンテスへの、イルマなりの誠意だった。
それに気付いているのか、気付いていないのか。
フォンテスはイルマの眼前まで近付き、止まった。
血の様に赤い瞳がイルマを映す。




