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イルマなりの誠意

 イルマは研究者だ。

 だからこそ、研究者が根拠なく定説を構築することがないと知っている。

 吸血鬼が人間と友好的でないことも、すぐ襲いかかって来ることも、確かな情報のはずだ。

 しかし、目の前の吸血鬼は違う。

 友好的な態度とは言えないが、聞く耳を持っている。

 イルマが知る吸血鬼像とは重ならない。


(吸血鬼の気性の荒さには、何か条件があるの? それとも、何か変化が? 興味は尽きないけど、今は……)


 思うところがあるイルマであるが、優先すべきは吸血鬼の生態の研究ではない。

 この場から脱出する手段の模索。

 これが最優先事項だ。

 イルマは、研究者として、歴史的な場面に自分が立っていると思いつつも、思考を切り替える。

 自分の前に立つ夫デシネの脇から顔を出して、次いで真横に並び出た。

 全身さらしたのは、聞く耳を持ってくれた吸血鬼フォンテスへの、イルマなりの誠意だった。

 それに気付いているのか、気付いていないのか。

 フォンテスはイルマの眼前まで近付き、止まった。

 血の様に赤い瞳がイルマを映す。

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