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闇の気
「俺たちを倒しても止められないんだよ」
棒読みでそう言ったクマガイ。
目は虚ろで、まるで意思がないかの様。
小さなぬいぐるみの様な、獣の様な、一種異様なクマガイから発せられたこの抑揚のない言葉に、女は思いきり顔をしかめた。
デシネはクマガイを一瞥して、口元に歪んだ笑みを浮かべた。
それはまるで、デシネとクマガイの間に意思疎通が出来ている様にアリスには見えた。
アリスだけではない。
女も含め、全員にそう見えた。
だが、厳密には、デシネとクマガイに意思の疎通はない。
即興で話を繋げているだけだ。
だが、話は成立している。
その結果、女を揺さぶることに成功している。
「っ……!」
女の顔に苛立ちの色がある。
そして声にも棘が。
「何が言いたいのです?」
その尖った声に対し、クマガイは黙って答えない。
かつてのクマガイならば萎縮するなり激昂するなり感情が揺れたかもしれないが、今は静かに視線を外すのみ。
代わる様にデシネが答えた。
「あなたもまた、感染しているのです」
ハッとした女は、自分の両の掌を見た。
特別これといった変化はない様に見えるが、だからこそ疑念が頭をよぎる。
「感染? 何のことだ?」
「見れば分かるでしょう?」
デシネの手には、闇の気が宿る。




