1986/2233
私は死ねん
背中越しに繰り出されたのは鋭利な気を纏った手刀だった。
ゾミは振り返らず、しかし気配で察知した。
「……」
(何故こんなことになったのだろう)
ゆっくりと思考をめぐらせているつもりのゾミだが、実際には手刀が下ろされている一瞬のことだった。
まるで全てがスローモーションで、十分にも十五分にもかんじたゾミだが、思考は上手くまとまらない。
ただ、このままでは自分は殺されるのだと思った。
ゾミの生命は、デシネが救ってくれた生命だ。
(この生命、救ってくれた司祭様に差し出すのも筋か)
だから、静かに絶命を受け入れようと思った。
しかし、その瞬間によぎったのは両親の顔。
(もし私が殺されれば、両親は……)
ゾミは、両親の愛を知っている。
ゾミの為ならば、自分たちのことを省みず、全力で、八方尽くす両親の愛を知っている。
だからここで、死ぬわけにはいかないと思った。
(きっと、今以上に、私に囚われた人生を過ごす。 だから)
「私は死ねん!」
そして開く銀の翼が、デシネの手刀を阻んだ。




