暴虐の記憶
その瞬間、クマガイの背筋が凍った。
クマガイの脳裏を駆けめぐるのは、幾多の記憶。
それは、偽りの過去の記憶も、この世界での記憶も混ざり合い、もはや走馬灯の様相を呈している。
(やばい、そうだった)
一気に吹き出す脂汗。
クマガイは、これまでのアリスとの関係性を思い出す。
(こいつを敵に回すのはやばいんだった)
先刻まではアリスとクマガイは仲間といえた。
仲間だからこそ、クマガイは黒球によって自分の生い立ちを知り、揺さぶられて、黒球につけ入れられた。
結果、穴倉と対峙し、そして、アリスに睨まれたわけだが、その瞬間のクマガイは、恐怖から、元のクマガイに戻ってしまっていた。
黒球と繋がり、戦いに躊躇がなくなったクマガイではなくなっていたのである。
そして戸惑う心を察知したアリスが、炎の拳を振るう。
「俺にケンカ売ってんのか、テメェ!」
「いや、違うよ!」
アリスの恫喝じみた声に対して、クマガイの口をついて出た言葉は、敵意と真逆のもの。
クマガイの心に、従属の気持ちが広がる。
そもそもクマガイはアリスに、肉体的にも精神的にも踏みつけられてきたのだ。
それどころか、殺されたことすらある。
今、クマガイに押し寄せる記憶の海は、暴虐な言動を繰り返したアリスばかりで埋められている。
それはもはや、ただ純粋に走馬灯である可能性が高い。




