腹立って来たわ
半透明に透ける穴倉の体の中に、じわじわと広がる闇色は、遂には全身に回りきる。
しかし、濁りや澱みは一切なく、穴倉の体内は依然としてきれいに透き通ったままである。
クマガイは穴倉と爪を合わせてせめぎ合っていたが、風を噴射させ、後退する。
そして一言呟いた。
「欠片を取り込んだか」
その声は確かにクマガイのもの。
だが、そこにはクマガイらしい激情、絶叫もなく、気弱なぼやきもない。
抑揚なく話す様子はむしろ普段の穴倉に近い。
「じゃあさ、穴倉、俺はお前を倒して、欠片を取り出すよ」
意識も確かにクマガイのもの。
黒球に意識を乗っ取られるのではなく、クマガイの意識のまま、アリスに、穴倉に、敵意を向けるクマガイ。
対する穴倉は、特に動揺も見せず涼しい顔。
そして穴倉らしい、抑揚のない声で、物騒な発言に至る。
「じゃあ俺がお前を倒したら、お前もろとも黒いのも食うよ」
クマガイはただ黒く染まり、敵対の意思を見せるが、穴倉は透き通ったままで、そんなクマガイの前に立ち塞がる。
黒球の欠片と同化したクマガイは、穴倉が果たしてどこまで本気で言っているのかがわからない。
だがアリスは、穴倉が本気で言っているのだとわかっている。
(ガチだわ、こいつ)
アリスは穴倉の気性をわかっている。
仲間同士であろうと、躊躇なく戦うだろうということを。
そして、穴倉に捕食されるクマガイを想像する。
(まぁ、止める理由はないわ。 クマガイのアホはよぉ、俺をヌッコロそうとしたし。 ……あっ、腹立って来たわ)
「やっちまえよおめぇ、穴倉よぉ」
そして穴倉の背中を押そうとする。
アリスは、例えクマガイが穴倉に殺されたとしても、どうということはないと考えている。
魔法で復活させればいいと考えている。




