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穏やかではいられない
穴倉は目を見開き、無意識に口呼吸の音をたてる。
上下の歯を噛み合わせたままでの呼吸。
息を吸い、吹く度に、思いのほか音が響く。
だが穴倉は、自らの呼吸音の大きさに無頓着。
アリス、クマガイの存在を気にすることなく、黒球から吸い出した情報の把握に努めている。
そして時折、大きく頷いたり、天を仰いだりと、多彩なリアクションを見せる。
さらには、「そうか、そういうことか」などと、高揚した声をあげる。
そういった穴倉の様子を見ているクマガイは、愕然としながら押し黙っている。
……押し黙ってはいるが、言いたいことがないわけではない。
今、クマガイは、穴倉に対して、えもいわれぬ感情を募らせている。
(何が、そういうことか、だよ……! 何を始めてるんだよ……!?)
クマガイの胸に溜まる思いは、穴倉への不満、不快感、劣等感がないまぜになったもの。
穴倉は、自身に憑いていた黒球の欠片から、情報を得ている最中だ。
しかしそれを、クマガイは知らない。
逆に穴倉も、クマガイが何を得て、何を思っているのかを知らない。
クマガイが黒球から得た情報、そして穴倉が黒球から得た情報に差があるのか、それとも、ないのか。
その判別はつかない。
何もわからない。
だからこそ、クマガイの胸中は穏やかではいられない。




