悪童、レイン
宿の一階にあるレストランに、混沌の三人が入って来た時、悪童は楽しく酔っていた。
そこに、挨拶をせんとゲドたちが近付いた瞬間、
背後に立つレインが殺気を放った。
その瞬間、悪童の姿が消えた。
ゲドとジャービルは、悪童の三人の姿を捉えられなかった。
───殺られる!
二人は戦慄したが、悪童を見失うとほぼ同時にレインに後襟を掴まれ、後方に投げられていた。
ゲドがいた場所にはエディがヌンチャクで殴りかかり、ジャービルがいた場所にはジャン・ジャックがメスで切りつけていたが、レインは、ヌンチャクを繰り出すエディの右手首を左手で外側から掴み、ジャン・ジャックの右手が繰り出したメスの斬撃を、右手の人指し指と中指で挟んでキャッチした。
だが、エディは、手首を時計回りに捻り回して抜け出し、ジャン・ジャックもメスを手放していて、二人はもうそこにはおらず、既にレインの斜め後ろの死角から新たな攻撃を繰り出していた。
エディは頸部への回し蹴り、ジャン・ジャックはメスで頸動脈を狙う。
レインは前屈し、上半身の動きだけでどちらも難なく避け、反撃に移ろうとする。
しかし───。
「チェックメイトだ、イタズラ小僧。」
潜り込んだヴァリッジのダガーが、レインの喉元に突きつけられていた。
「さすがAランクだぜ、レイン・ウインターウッド。だがな、てめえみてえなお坊っちゃんじゃ、俺ら三人相手は無理なんだよ。タイマンなら何とかなったかもな。」
「その様ですね。あなたたちの実力がAランクだと、わかってはいました。」
「わかってるなら何故仕掛けやがった?
下手すりゃどちらかが死ぬ。」
ヴァリッジが半眼でレインの目を見据える。
「俺の悪い癖が出ました。戦い以外は叔父の言う通りにするのですが、悪童がどんなものかと、試したくなってしまいました。双剣のヴァリッジ、悪辣エディ、そして…!」
「その先は言うんじゃねえ!レイン!」
ゲドがレインの言葉を遮る。
怪訝そうな顔を見せるヴァリッジ。
ゲドは青ざめながら、頭を垂れる。
「悪童の方々、どうか許してほしい。こいつの礼儀がなってねえのは俺の責任だ。」
「…てめえは?」
鋭い眼光に戻ったヴァリッジが、ゲドに問いかける。
ゲドは経緯を話す。
「混沌のゲドと言いやす。そちら、アーマンダインのギルド長を外から見かけて挨拶をと思ったんですが、甥がご迷惑をおかけしてしまって、申し開きもござんせん。」
ジャービルも頭を垂れる。
レインは変わらない。
「酔いが回っちまった。さっさと行ってくれ。」
ダガーを逆手に持ち替え収めたヴァリッジに、エオエルが近付き、称賛の声をあげた。
無表情のままエオエルを眺め、捨て台詞を残すレイン。
「売り込みは失敗か。悪童、思ったより強いですね。」
レインを睨むエディとジャン・ジャック。
「やっぱあいつ殺しちまおうぜええ!」
「なまくらの騎士風情が。」
ゲドとジャービルが、不遜なレインを引っ張って行く。
エディとジャン・ジャックは悪辣そうな笑みを浮かべ、今にも飛びかかりそうだ。
と、ヴァリッジの怒号が飛ぶ。
「やめねえか、てめえら!…エオエルさん、どうか今日のことは、他言しないでもらえますか?俺たちがランクを上げねえのは、めんどくせえのが嫌いだからでして。アーマンダインに遠征した時にも、あちらさんと仲良くしていただきたいですし、顔を潰したくねえんですよ。」
「もちろんですとも、もちろんですとも!いやあ悪童のファンになってしまいますなあ!強い!強い強い!」
エオエルは上機嫌だ。
牽制でもあり、媚でもある悪童の言動だったが、魔王復活を懸念しているエオエルにとっては、まるで希望の光の様に見えたのだった。
ヴァリッジとしては、そのはしゃぐのをやめてくれよ、という思いなのだが、エオエルは理解出来ていない様であった。




