アリスとの関係を壊したくないから
クマガイは、完全に理解してしまった。
前世の記憶をもとに、アリスたちとの今の関係性がある。
記憶の上では、身勝手で傍若無人だったクマガイ。
しかし、その記憶自体がそもそも捏造されたものだとすると、全てが揺らいでしまう。
(そう考えると、気を遣う必要ないじゃん! アリスにも服部にも池中にも高木にも!)
クマガイとアリスの現在の関係性は、友だちと言っても差し支えないもの。
アリスにとっては、さほど深い仲ではないが、しかし、悪くない関係であることは確か。
そしてクマガイにとっては、かけがえのない関係といえた。
クマガイは、前世での振る舞いを踏まえ、今世では別人の様になろうとした。
いや、素直に今の自分であろうとした結果、前世の自分とは違ってきたという方が正しい。
クマガイは、身勝手で傍若無人な言動を繰り返す困った奴のはずだった。
しかし、今のクマガイの性格はそうではなく、前世のクマガイと噛み合わない部分がある。
(じゃあもう誰にも謝らなくていいじゃん! だけど……)
クマガイの意識がまたアリスに向けられる。
アリスは依然として走り続けている。
クマガイを背負って。
例えば、前世がなかったとして、アリスと今の関係性になれただろうか。
背負われて、背中越しに体温をかんじる間柄になれただろうか。
(アリスと今こうなってるのは、前世の記憶があったからじゃないのかな)
真実を知らないままだったなら、ある意味では幸せだったかもしれない。
アリスが受け入れてくれて、クマガイを友だちに、仲間にしてくれた。
クマガイもそれに応えようとしている。
前世の記憶があればこそ、この今の関係性があるのかもしれないと、クマガイは思った。
(だから、このままでいいのかもしれない。 俺は今のアリスとの関係を壊したくないから)
そしてクマガイは、知った真実に蓋をすると決めた。
仲間たちにも、予定通りに謝るつもりだ。
記憶が幻だったと知った今、クマガイの過ちにまつわる謝罪など、必要のないもの。
しかし、クマガイの謝罪は、許される為のものではない。
相手の気持ちに寄り添う為のものなのだ。
だから、そこに真実の有無は関係ない。
クマガイにはそう思えた。
これこそが、今のクマガイの性格。
前世のクマガイにはない、相手本意の性格なのだ。




