見返りを求めているわけではない
クマガイはアリスに恋心を抱き始めている。
憧れ、怨讐を超えて出来上がった気持ちは強固なものだ。
そして今、クマガイはそれを自覚し始めていて、戸惑っている。
その戸惑いは、クマガイが成長したからこそ獲得出来たものだ。
記憶の中のクマガイならば、戸惑うことなどあり得なかった。
まさに、欲望のままにアリスに近付いていた。
だが、いつしか、そういった自分ではなくなり始め、己の言動を制する様になってきた。
自制がきく様になってきた。
時には、声を荒げることもある。
これからも、声を荒げてしまうことはあるだろう。
だがしかし、一線を超えてはいけないとクマガイは思っているし、一線を超えない自信もある。
その原動力は、ただただ、クマガイの性根と言わざるを得ない。
今のクマガイが得た精神性と言わざるを得ない。
(俺はさ……アリス、お前に憧れて、お前になりたくて真似してた)
そう、クマガイはいつだって有栖川の真似をして、空回りしていた。
だがその真似は、いつもクマガイの欲望の為にあった。
有栖川の様にモテたい、有栖川の様に、王に君臨したい。
だが、それがかなわず、その度に暴れようとし、返り討ちに遭った。
『今考えると俺はおかしかった』
クマガイの魂は今、アリスの中。
誰へともなく呟いた声には、誰からの返答もない。
だがクマガイは、心静かに目を細めた。
反応など、なくても構わない。
今のクマガイは、何かの見返りを求めているわけではないのだ。




