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かけがえのないもの

 かつての記憶の中でクマガイは有栖川(アリス)に虐げられていた。

 その発端はどれもクマガイだった。

 それは、ムチャクチャな行動理念に基づいていた。


(今思えば、欲望のままに動いていたよ)


 そうしみじみと述懐するクマガイ。

 だが、そんな事実はない。

 かつての記憶は、あくまで植え付けられた記憶である。

 記憶の中の前世など実際にはないのだ。

 クマガイは何者かに造られた存在であって、元人間ではないのだ。

 とはいえ、記憶を植え付けられている。

 誰が何の為にクマガイに記憶を植え付けたのか、それは分からない。

 ただ、クマガイにとってその記憶は、アリスとの関係性のベースになっている。

 記憶が幻と知らずに、クマガイは想いを抱くのだ。


(アリスもムチャクチャだけど、俺もムチャクチャだったよね。 俺はあいつに憧れて、真似をして)


 躊躇なく踏みつけられていたことを思うと、以前は怒りが湧いた。

 だが、有栖川(アリス)に踏みつけられ、遠慮なく傷つけられる状態から始まった関係性は、いつしか変化して行った。


(そして今では友だち……だと俺は思う)


 クマガイは、踏みつけられていたことを今思い出すと、何だか別のものに思えて来ている。


(アリスと俺の関係って、すごく特殊で、他にないと思うんだ)


 クマガイは、アリスとの今の関係を心地のよいものだと思っているし、なくしたくないと思っている。

 かけがえのないものだと思っている。

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