男の中の男だわ
ガインは大剣を肩に担ぎ、ジャン・ジャックの左方に、穴倉は右方に立っている。
二人とも、ジャン・ジャックに自分から何かを言うわけではない。
だが、ジャン・ジャックを守るスタンスなのは明らかだ。
恩讐超えたガインの助力のみならず、得体の知れない魔物の穴倉からの助力。
これは、通常ならば得られないものだろう。
そう思うジャン・ジャックは、何故、魔物(穴倉)が助けてくれたのかを考えようとするが、悪薬の負担に意識朦朧となり、思考力がなくなってゆく。
その時、穴倉が呟いた。
「食えると思うんだよ」
どこの誰に言うでもない様な、独り言の様な一言。
なのにジャン・ジャックの耳には、鮮明にその一言が聞こえた。
朦朧とする中で、一瞬、頭の中の靄が晴れた様に、意識がハッキリしたジャン・ジャック。
目元は苦痛に歪んでいるが、口元は思わず緩む。
(戦いのさ中にのんきな奴だな。 クク、何だこいつは)
デシネに悪薬を注入し続け、死に直行しながら、しかし笑うジャン・ジャック。
その生命の火が弱まる中で、アリスを見上げると、アリスは汚いものを見る様な目で穴倉を見ながら、口を開いた。
「拾い食いキッショ。 火ィ通さんと、腹壊すと思うわ」
妙に通るアリスの言葉に、ジャン・ジャックは吹き出し、さらに笑う。
「クックッ」
ああそうか、この魔物も我が女神のしもべなのだな。
つまり、同門なのだ、と。
そう思いながらアリスを見上げているジャン・ジャック。
すると、悪薬による苦痛が和らいだ気がした。
そのままアリスを見ていると、アリスもジャン・ジャックを見た。
目が合った二人。
アリスの目には涙がたまっている。
その瞬間、アリスが口を動かす。
今度の声は、ジャン・ジャックの耳まで届きはしなかった。
しかしアリスの唇を読んだジャン・ジャックは、充実感で胸を一杯にしながら、最後の一滴まで生命を振り絞り、悪薬に変換して、デシネに一気に注ぎ込んだ。
「悪……薬……!」
ジャン・ジャックの命の火が、完全に消えた。
アリスが、同じ言葉を、今度は叫ぶ。
「お前、男の中の男だわ! ジャン・ジャック!」
既に死んでいるジャン・ジャック。
だがその口もとは、最後に、またも笑んだのである。




