助けてやりゃあいい
「かはッ……」
吐血したフォンテス。
全身にまとっていた炎がほどけ、かき消えて、燃える様な目からも、輝きが消えた。
「フォンテス様……」
主の名を口にしたのは、マシアスであったが、無言のイゴールも愕然としていて、フォンテスの無惨な姿を見上げる。
真祖の吸血鬼にして一族の主であるフォンテスの顔を、胸を、腕を、腹を、足を、デシネの黒棘が刺し貫き、宙吊りとしている。
デシネが顎を上げ、目を細めると、黒棘たちはするすると引っ込んで、フォンテスの体から抜けた。
当然、フォンテスの体は落下する。
「シャノン! フォンテス様の手当てだ!」
マシアスが叫ぶが、シャノンの耳には届かない。
シャノンは、フォンテスの落下をぼんやり見ながら口走る。
「主がこうも弱くては……」
失望と諦観で、シャノンの心はより一層一族から離れる。
シャノンの不敬な言葉を聞いたマシアスは怒りと悲しみがこみ上げる。
今すぐ短剣で、シャノンの顔でも首でも切りつけてやりたい。
だが今は、落下してくる主、フォンテスの体を受け止める方が先だと考え、落下地点へ急ぐ。
だがその時、マシアスを何かが追い抜いて、フォンテスの落下地点から、真上に飛び上がった。
そしてすれ違いざまに、フォンテスに光を放つ。
「組成魔法ォァッッ」
飛び上がり、すれ違ったのは、アリスである。
「頭来たぞ女ァァ!」
その背中にはクマガイが張り付き、風を放出して推進力としている。
アリスは、落ち行くフォンテスを一瞥し、振り返って、シャノンへ向かって叫んだ。
「弱ぇなら、助けてやりゃあいいだろがァ!」
「前向けって! 前! 邪神の方見てってば!」
クマガイがアリスに注意を促すが、アリスは聞いていない。
フォンテスへと、怒号を飛ばす。
「おい吸血王子! テメェも来いやぁッ!」
アリスの声に呼応するかの様に、フォンテスの目に、体に、炎がともった。
そしてデシネへ向かって、再び飛び上がる。




