敵意のないクマガイ
とはいえクマガイは、話が上手いとか、交渉に長けているとかではない。
ましてや相手は邪神である。
どの様な話をすればいいかも分からない。
だが、一旦任されることになったのだから、会話の糸口ぐらいは掴みたい。
あわよくばきちんと成果をあげたい。
その為にどうすればいいかをクマガイは考え、そして一つの結論に達した。
(とりあえず敵意を持ってないことを分かってもらおう)
まずは自分を知ってもらうことから。
かねてからクマガイは、自分の存在を他者の意識にねじ込みたい願望が常にあった。
だが、かつての様に独りよがりではなく、常識的で一般的で模範的な「敵意を持ってないことを分かってもらおう」という思考にたどり着いた。
これはクマガイとしてはとてつもなく珍しいことである。
そこにあるのはデシネへの気遣いだが、その気遣いの根幹には、デシネへの恐怖がある。
(目つきが怖い! マジで怖い!)
ゆっくりと一歩一歩進み、デシネに接近するクマガイ。
その距離は2mほどまで縮まった。
(結構こんなに近くまで来ちゃった……! 怖いんですけど……!)
デシネはぎょろりと目を剥き、クマガイを見下ろしてくる。
その圧力に最大まで萎縮しつつもクマガイはデシネを見上げ、声を出した。
「えっ、え~っと、クマガイです……」
名乗るクマガイ。
だが、デシネの目は射抜く様な鋭さ。
故に次の言葉がなかなか出ず、クマガイは目を逸らし、黙ってしまう。
「……」
足がガクガクと震える。
恐る恐る、またデシネを見上げるクマガイ。
デシネの顔を見ると、依然としてクマガイを見下ろしており、その姿は一見人間の様だ。
しかし目から感情が読み取れず、デシネが人間ではない邪神であることを意識してしまうクマガイ。




