双剣の憂い
男は、頭を抱えていた。
薄手のカットソーにカーゴパンツ。防具の類いを一切付けず、持っているのは二本の両刃ダークだけ。年齢は三十代前半頃だろう。この世界では一般的な黒髪。双剣のヴァリッジといえば、故郷である王都では、なかなかの名前だ。
何故こんな出で立ちになったかというと、そこにはヴァリッジの生い立ちが関係している。貧民街出身のヴァリッジは、幼い頃から、靴磨きで雀の涙ほどの金を稼いで暮らしていた。ある時、冒険者が刃こぼれしているダークを二本くれた。このダークが、魔物狩りの武器となった。
武器は手に入れたが、自由になる金などない。防具は買えなかった。というより、買う発想がなかった。そのまま今日まで、長い年月をこのスタイルで過ごし、叩き上げで強くなった。超一流とは行かないが、一流の冒険者に数えられる彼は、貧民の憧れであり英雄なのだ。
そんなヴァリッジがブレブロに拠点を移したのは、この街の冒険者ギルドに金を積まれ、家を用意されて移籍したからだった。ブレブロ近郊は、出現する魔物が手頃だし、目立つ冒険者もいないはず。いい条件にいい環境であることは明白だった。貧民からの成り上がりの体現の仕上げのつもりだった。もう貯蓄も充分ある。街に着けば、隠居生活の様なスローライフの始まり、のつもりだった。なのに、これは何だ?
「こりゃあ、とんでもねえな…!」
硬い鱗で覆われた八つ首の蛇竜ヴェドヴェドの首が、一つは焼けただれ、一つは一刀のもとに斬られ、一つは無数の穴を開けられ、四つが叩き潰され、残りの一つはカラカラに干からびた首なしになっていた。チャクラム、刀、神聖魔法に拳。超人勇者ユウと、そのパーティーで間違いないだろう。しかし、最後の干からびた首なしは何だ?噛んだ様な痕がある。超人勇者は悪食と聞くが、蛇竜を食うとは、まさか…。
ギルドへの報告を急ごう。この街近郊に、悪名高い蛇竜ヴェドヴェドが現れたのがまず問題だが、それを倒した上に食う存在がいるなど、放ってはおけない。




