表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者日本へゆく  作者: 水無月
第3章 東日本編
93/147

第71話 クエスト『名古屋港調査』1

「お嬢様」

「何かしら?」

「今日、李さんからお嬢様のことについて色々と尋ねられました」

「そう」

「どうやらあの人たちは、お嬢様の素性について疑っているみたいです」

「……」

「もしや、お嬢様のことが――」

「構いませんわ。なんらやましいことはないのですから。捨て置きなさい」

「ですが」

「二度は言いませんわ。ほら、寝ますわよ」

「……分かりました」



「予定を変更すべきか?」

「二兎を追う者、と言いますしねぇ」

「手に入れた情報は、あの女より今の時点ではよほど価値がある」

「ですが――」

「どのみち、俺たちだけでは戻れんか」

「はい。マイラさんが速やかに仕事を終えるよう協力した方が良いでしょう」

「……その中で目的が果たせるなら、か」

「無理は止めましょう。確実に帰還する方が重要ですよ今となっては」

「そうだな」




 伊勢神宮を中心としたこの地域には、4000人以上の残留者が暮らしている。

 4000人となるとかなりの人数だが、全員が一か所に集まっているわけではない。

 西の度会町や南伊勢町、東の鳥羽市、南の志摩市などに分散している。

 3市2町20万人中の4000人と考えると、決して多いわけではないことが分かるであろう。


(最も、これが「残留者」であるという事を考えればこの数は多いな)


 手に手に農機具を持ち農作業に向かう人々を窓から見ながら、吉田はそう考えていた。

 東の残留者にとって最大の問題だったのは食糧の確保だったのであろう。

 モンスターの脅威も問題であろうが、取りあえずは食う物を確保しなければどうしようもない。

 とは言え元々の農家だけでは到底手が足りない。

 必然、他業種の人間も農業へ従事する必要が出てくる。

 現在この地域の成人の9割は農業に従事しているという情報を吉田たちは得ていた。


 現在この地域に電気は通っていない。

 火力発電所は県北部に集中しており、水力・風力発電も近隣にないためだ。

 個人や企業が持っていた発電機はあるが、手持ちの燃料が尽きると手に入る見込みがない、発電量が小さい、修理用の部品が無い・技術者がいない、などの理由もあり緊急用にしか使われていない。

 そのため人々は昔ながらに、日が昇ると動き始め沈むと眠るという生活を行っている。

 微妙な差異はあれ、自然要因が地球時代と変わらない今の日本であれば、7月のこの時期の日の出は早い。

 つまりそれだけ人々は早く活動を始めるのだ。


「別に驚くことでして?」


 外の様子が気になる吉田と李に、マイラは白湯を飲みながらつまらなさそうに言った。

 近世的な大陸東部はもちろん、電気というものが研究されている段階の大陸西部でも、大半の人々はこの様な生活は当たり前である。


「まあ、ルマジャンを始め西の大都市ではガス灯がだいぶん普及していますから様子は違いますわ」

「ほう」


 さして興味なさそうに流す吉田。しかし、今の言葉は聞き逃せなかった。

 何気ないマイラの言葉であったが重大な意味を含んでいる。


(ガス灯――その燃料はなんだ!?)

(地球の歴史から鑑みれば天然ガスですがねぇ)


 未だこの世界で日本が見つけていない天然ガスと石油。

 現在日本は海底からそれらを採集しているが、あくまで日本と共にこの世界へ転移して来た地球の物だというのが今の定説である。

 日本は東の友好国から情報を集め、石炭やレアアース等の希少金属は見つかったのだが今のところこの2つの情報はなかった。

 調査団を派遣出来れば良いのであるが、大陸の情勢が不安――既に戦争も起きている――と言うことや、各国・各領主との利害調整が上手くいっていないこともあり派遣出来ないでいる。


(こんな世界だからな。天然ガスとは限らんが……)


「ガス灯ですかぁ。転移前の世界でも、昔は大都市にあったそうです」

「昔、ですか。――まあそうですわね。この日本の技術を考えればそうなのでしょう」


 昔、と言われ一瞬不満げな表情を浮かべたマイラであったが、すぐに思い直す。

 日本の技術力の高さはマイラも認めるところだ。

 マイラの故郷の最先端技術も、日本にとっては過去の遺物と同等なのであろう。


「ですがガス灯の灯りというのは、電気とはまた違う趣がありますから。よろしければ今度お話を詳しく聞かせてもらえませんかねぇ?」


 出来れば今すぐにでも聞き出したいが焦ってはいけないと慎重になる李。


「おーっほっほっほ! 構いませんわよ。私も詳しくは存じませんが、クエストの道すがらお話いたしますわ!」


 思わぬところで情報が手に入る――今回の旅での収穫の多さに、上手くいきすぎて怖いと少しだけ重い吉田と李であった。



「お嬢様。アマテラス様が来られました」

「邪魔をするぞ」


 マイラたちの宿泊する伊勢神宮にほど近い宿(現在は残留者が使用している)に姿を現したのは、無事自らの本拠地へとたどり着いた天照大神であった。

 マイラにはいまいち見慣れない神服を纏った天照は、レオに案内されロビーの椅子にこしかける。

 この地に着いて3日目。

 本来なら昨日には名古屋に向け出発するつもりであったマイラを、天照が引きとめたため彼女は予定外の1泊をこの地ですることになってしまっていた。


「それで、わざわざ私を引きとめたのは何なのですか?」


 その想いが如実に声色に出ていた。

 その不遜な態度に、天照に付きしたがっていた宮司が眉を顰めるが、天照は「よいよい」といって宮司を宥める。


「この者の言動を一々気にしてもしかたない。大目にみよ」

「ははっ。それが大御心であれば――」

「それにしてもマイラよ。折角なのじゃ、もう少しゆっくりしていけば良い物を」

「次のクエストもありますから」


 仕方ありませんわ、と言ったマイラ。

 もっとも本音としてのそれは半分と言ったところだ。

 もしこの伊勢の地に見るべきところがあれば、彼女ももう少し逗留する気になっただろう。

 だが今の伊勢の有様は、日本よりも大陸のそれに近い。

 勿論使っている道具などは大陸の物と比べ物にはならないが、それらは西日本でも見ることが出来るものだ。

 日本を見聞きすることを目的に日本にやってきたマイラにしてみれば、さっさとクエストを終了し西へ戻りたいのである。


「申し訳ない。我々としても道中が少しでも安全な内に進みたいですので」


 マイラのフォローというわけでもないが、結果的にそんな役目を担ってしまったのは吉田であった。


「今ならば、天照様を避けていたモンスターもまだ戻ってはいないでしょう。奴らが戻る前に少しでも先に行きたいのです」

「その事なら――道中の途中までは安全じゃ」

「どういうことですか?」

「この地にわたくしが来た故な。わたくし自身がこの地の結界の起点じゃ。分社などとは比べ物にならぬ範囲の結界になるぞ」


 そう言って天照はマイラを見ると、


「マイラよ。大陸の神の本殿ではどの程度の広さの結界があるのじゃ?」

「そうですわね。私の知っている神々の神殿で一番広い物ですと……」


 地図を取り出しながらマイラは考える。

 大陸の地図とこの地図の尺度差を考慮して導き出せば――


「この川の辺りかしら」


 そう言って指を差したのは櫛田川であった。


「……ふむ。わたくしの感覚ではもう少し広いのう。ふふふ、勝ったわ!」


 結界の広さの差は即ち力の差ということなのだろう。


「となると、半径15~20km程度か。思ったより広いな」

「分社だとどれくらいなのですかマイラさん」

「本拠地でない神殿ですと、せいぜいそれを取り囲む町くらいですわ。今の範囲が15kmとおっしゃるのでしたら、そうですわね……ぎりぎり1kmあるかどうかですわね」

「なんとも随分な差だな」


 本社と分社のあまりの差に驚く吉田である。


「ですけど……数がそろえば。天照様」

「何じゃ、李よ」

「道中で使った鏡ですが、あれを大量に作り各地に配置することは出来ないのですか?」

「何故わたくしがそのようなことをせねばならぬ」


 李の問いかけに、天照は顔をしかめるが李は気にすることなく言った。


「この国のためですよ。1つ1つの範囲は小さくても、それを各地に配置すればモンスターを排除できます。そうすれば、皆安心して東に戻ることが出来る。それにそうなれば、日本人は天照様のことを認めるのではないですかねぇ」


(実際にやれば色々煩いことになるのは間違いないがな)


 李の言葉に吉田は内心でそう思う。

 この提案を実行するには当然国ぐるみで行う必要がある。

 そうなれば、必ず「政教分離が」だとか「国家神道の復活だ」などという輩が出てくるだろう。


(せめて、他の神様にもやってもらわなければいかんな)


 が、吉田の心配は杞憂に終わる。


「それは無理ですわね」


 横からマイラが李の考えを否定したのだ。


「どういうことですか?」

「アマテラスさんが自分の神霊力を込めた神具を、分社に配置したのはそこが大地の神霊力の流れとつながっているからでしょう」

「そう言えばそんなことを仰っていましたねぇ」

「つながっているからこそ、継続的に力を送り込め結界と形成できるのですわ。繋がっていない神具は、単なる護符にしかなりません」


 せいぜい身を守る程度の道具というわけである。


「そういうわけじゃ。マイラの言った通りそもそも無理な話なのじゃ」

「残念ですねぇ」

「そうなると、東への帰還は自衛隊がモンスター排除に目途が立たない限り無理ということか」


 李の提案に少し期待していただけに、吉田は思わず内心を口に出してしまった。


「それがじゃな――どうも様子がおかしいのじゃ」

「おかしいとはどういうことかしら?」

「うむ。説明させよう」


 そう言って天照は、自分の第一の神官である老宮司に説明をするよう促した。




「モンスターには滅多に遭遇していない?」

「はい。もちろん、東北や関東への侵攻に比べてですが」


 老宮司はここ数年のことを思い出しながらマイラ達に説明を続ける。


「今の私には分かりますが、この天照様の結界はかつて今と同じ規模のもので御座いました」

「おそらく、わたくしの現出に呼応してここに結界が張られたのじゃろう」

「その通りかと。おかげで、明和町から松阪市の東端まではモンスターも寄り付かず安心して農業が出来ました」

「しかしそれは結界のおかげでモンスターが居なかっただけではないのか?」

「実は、結界の外である松阪市の全域でも最初は農業を行っていたのです。あのころは結界など分かりませんでしたので」


 そう言ってすまなさそうに頭を下げる宮司に天照は気にするでないと諭す。

 彼が神霊力を扱えるようになったのはつい2日前なのだから仕方がない。


「当然その辺りにはモンスターが出没いたしましたが、それでも最初の1年は農業が出来る程度のものでした。見張りを立て、見かければ逃げ出していましたので被害もありません」

「最初の1年とは?」

「翌年からはモンスターの出現位置が東へと迫ってきましたので、農地を縮小したのです」

「宇迦之御魂――いや、稲荷の申しておったことはこれだったのじゃ」


 そう天照が苦々しげに吐き捨てた。


「わたくし自身がここにおらなんだから、結界は徐々に力を失い縮小していたのじゃ。もう少しわたくしの到着が遅ければ結界は町中までは守れなかったじゃろう」

「1匹でも町中に入られていましたら、私どもはおしまいで御座いました」

「滅多に遭遇しなくとも、1回現れれば、な。しかしこれだけでは――」

「ええ。これだけで、滅多にモンスターに遭わないという根拠には弱いですわ」


 未だ懐疑的な吉田とマイラ。

 特に吉田は、かつてのモンスター侵攻を知っているだけになおさらである。


「もう1つあります。実は、私ども残留者は細々とでありますが連絡を取っております」

「どうやってだ!?」


 吉田は思わず詰問調になってしまった。

 長距離無線がほぼ使えないことはハッキリしている。

 電話・ネット回線は、モンスターの手や地震などの自然現象により断絶。

 短距離無線では届かない。

 一体どうやって――


「旅をしておる者たちがいるのです。モンスターを避けながら1人で東の各地を回っているものが」


 帰ってきた答えは意外な物であった。

 その返答に吉田や李のみならずマイラまで首を傾げる。

 マイラの常識である大陸の在り方に照らし合わせてみると明らかにおかしいのだ。


 よほど人の往来の激しい街道ならモンスターもそうそう寄ってこない。

 普通の動物を同じく、大抵のモンスターは人が多いと敢えてそこに寄り付こうとしないからだ。

 逆に襲う類のモンスターが現れれば、国の警備隊や冒険者により即座に討伐されるだろう。

 だが、人通りの少ない間道などになればモンスターに襲われる可能性は跳ね上がる。

 マイラの見るところ、岡山以東の日本の道はこのモンスターに襲われる可能性が高い道と同類であった。

 前回の大阪行では岡山で大規模戦闘があった後だけにモンスターとの遭遇が少なく(それでもコカトリスに襲われたが)、今回は天照が一緒だったけにモンスターとは遭遇していない。

 だが、そこをのこのこ1人で歩いていて無事で済むとは思えない。


「勿論、全員が無事なわけではありません。ここに来たときには怪我を負った者や、亡くなったと聞く者もおります。頻度も年に1回来るかどうかですし……」


 それでも、来た者がいるということは重要である。


「どういうことでしょうかねぇ」

「考えられるのは、ここは大陸よりもモンスターの数がずっと少ないとうことですけれど――」

「ありえん」


 マイラの言葉を吉田が切り捨てる。

 日本で起きたモンスターの大侵攻は、大陸でも例のないものだ。

 それだけ大量のモンスターが日本に流入しながら、大陸によりもモンスターがいないというのはありえないはずである。

 そもそも自衛隊が東の奪還に未だ動いていないは、神霊力の件の他に、東を奪還してもあのモンスター群を前に維持が難しいという予想があるからだ。

 もしモンスターの数が少ないと言うのであれば、自衛隊はまったくの間抜けということになる。

 公安――警察と自衛隊の仲は決して良くはないが、吉田は自衛隊の力を見くびってはいない。


(ここでは、東では一体何が起こっている)


 東日本が放棄されてわずか10年ほど。

 その間に東日本はまるで未知の世界になってしまったのではないか、そんな埒もない予感が吉田を襲っていた。



「――話がそれてしまったな。まあその辺りはおいおい解明しておくとよかろう」

「そうですわね」


 吉田たちの深刻そうな顔に、話を戻すべくそう言った天照にマイラがいち早く同意する。

 そもそも彼女にしてみれば日本の出来事は基本的に他人事なのだ。

 彼らに付き合って深刻ぶる気は毛頭なかった。

 もちろん、この地の不可思議さに興味は覚えているが。


「さてそれでは、さっそく謝礼じゃ。まず、吉田、それに李よ」

「え?」

「はい? 私たちですか?」

「そうじゃ。お主たちにも世話になった故な。受け取るがよい」


 困惑する2人を前に、天照は手をかざすと――


「これで良い」


 と、有無を言わさずそれを行ってしまった。


「……これは、まさか」

「いや、私は帰化人ですので天照様の信仰については――」

「もう手遅れじゃ。返品はきかぬぞ」


 そう言った天照の顔を見て、2人はそれが確信犯なのだと理解した。


「拙いぞ」

「バレないようにしませんと」

「何じゃそんなに嫌なのかえ?」

「そうではないですが」


 何を言っても無駄だろうと、吉田はその愛想の無い顔を更にしかめ項垂れてしまう。


「さて、次はレオとマイラじゃな」

「えっと、僕は1年ほど前に神霊術を授けてもらったばかりですから――」

「分かっておる。その剣を渡すがよい」


 そう言って天照は、レオが腰に下げたブロードソードを指さした。

 その言葉に天照が何をしようとしているのか察したレオは、驚いて主の方を見た。


「よろしいのではなくって?」

「お嬢様この意味が分かっていっているのですか!?」

「勿論ですわ。ありがたく受け取っておきなさい」

「……」


 こう言われてはもう他にどうしようもない。

 本当に良いのだろうかと思いながらレオは鞘ごと剣を外すと、それを恐る恐る天照に差し出した。


「ふむ。思ったより悪くない剣じゃのう」

「おーっほっほっほ! 当然ですわ。私が用意させたのですから」

「じゃが実用的過ぎて面白味がないのう」

「武器は使ってこそですわよ」

「その通りじゃが。どれ――」


 天照は抜身の剣の柄を両手で握り、意識を集中させる。

 その手から、剣へと光が伝わるのが、この場にいる「全員」に見えた。


「――ふぅ。これで良いじゃろう」

「い、いいんですかねこれ」


 天照に剣を返され、いささか震えながらレオは受け取った。


「何、そこまでの代物ではないわ」

「でもこれでこの剣は神具の端くれですよ! 使われ方次第じゃ伝説に名を残す武器に並ぶんですよ!?」


 神の力を宿した武器。

 大陸にもそういた物はいくつもあるが、その所持者の多くは高名な冒険者や騎士であったり、名高い神官、或いは王侯貴族などだ。

 そういった武器の中には、伝説に名を残す物すらある。

 決して、冒険者を始めて1年程度の駆け出しが手にして良いものではなかった。


「せいぜい武器に振り回されない様になさいなレオ」

「肝に銘じます」


 戻ったら他の剣を買おう。こんな剣、怖くておいそれと使えないぞ――そう決心するレオであった。


 そして残るはマイラだけになった。


「さてお主じゃが……」


 そう言いながら天照はマイラを頭からつま先までを何度となく見る。

 以前彦島にて同じようなことをした天照は、マイラに王者の匂いがするなどと言ってこの旅にマイラを巻き込んだ。

 その時感じた感覚は間違っていないのだが、


(どうやらわたくしが感じたのはそれだけではない様じゃのう)


 気づいたのは先の京都での出来事だ。

 あの時マイラは1匹の妖狐に相対していた。

 その時、あの九尾の術により神霊力を操れなかった公安2人は愚か神霊力を操れるレオまで幻覚に呑まれてしまっている。

 

 その大型モンスタークラスの九尾の術に、マイラはかかっていない。


(神霊力がそれほど大きいというわけではないのう。どんなカラクリがあるのやら)


 そう思って、試にマイラに神霊術を与えようと手をかざし力を込める。

 が、


「くっ!」

「あ!」


 パチンと誰も何もしていないにも関わらず天照の手が弾かれた。


「天照様!?」

「大丈夫じゃ。神霊力が弾けただけのことよ」


 慌てる宮司を余所に天照は至って冷静であった。

 マイラの方もこれといって慌てた様子はない。

 おそらくこうなるだろうと分かっていたのであろう。


「……武器に与えるのも止めておいた方がよいか?」

「お好きに。お試しになります?」


 天照の問いかけに、マイラはどうともはっきりした答えをしない。


(武器の問題ではないのじゃろうな)


 天照の見るところ、彼女の使う大鎚はたんなる鎚でしかない。

 おそらくカラクリはそこではなく彼女自身なのだろう。


「……ま、よいわ。ほれ、お主にはこれを授けよう」


 結局、考えてもしかたないと天照は判断して、当初から予定していた通り用意していたお守りをマイラに渡した。


「厄除けじゃ。持っておれば有象無象の魔物は寄ってこぬわ」

「あらあら。それではまた随分楽な旅が続いてしまいますわねぇ」

「そのほうが面白かろう」

「? どういう意味かしら?」


 天照の言葉にマイラが首を傾げる。


「何、ちょっとした予言のようなものじゃ」

(お主が力を見せぬ方が面白いことになりそうじゃ)


 と、ある者を見ながら天照が内心でほくそ笑む。

 ちょっとした罪のない悪戯であった。


「さて、わたくしの用件はこれで終いじゃ。わたくしはここに残らねばならぬ」

「それでは、ごきげんよう」

「おい!」


 あっさりさよならをしようとするマイラに、思わず天照がツッコミを入れる。


「もう少し惜まぬのかや?」

「冒険者にとって出会いと別れは日常茶飯事ですわ。それを毎度毎度惜しんでいてはやっていけませんことよ」

「あ~分かった分かった。まあまた会うこともあろう。達者でな」

「ええ。それでは」


 そうして天照は、宮司とともに神宮へと帰っていく。


 もはやマイラにとってここに残る理由は何1つなくなった。


「それでは、参りましょうか、目指すは、名古屋とやらですわ!」


前回もそうですがクエストの1回目はいつも出発までですね。


色々な情報を少しずつ出していってます。

第3章の終わりに向けてもそろそろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ