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冒険者日本へゆく  作者: 水無月
第2章 冒険者ギルド開設編
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第48話 大規模クエスト『八岐大蛇討伐』1

 冒険者の行うクエストは、必ずしも戦闘が絡む物ばかりではない。

 例えば町の中で行う作業や研究への協力や調べ物でなどがそうだ。

 とは言え、冒険者としてやっていく以上は安全圏での活動だけでは済まされない。そして一度町の外に出てしまえば、戦いと全く無関係で済ますことはできないだろう。

 大陸にはモンスターと称される獣がいたるところに生息し、生息地に近づく人間に襲い掛かるからだ。

 モンスターの大半は積極的に人間に襲い掛かるわけではないため、町と町を繋ぐ街道などは比較的安全であるが、そういった場所には野盗などが存在する。またモンスターの中には人間を好んで襲う種もいるためどこに行こうと絶対の安全は保障されない。

 この世界において、町から町の移動は大変危険が伴うものなのである。

 冒険者ギルドは神霊術を使える=神霊力を操れることを冒険者の条件としていが、これこそが、モンスターと同じ土俵で戦うための条件であるからだ。


 当然の話であるが、最初から戦闘系クエストを主とする冒険者と非戦闘系クエストを主とする冒険者とでは色々と違いが出てくる。

 その最たるものは装備であろう。

 戦闘を主たる目的としない冒険者にとっては、戦闘は不測の事態である。それがモンスターであれ野盗の類であれ。

 その為、相手を倒すことよりも無事に逃げ出すことが目的となる。必然的に皮革製の防具などの軽装が好まれた。ブリガンダインなどの様に、皮革製品に金属片を打付けた装備などもあるが、それ以上に重い装備――チェインメイルなどですら倦厭されており、冒険者によっては鎧の類を一切装備せず丈夫な服にマントという者すらいた。

 武器も重く不便な長物は好まれず、剣や短剣などが良く使われる装備だ。


 では戦闘系クエストを主たる生業にする冒険者はどうか。

 結論を言ってしまえば、こちらもガチガチに防御を固めた重苦しい装備は好まれない。

 神霊力を操ることでモンスターが他の生物より優位な部分を打ち消せても、本来の生物としての力の差が人間とモンスターにはある。

 重苦しい鎧でノロノロ戦っていては勝ち目がない。モンスターの攻撃を受けずに倒すという攻撃重視の戦い方が基本であり、それに合わせた装備が選択されていた。

 防具は胸当や脛当てなど急所を重点的に守る部分鎧が多い。皮革製の装備を好む物もいるが、大抵は金属製である。これは、ある程度はモンスターの攻撃を受けることを想定しているためだ。

 そして武器は、槍やハルバードなど相手との距離を取れる長物や、鎚や斧といった一撃で相手に大打撃を与えられる物が好まれる。


 とは言え、あくまでこれらは基本の話だ。例外という物は常に存在する。

 例えば、戦闘系クエストの中でも人間同士の戦い――戦争に傭兵として参加する冒険者たちは全身鎧を装備した重装歩兵として参加することが多い。

 また、対モンスターであっても神霊術によって己の力を強化出来る冒険者は重装備をする者もいる。

 例えば、タンゲランの冒険者ギルドを拠点とする猫神の加護を受けたある冒険者。彼の使う神霊術は肉体強化であり、普段は傭兵としてフルプレートアーマーという重装備で戦争に参加しているが、偶に対モンスター討伐などに参加する際もそのままの装備だ。

 動きに支障がないとなれば、防御力が高いに越したことはない。

 また、鎧自体に神霊術を施し軽量化を図る手段も存在する。ただし、軽量化という一種の重力制御の神霊術を使う神官はあまりいない上に、作成に時間がかかることから高額でありおいそれと手が出せないのであるが。



 今回の大規模クエスト参加にあたりコジモは、普段装備しているワックスで処理をした硬皮革製の鎧ではなく、金属製の部分鎧を選んだ。

 日本に渡る際に持ち込んでいたのだが、日本で戦うモンスターが小型ばかりであったため今日までギルドの貸倉庫に眠っていた物を引っ張り出してきたのだ。


(さすがに大型モンスター相手に軽装は自殺行為だな……)


 先日、久々に中型モンスターと戦ったが相手の攻撃を警戒し過ぎて思い切った戦いができなかった。

 強力なモンスターの一撃を貧弱な装備で受ければひとたまりもない。せめて一撃で致命傷は避けられるだけの装備が無くては強力なモンスターとは戦えない。

 少なくともコジモ程度の実力ではそうだ。



 島根県仁多郡奥出雲町。

 この町に流れる斐伊川の最上流部に、三成みなりダムはある。

 日本初のアーチ式コンクリートダムであり、このダムの水により水力発電が行われている。転移により中国地方から人が大幅に減った現在でも、ここは近隣の電力需要を賄う重要施設の1つとして活動し続けていた。

 海外からの資源供給が激減した日本にとって、水力発電は日本の発電を支える要なのだ。


 発見されたヤマタノオロチは、奥出雲町の山間部を移動しており現在はこの三成ダム西の山間に潜んでいる。

 このことが、今回自衛隊が迅速にその排除に乗り出した背景にあった。

 推定体長20mを超す巨大生物であるヤマタノオロチ。それがもしこの三成ダムを襲えばどうなるだろうか。

 建造より70年を経て老朽化したダムではきっとひとたまりもないに違いない。

 ダムが破壊されれば重要な発電施設が失われるだけでなく、決壊したダム湖の水は下流部に甚大な被害を生むだろう。

 以前に下関駐屯地の第18普通科連隊が、竜王山のゴブリン巣の速やかな排除を決めた時も、近くに深坂ダムが存在したことが決断を早める理由となった。

 深坂ダムは発電を行っていないダムであるがこれを破壊されることを危惧したのだ。

 こうした事例からも、中国地方各地に点在するダムは、現在自衛隊にとって優先して防衛すべき重要施設の1つだということがよく分かる。


 今回、西中国地方――島根・広島・山口を担当する第3師団も即日、ヤマタノオロチの排除のため行動に移ったのだが、不運が重なった。

 まず火力の不足。

 現在陸上自衛隊が保有する自走砲は、モンスター侵攻への備えからその殆どが第4師団と第5師団――旧第14旅団の淡路島の部隊に配備されている。特に戦車は第4師団にしかない。

 もちろん応援を要請することは可能であるが、現在第4師団は大型モンスター・ベヒモスとの戦闘を控え援軍を出す余力はなく、淡路島から呼ぶには時間がかかる。

 これにより、第3師団は強力な火力である自走砲がほとんどない状態で実質的な大型モンスターに挑まねばならなくなってしまう。

 さらに場所も悪かった。

 ヤマタノオロチの現在いる場所は山間部であり、車両が入れるほどの道が無い場所なのである。

 周囲には国道314号・県道270号そして町道などが走っているが、その地点からでは山影となり砲撃が難しかった。

 こうなると、残された手は隊員が対象付近まで接近し直接攻撃するしかない。

 そう考えた師団司令部だったが不幸は更に続く。


 出現したヤマタノオロチの周辺に、モンスターが集結し始めたのである。

 これが自衛隊も既に掴んでいる習性であるが、ある種のモンスターはより強力な種を中心として群れる傾向があった。

 小型モンスターのゴブリンやゴボルトを、中型モンスターのオークやミノタウロスが従えるという事例がかつてのモンスター侵攻で確認されている。

 中型以上がいなかった中国地方でも、強力な種や特異種を中心にモンスターが群れることがあった。

 今回は実質的な大型モンスターの出現だ。

 小型モンスターはもちろん、日本に新しく出現した日本固有種のモンスターも集結し始めている。その中にはかつて中国地方にはいなかった中型モンスターもいた。

 中型モンスター以上には隊員が持つ小銃では効果が薄い。

 無反動砲や迫撃砲であれば十分効果はあるだろうが、迫撃砲は目の前の相手に使える物ではなく、そもそもどちらも対ヤマタノオロチ戦に使わなくてはいけない。


 こうした事情から、第3師団、防衛省、そして日本政府は、対ヤマタノオロチ戦への冒険者の協力をギルドへと依頼したのだった。



「大丈夫か、カレル?」

「いや、歳は取りたくないね。久々に全身鎧なんて装備したけど重くっていけない」

「そりゃ体がなまっているだけだ」


 先を行くコジモの言葉に、全身鎧を装備したカレルはフェイスガードを持ち上げ苦笑する。

 カレルの装備する全身鎧は、中世地球のヨーロッパにおいてマクシミリアン式と称される溝付甲冑フリューテッドアーマーであった。

 プレートアーマーより鉄板を薄くすることで軽量化を図り、落ちた強度を溝を付けることで補った甲冑である。

 当然ながらこの世界ではマクシミリアン式などという名は付いていないが、地球のそれとほぼ同じ設計思想・構造だ。人間の考えることなど世界が変わってもさして変わらないということだろう。


「それでどうだい。今のところモンスターのいそうな気配は?」

「さっきからちょろちょろ小型モンスターの影は見かけるが襲う気配はないな。大方どっかで待ち構えているんだろ」

「そうか……例のヒドラか、それとも中型モンスターか。知性の高い奴がいるんだろうね」


 そんな会話を交わしながらも、コジモは愛用のハルバードを手に周囲を警戒しつつ山道を進んでいく。

 その後ろを、バスタードソードを手にしたカレルが続き、更にその後ろから自衛隊員たちが数名、分解した迫撃砲を運びながら付いてきている。

 ヤマタノオロチへは複数のルートに分かれ包囲する予定なのだが、現在彼らが通っているルートは比較的道がしっかりしており歩きやすい。

 とは言え山道には変わりなく、そんな道を口では色々と言いながらも全身鎧で登るカレルの姿を自衛隊員たちは感嘆しながら見ていた。



「……終わり」


 両手に持つ双剣についた血を振り払いながら、メルヴィ・ヤロネンは呟くように言った。

 足元には輪切りにされた大蛇の死体が転がっている。

 地球のアナコンダに類似した蛇のモンスターだ。音もなく獲物に近づき背後から襲い掛かる習性を持つ。

 今回も山間の獣道を進む一行の背後に近づいてきたのだが、周囲を警戒していた自衛隊員の1人が襲い掛かる前に気づき事なきを得た。

 小銃で応戦しようとした隊員たちだったが、メルヴィはそれを止めると愛用する2振りの剣を抜き、踊るような動きで瞬く間に蛇を輪切りにしてしまったのだ。


「大丈夫か?」

「問題ない……」


 先頭を進むメルヴィのパートナーであるクスター・マッティが声をかけると、そう返事を返すもどこか表情が冴えない。

 それに気づいた隊員の1人が声をかけた。


「何か気になることがありましたか?」

「……大型モンスターには特に同種のモンスターがよく従う」

「それで?」

「ヒドラなら蛇……」


 そう言って、たった今自分が惨殺した大蛇を指さす。


「なら、この先も……蛇は何がいる?」

「え? 何って、どういうことでしょうか?」


 言葉の足りない質問に隊員が思わず聞き返すと、メルヴィは不機嫌そうな顔をしながら言葉を重ねる。


「日本固有種のモンスター」

「ああ、妖怪ってことですか」


 何を気にしているのかはそれで分かった。

 しかし、蛇の妖怪と言われてもすぐには出てこない。


「おい、何か知っているか?」

「蛇の妖怪かよ……ツチノコ?」

「それはUMAだろ。ん~思い浮かばないな」

「メジャーな蛇の妖怪っていないよな。それこそ、オロチくらいじゃねえか?」

「蛇骨婆ってのがいたけど、ありゃ蛇の妖怪じゃないな」

「そう……いないなら、いい」


 呟くようにそう言ったメルヴィは剣を鞘にしまうと、再び獣道を先に進み始める。

 隊員たちはあっさりした彼女の態度に顔を見合わせ苦笑すると、その後を追う。が、すぐにその足が止まった。

 長柄の先に巨大な斧が付いた武器――バルディッシュを構えたクスターと、彼と共に先頭を進んでいた隊員が小銃を構え、その場に止まり前方を警戒している。

 メルヴィも、今鞘に収めた剣を再び抜き放つ。

 後続の隊員たちが何事かと前方をよく見ると、


「赤い……蛇?」


 蛇、と断言できないのも無理はなかった。

 普通蛇に足などないが、目の前のソレには4本の足が生えている。

 それを除けまさしく蛇。真っ赤な蛇なのであるが。


「初めて見る。日本固有種というやつかな?」

「……知らない?」


 クスターのそばまで寄ったメルヴィが、小銃を構える隊員にそう尋ねる。


「いえ、日本にこんな巨大な蛇はいません」


 尋ねられた隊員はそう断言する。

 事実、日本で発見された最大の蛇でも3mを超える物はいない。

 だが目の前のそれは、とぐろを巻いているためハッキリとしないが3mは確実に超えていると思われた。

 彼の知識にはないが、これもれっきとした日本固有種のモンスター、七歩蛇と言われる毒蛇の妖怪だ。全国区でメジャーな妖怪ではない。

 もっとも、彼にその知識があったとしても気づいたかどうかは疑わしい。なぜなら、七穂蛇は10数センチの小さな蛇とされるからだ。

 ヤマタノオロチが伝説よりずっと小さかったのと逆に、どうやらこの七歩蛇は伝承よりずっと大きいらしい。

 この差異の意味するところは、日本に現在出現している固有種が、日本の伝説・伝承のソレとは同一ではないという証左だ。

 が、冒険者や自衛隊がそれに気づくのはもっと後のことである。


 七穂蛇は、蛇特有の鳴き声を発しながら、時々舌を出しこちらをジッと見ている。


「……危険」

「同感だ」

「蛇のあの鳴き声は、獲物を前にした時に発すると聞いたことがあります」

「なるほど。で、その獲物というのは何のことだろうかね」


 クスターの言葉に思わず苦笑する。

 さて困った、と苦笑を浮かべたまま隊員――この分隊の分隊長は考えた。

 無駄な戦闘は避けたいが、ルートを変える時間的余裕もない。何より目の前の蛇は鎌首をもたげ完全にこちらを獲物として捉えている。戦闘回避は難しいだろう。


「なんか、あの赤い色。如何にも警戒色って感じですね」

「毒とか吐いてくるんじゃないですか?」


 後ろから分隊員たちの声がする。

 それぞれ、無反動砲を持っているがそれは対ヤマタノオロチ戦で使うべき物だ。

 ここで使用するわけにはいかない。


「取りあえず小銃で攻撃してみます。効かない様であれば、私は牽制に回りますのでお2人に後はお任せします」

「心得た」

「……それで」


 作戦開始の予定時刻が迫る。

 道を邪魔する物を排除すべく、分隊長は銃を構え引き金を引いた。




「なかなかいいわね、この国の軍隊の装備って」

「そうかい? 防御力は低そうだけどね」


 共に山道を歩く自衛隊員の装備を見ながらそんな感想を漏らすビアンカに、エヴァルドは首をかしげた。

 今回のクエストにあたって、彼らは特に変わった装備はしていない。

 例えば、ビアンカは何時もの軽金属製の胸当てに革製の腕当てと脛当て。流石に山道を進むとあって、普段は露出させている肌を長袖の服で隠しているが変わっている点はそこだけだ。

 このクエストを受けた冒険者の中では最も軽装であろう。

 だが、その彼女の装備と比較しても、この日本の軍の装備は貧弱に見える。


「装備の目的が違いますから」


 エヴァルドの言葉に、近くにいた隊員が説明する。


「我々の元いた世界では、この銃の発達で鎧が無意味な物と化してしまいました。その為、あなた方から見れば防御力などないこういった装備に代わっていったのです。この服に求められているのは動きやすさと迷彩ですね」

「そうそれよ! その考え方が私に合っているのよ」

「なるほど、確かにビアンカならそうだ」


 その装備から見ても分かる通り、ビアンカは相手との正面からの殴り合いを想定した戦い方はしない。

 軽装で相手をかく乱するような戦い方が主だ。

 またパーティー内では斥候のような役割も果たす。

 そのため、自衛隊員の着用する迷彩服は彼女の思想に合致した物なのだ。


「それって売ってないのかしら?」

「残念ながら。以前ならともかく、今は難しいでしょう」

「いいわ。これが終わったら探してみるわ。それに、流出品の1つや2つあるでしょう」


 燃えてきたわ! と意気込むビアンカに、話していた隊員は気の毒そうな視線を送る。

 転移前ならば、払い下げられた品やPX品が一般に流れることもあったが、物資不足の現在それは難しい。

 運が良ければ手に入るかもしれないが。


「はぁ……」


 意気込むビアンカを横目に、隊員の表情に気づいたエヴァルドは深く溜息をついた。



 迷彩服3号の上からセラミックプレートが挿入された防弾チョッキ。足は鉄板入りのブーツ。頭に被るは88式鉄帽。手にするは89式5.56mm小銃。

 隊員によっては、分解した迫撃砲や無反動砲を持つ者も居る。

 ヤマタノオロチを包囲するため、山道を進む一行は今、


「グオオオオオオ!」


 1匹の青鬼に率いられたゴブリンの集団に襲われていた。

 子どもの胴ほどはありそうな鬼の巨腕。そこから生み出される一撃はまともに喰らえばひとたまりもないだろう。


「遅い!」


 しかし、己の背丈よりも巨大な剣を構えたまま、その青年は軽々とその一撃をかわす。

 そのままその剣を鬼の足に叩きつける。


「チッ!」

「グワアアアアアア!!!」


 青年の舌打ちと、鬼のうめき声が重なった。

 さすがに中型モンスターに分類される存在である。見事に足を捉えた一撃であったが、断ち切るまでには至っていない。

 これが神霊力を持たないただの生き物であればスッパリと足は切り落とされていたはずだ。


「意外に硬いじゃないか。だが――」


 大きく後ろに跳び下がり、痛いよなと獰猛な笑みを浮かべつつ鬼を見る。

 切り落とされてこそいないものの、剣は深く足に食い込んだのだ。まともに歩くのも難しいだろう。


「さあ来いよ。デカブツ」


 そう言いながら自分から鬼へと向かって駆け出す。

 痛みにわめきながら、鬼は迫る敵へと腕を振るう。

 鬼の鋭い爪が青年を捉えた――かに見えたが、青年冒険者の金の髪がハラリと散っただけだった。

 モンスターと闘い慣れた彼にとって、動くことの出来ない相手の攻撃など、紙一重で交わすなど造作もないことだ。

 鬼の拳を避けつつ、グルリと回転し遠心力を込めた大剣を、


「効くぞこいつは!」


 思いっきり鬼の延髄に叩き込んだ。


「!?」


 こんなむちゃくちゃであるが故に強烈な一撃を受けてなお、首が飛ばない鬼の耐久力には感嘆するものがあるが、さすがにこれほど巨大な鉄の塊を急所に叩きつけられては、体の構造上耐えることはできなかった。

 意識を飛ばした鬼はそのまま地にひれ伏す。


「終わりだ!」


 剣を持ったまま空へ飛び上がると、剣を下に向ける。

 青年の体重、防具の重さ、そして剣その物の重量。それらが一体となった切っ先は、鬼の体に深々と突き刺さった。


「おおお!」


 周囲の自衛隊員から声があがる。

 小銃も物ともしなかった鬼が、たった1人の剣士によって倒されたのだ。当然の反応であろう。

 しかし隊員たちもただ観戦していたわけではない。周囲には鬼が率いていたゴブリンもいるのだ。

 銃の効果が薄い中型モンスターと違い、小型モンスターであるゴブリン退治は自衛隊員にとって慣れたものである。

 手にした小銃で、迫るゴブリンを――或いは逃げ出す物を残さず討ち取っていく。


 そんなゴブリンを掃討する隊員達に混じって、


「どうしてこうなるのよー!」


 防衛省統合幕僚監部情報本部冒険者対応室所属佐保登紀子2曹はゴブリンに小銃の弾を叩き込んでいた。




 山奥に潜むヤマタノオロチに対し、包囲する形で進む冒険者と自衛隊員たち。

 途中ヤマタノオロチの下に集結しだしたモンスターに遭遇しながらも、1人の脱落者も出さず目的のポイントに彼らは到着した。


「……」

「こいつは……」


 自衛隊員たちはもちろん、歴戦の冒険者たちも思わず息を呑む。

 昼だと言うのに霧立ちこめるその奥にそれはいた。


 蛇系モンスターヒドラ種特異種。個体名ヤマタノオロチ。


 ついにそれが姿を現したのである。


時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

年度替わりで多少忙しかったことと、どうもうまく書けずに間が空いてしまいました。

どうにか書き始めましたが、うーん……どんなものでしょうか?

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