表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者日本へゆく  作者: 水無月
第2章 冒険者ギルド開設編
54/147

 閑話 逃避行北海道

 登別での戦闘と撤退。倶知安駐屯地部隊の壊滅。北と東より道南へと迫るモンスターたち。

 モンスター侵攻から一夜明け、事態を把握した政府は非常事態宣言を発動。併せて全自衛隊に事態への対応を指示した。


 喫緊の課題は北海道民の保護と本州への避難である。

 非常事態宣言と共に出された避難指示により、未だモンスターに襲われていない地域での住民移動が始められていた。

 朝から各自治体の職員及び警察消防などにより避難誘導などが行われているが遅々として進んでいない。住民の反応が真っ二つに割れていることが原因である。

 片やパニック状態となり整然とした避難行動を阻害する者。片や事態を軽視し避難指示に従わない、あるいは従ってもどこか危機感の薄い者。

 この背景には情報不足があった。

 転移後のエネルギー・資源問題等は、情報産業にも深刻な影響を与え、情報という物の動きがきわめて鈍くなっている。

 その為、モンスターという地球には居なかった存在への反応が分かれたのだ。

 パニックに陥った者は今にでも自分が襲われると考え混乱し、逆にたかが動物だと侮った者には危機感がない。

 実際のところ、モンスターは道なりに沿って移動しているため進路から外れた町に住む者がすぐに危険に晒されるわけではない。また既に1つの駐屯地の戦力が不運と不手際が重なったとは言え壊滅したのだからたかが動物だと侮ってもいけない。

 本来は避難誘導する側が正しい情報を伝え、これを導かなければいけないのだが、その誘導する側も正確な情報がなく同じように考えが割れてしまっていた。


 続いて北海道からどうやって本州へと避難するかという問題もある。

 方法は3つ。鉄道を使い青函トンネルを通る方法。港から船を使う方法。航空機で空を飛ぶ方法。


 この内航空機による脱出はあまり現実的ではなかった。

 転移後、航空機の使用は制限されており当然ながら燃料も他が優先されている。

 現在道内にある航空機が片道移動。東日本各地の空港の燃料をかき集め、いくつかの航空機を往復させてしまえば、おそらくそれで終わりだ。

 そもそも航空機では大量に人を運べない。

 結局航空機には搭乗可能な病人などが優先的に乗せられることとなった。


 次に船による脱出。

 船ならば、船種次第でかなりの人数を乗せることが出来る。客船などでなくても良いのだ。積荷を降ろした貨物船やなんならタンカーの甲板でもよい。取りあえず本州まで移動する間我慢すれば問題ない。

 またグルリと海に囲まれた北海道の地形のおかげで、各地に港もある。普通に考えれば船で海に出るのがもっとも良い手段だ。

 しかしここでも転移が足を引っ張る。

 転移の際、港に停泊していたすべての船は港から消えていた。その後かなりの数の船が沖合や近海で発見され回収、或いは自力で帰港したが、結局発見出来なかったり回収できなかったりした船も多数ある。今は転移前に比べ船の数が足りない。

 このため現在ある船舶での激しいピストン輸送を行わなければいけないと予想された。

 不幸中の幸いは、食糧確保や物資の流通を止めないために、優先的に燃料を供給されていたため、航空機と違い現時点での燃料問題がないことである。

 北海道各地の港では慌ただしく出港のための準備が進められ、東北各地の港や漁協、海運会社には政府から協力要請が伝えられていた。


 最後に鉄道だ。

 幸い北海道と本州をつなぐ青函トンネルへは北海道各地の鉄道がつながっている。本数が少ないことが欠点だが臨時列車を多数出せば事足りるだろう。

 津軽海峡下を通る青函トンネルは、安全上やその他の理由から普段は単線として利用しているが実際は複線であり、この複線をフル活用し本州の車両も使いピストン輸送すればかなり効率的に人を運べるはずである。

 この鉄道こそが脱出の大本命と見なされた。



 初動のまずさを挽回するため、政府は道民避難の手段を整えるべく矢継ぎ早に指示を出していく。

 同時に、本州での受け入れ態勢も整えられる。

 転移前の北海道人口は約560万人。転移により最大人口地帯である道央の大部分および道北・道東が消失し、転移時に死亡者も多数出たため大幅に人口は減っているがそれでも50万人以上がいる。

 モンスターに襲われた者、避難が遅れモンスター活動圏に取り残された者を除いてもまだ30万人はいるだろう。

 これら避難民の当面の避難場所を確保するため、政府は東北の各自治体に公共施設の開放や空き家の提供を指示。また旅館・ホテルでの受け入れ要請を出すなど対応に追われていた。

 この辺りは規模こそ違えども大災害時の対応の延長線上である。今後をどうするかという問題は出てくるが、取りあえず今の時点の対応としては間違っていなかった。


 しかしそう上手くいかないのが世の常である。

 「風が吹けば」の喩えではないが物事同士は常に連動していおり、政府のこの住民避難指示が思いもよらぬところに影響を与えた。

 自衛隊である。


 北海道への援軍派遣を指示された東北方面部隊。特に青森を本拠地とする第9師団であったが、どう援軍を送るかに頭を悩ませていた。

 まず輸送方法。本来なら船や鉄道を使い車両・兵員を送るのだが、現在そのどちらも住民脱出のためにフル稼働ピストン輸送中だ。自衛隊の車両を積み込みや、運搬用貨物車の接続時間すら惜しいところである。

 それでも輸送できないわけではないが、ある程度送る戦力を選別する必要が出ていた。

 そうなると次の問題として、どの程度の戦力を送り込めば良いのかということがある。

 実際にモンスターと戦った部隊は壊滅しているか、現在も交戦中で情報が断片的にしか入ってこないためその辺りはハッキリしない。

 また現地の避難状況も正確に分かっておらず、下手をすれば戦車隊を送り込んでみたが道路渋滞で移動もままならないという可能性もある。

 時間が無い中、師団司令部は取りあえず隷下の第5普通科連隊を援軍として送り出した。


 この判断は正しくもあり誤りでもあったことを後に関係者は理解する。


 さて、現在北海道内で無事な自衛隊戦力は、陸上自衛隊が函館駐屯地と撤退した幌別駐屯地の部隊のみ。海上自衛隊は函館基地と余市防備隊。航空自衛隊が八雲分屯基地と奥尻島分屯基地である。

 この中で実質的戦力とみなされるのは陸上自衛隊だけである。

 航空自衛隊の2分屯基地ではモンスターに対抗する有効な手立てがない。せいぜい上空からモンスターの動きを偵察・監視する程度が関の山だ。

 海上自衛隊は北海道民の本州避難に当たるよう政府から指示されている。

 ただ余市防備隊は余市町が小樽の西隣ということもあり、既に小規模モンスター群に市内へ侵入されこれの対処に当たっている。数が少ないため防備隊の装備でも撃退出来ているが、これ以上続けて侵攻があれば守りは難しいだろう。


 さて肝心の陸上自衛隊だが、まず幌別駐屯地の部隊は昨日の敗走でかなり被害を出している。

 現在は室蘭市と登別市の境界付近に防衛線を築き、再びのモンスター侵攻に備えていた。

 市民たちは、鉄道および自動車で内浦湾に沿って道南へ目指す者たちと、室蘭港から船に乗ろうとする組とに分かれ脱出を図っている。

 鉄道・車の方は、倶知安駐屯地を抜いたモンスター群がいつ南下するか分からず、その陰におびえながらの移動。一方室蘭港からの脱出を図る市民は、自前の移動手段が無い者たちが多く仕方なくすぐ北のモンスターに怯えながら船の順番を待っている。

 どちらも酷く人々の精神に圧迫を与えて、不安を増大させていた。

 防衛線を守る幌別駐屯地の自衛官たちは、そんな人々を背に守りつつ決死の覚悟で防衛線にてモンスターを待ち構えている。


 函館駐屯地では、駐屯する第28普通科連隊を北へ向ける移動させることを決めた。

 第9師団からの援軍を待ちたいところであったが、北からのモンスターの動向がハッキリしない上、主要道路では渋滞がおきつつある。

 今はまだ道交法を律儀に守っている人々も、いざ危険が近づけばそんなわけにもいかないだろう。反対車線まで車で埋まれば移動すらままならなくなる。その前に移動してしまうつもりだった。

 連隊本部は部隊を長万部町にまで進めモンスターの動向を探るつもりであった。その頃になれば偵察機がモンスターを確認しているであろうし、また北から避難してきた住民の情報も手に入る。

 もしモンスターが国道5号を南下しているのであれば、そのまま長万部町でモンスターを迎え撃つ。或いは倶知安町を過ぎニセコで進路を変え南東洞爺湖方面に向かっていれば先回りし迎え撃つつもりであった。

 渡島半島を西回りする恐れもあるが、今のところモンスターは最短距離で北から南へ、東から西へ移動する傾向がある。事実小樽から西へ向かい余市町に入った集団は小規模である。

 倶知安町に入る前に西に分かれた可能性もあるが、その手の情報は現時点ではなく、ただでさえ少ない戦力を分割するわけにはいかなかった。

 モンスター侵攻2日目。函館駐屯地を出た連隊は、一路長万部町を目指し北上を始めた。



 パニックに陥る者と懐疑的な者とで半々だった道民であったが、時間が経つにつれ前者の割合が徐々に増えてきていた。

 これが実態のないものならともかく、事実として脅威は存在するのだ。時間が経てば経つほど情報が入ることもありパニックの輪がどんどんと広がっていく。

 不思議なことに、この手のパニックは信じられない速さで広がるものであり、また飛び火する。

 まだモンスターは道南でその姿を見かけられてすらいないというのに、最大のパニックを起こしたのは北海道で一番安全圏にある函館であった。

 市内は大混乱となり、港や空港には人が押し掛け、列車は都内の通勤時もかくやというほどのすし詰め状態。正確なところは不明であるが、乗車率は300%近くにまで及んだ。

 更にそこに北から逃げてきた人々が加わるのだから混乱は収まる気配がない。

 到着した第9師団の援軍も、どうにか駐屯地にまでたどり着いたものの迂闊に動けない状態であり、出発した部隊への援軍より先に市内の市民誘導に駆り出されることとなる。



 函館を出発し長万部に向かう連隊は約100kmの道のりを進み夕方前には長万部中心部に到着。

 町内中学校のグランドに本部を設置すると情報収集と整理に乗り出した。

 この長万部町中心部は北からの国道5号と東からの国道37号及び道央自動車道が交わる地点である。モンスター南下しようと東進しようと対処がしやすい位置だ。

 両国道及び高速道路は避難する人々の車で満ちていた。

 このご時世でよくガソリンを確保していたなと思える光景だが、中にはやはりガス欠を起こす車や、事故を起こす車もあり各地で渋滞を引き起こしている。

 連隊もここまで来る途中何度もそういった場面に遭遇しており、途中途中で隊員にその対処に当たらせながらの移動であった。

 移動の遅れも懸念されたが、渋滞を放置し避難が遅れれば本末転倒であるため放置できなかったのだ。

 予定より遅れての長万部到着であったが、今のところモンスター襲来の気配はなかった。


 空自の偵察によると、モンスター群はニセコ町付近に散開しているとのことであった。

 北から避難してきた藍越町民からは、一部がモンスターの姿を見かけたという情報があっただけで大群はまだ見ていないという。

 これに対し連隊本部ではモンスターが休息を取っているのだろうとの予測がなされた。

 モンスターの生態は不明であるが、生き物である以上休息なしの行動は取れない。昨日の北海道侵攻からここまでがむしゃらに暴れ続けようやく息切れしたのだろうということだ。

 室蘭にいる幌別駐屯地の部隊からも、モンスター群が足を止めたとの連絡があったこともこの推論を裏付けていた。

 連隊本部では今後のモンスターの動きに関して様々な推測がなされた。

 このまま国道5号を通り南下するのか。そのまま東、虻田郡を抜け洞爺湖方面に出るか。ニセコと藍越の町境から南に延びる道道32号を抜ける可能性も高い。

 中にはこのまま引き返すのではとの楽観論も出たが大勢はそれに賛同しなかった。

 推論はいくらでも出るがどれも決定的な説得力をもたない。

 何しろモンスターに関する情報がほとんどないからである。

 せめてモンスターの動きが逐一分かればと空自からの情報に期待を寄せるが、空自もモンスターの監視がだんだんと難しくなってきていた。


 転移後は官民問わず航空機への燃料供給は後回しにされていた上に、自衛隊そのものへの補給も後回しにされていたためである。

 転移により周辺国家が消え、一番近い大陸でさえもずっと南。しかも未だ帆船を使った航海技術しかもたない相手だ。脅威の度合いとしては低い。

 何か目に見えた脅威でもあれば話は別であるが、この現状では自衛隊の補給を優先させる理由がなかったのだ。燃料その他物資が民間消費分を優先させられていた。

 経済が死ねば日本は終わりなのであるからこの判断は間違ってはいない。その時点でモンスターの存在及び脅威を予測するなど不可能であるため、さすがにこの点で政府を批判するのはお門違いであろう。

 だが、結果としてその判断が裏目に出ていた。

 燃料が限られる中では偵察飛行の回数も抑えねばならない。本州の空自も事情は同じであるため、応援は期待できないだろう。

 その上、モンスター群の付近にはモンスターと思われる飛行生物も確認されている。

 小樽でレポーターを襲った鳥の仲間や、違う種類の巨大な鳥。更には羽の生えた動物の様な物まで確認されている。

 時間を置くごとに数を増やすそれらを刺激しないよう飛行しながら偵察を行っている為、徐々に行動が制限され始めているのだ。


 満足な情報が得られず、また戦力を分散するわけにもいかず、連隊本部ではこのまま長万部に留まり避難民の誘導などを行いつつモンスターの動きに備えることとなった。



 結局2日目はモンスターに動きはなく、翌3日目もこう着状態が続く。

 北海道民の脱出を図る日本側にとってはありがたい時間であった。

 このままにらみ合いが数日続けば脱出は無事終了する。後は集結させた自衛隊の戦力でモンスターを駆逐すれば良い。

 すでに青森へ向けて、第6師団が移動を開始している。その他の方面隊もいつでも移動を開始できる状態にある。

 モンスターは市民にとって脅威ではあるが、態勢を整えた自衛隊であれば十分に対処出来る存在だ。倶知安駐屯地の壊滅は政府の初期対応の拙さが原因であり、幌別駐屯地の部隊が敗北したのは準備不足と不測の事態により防衛線が崩れたためである。今後更なる情報収集が必要となるが、やがてモンスターも駆逐され避難した人々も北海道へ帰れるだろう。

 そんな考えが、自衛隊や政府にはあった。



 だが彼らは忘れていた。ここは地球とは違う世界であるということを。自分たちの常識が通用するとは限らないことを。



 モンスター侵攻から4日目。

 政府の下に長万部に展開した自衛隊が壊滅との報告と、函館市内までモンスターが侵入し多数の市民に被害が出ているとの情報がもたらされた。


それっぽく書こうとすると話が進まない……

次回次々回続けて閑話行きます。

次は東北ですが、北海道編ほど細かく地名等あげては書かないと思います。


相変わらず自衛隊絡みの描写は図書館の本とネット情報頼りの妄想なのでツッコミ所満載だと思います。

変な点は遠慮なく指摘してください。

あえて変えている点でない限りは修正したいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ