第19話 VSゴブリン
秋吉の要請を受けたフリオは、自衛隊と協力して事態の収拾にあたることとなった。
今やるべきことは2つ。1つはゴブリンの排除。もう1つはファントムに憑依された自衛隊員の確保である。
ゴブリンに関しては小銃さえ使えれば自衛隊員でも問題なく排除できるのだが、憑依された自衛隊員が紛れている現状では迂闊に使えない。
そこで、ゴブリンは銃を使わず倒す。それが出来ないならばせめて基地の外へ出ないようにして時間を稼ぎ、その間にフリオたちが憑依された自衛隊員を探し出す必要がある。
神霊力を操るフリオたちならば憑依されることはないからだ。フリオたちが隊員を見つけ次第気絶させ、縛り上げたうえでどこかに監禁。その上でゴブリンを排除しようというのが、フリオたちの立てた作戦だ。
戦力はフリオたち冒険者4名と、現状数少ない小銃を装備した仁多の分隊8名。フリオは、秋吉・仁多と相談しこの12名を4つに分けた。
既に確保した小山田2尉は、ロープで縛った上で監禁用に割り当てられた部屋に転がされている。今後捕えた憑依者も同じように部屋に放り込まれることとなる。
この部屋の前では、ヴォルフが仁多の部下2名それにマイクと共に引き続き監視することとなった。
秋吉司令や田染たちにはラトゥと同じく仁多の部下2名が護衛に付く。首脳部が憑依されては目にも当てられない事態になるので当然の判断であった。
ここには拳銃を持った公安の2人もいる。憑依者はもちろん、ゴブリン程度が来たところで問題は無い。
そして、フリオとリタにはそれぞれ佐保と仁多が付き、更にそれぞれ1名の隊員が付き計3名で駐屯地内を回り憑依者の捜索と道中で出会うゴブリンの排除を行うこととなった。
「それで司令には大見得を切ったけど、今になって自己嫌悪に陥っているわけ?」
フリオの話を聞き、佐保はそう尋ねた。
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあなんで、そんな顔しているのよ」
日本人相手には丁寧な言葉を使っていたフリオだったが、佐保に対しては一緒に行動を始めてからずっとため口だ。
秋吉司令に対しては感情が高ぶっていたため思わず口調が荒くなっていたが、その後は元に戻っていた。丁寧な言葉をかなぐり捨てたわけじゃないらしい。
となると、自分は格下に見られているのだろうか。などと考えつつ、小銃を構え前方を警戒していた佐保は、チラチとフリオの顔を見て言った。
佐保の言葉通り、秋吉とのやり取りを説明するフリオの表情はどこか苦いものを含んでいた。
「自己嫌悪とまでは言わないけど、昼間に説明していればこんなことにはならなかったんだろうなって想いはある。別にあんたたちに恨みがあるわけじゃないから、この状況を素直に喜ぶのは……」
「喜べばいいんじゃない」
そう言った佐保はフリオの後ろで背後を警戒している隊員の様子を確認した。
彼は今年29歳になる陸士長だ。転移前ならば任期を終え民間に再就職している年齢だが、転移後の自衛隊の制度改正により現在も任期を継続し士として自衛隊に残っている。
10年前の転移時からの自衛隊員で、モンスター侵攻でも戦ったベテラン兵だ。
自身がフリオたちの使うロデ語を喋ることができないということもあり、先ほどから黙って後方の警戒を続けている。
モンスター侵攻を生き抜き、今もこうして危険な職を続けていることからもわかるが、とても愛国心の強い人物である。
自分の言葉が彼を刺激するかもしれないと、佐保は思ったが様子をうかがう限りやはりロデ語を分かっていないようだ。彼の様子に変化はなかった。
それに安心した佐保は歩きながら話を続けた。
「あなたたちの事情は知っているわ。こうやって、自衛隊じゃモンスター対策が万全じゃないって証明されたからには、冒険者ギルド設置の話も芽が出てきたんでしょう?」
「まあ……望んでいた事態ではあるんだけど」
どこか釈然しないままフリオが答える。
「自分の仕事が上手く言ったのなら喜んでいいのよ。他人に迷惑かけずに仕事ができるならそれが一番だけど、自分の仕事が果たせない方がまずダメね。それに、あなたの目的はどうやっても日本側では迷惑に感じる人が出てくるんだから気にしていたらどうしようもないわよ」
「……」
「そもそも、迷惑ったって今回みたいな件はいつか起こったことよ。むしろ、あなた達がいる時に起きてありがたいくらいじゃないかしら」
「随分庇ってくれるんだな」
「ん? そうねー……なんとなく、あなた見ていると気にかけてやりたくなるのよね」
「どうしてだ?」
「自分の職、冒険者ってのにプライド持っているけどそれを出さないように抑えて、でも時々抑えきれず爆発させて。丁寧な態度を取ろうとしているけど所々地が見えていたり。仕事を頑張ってやろうという意思は見えるけど、実は現状に流されているだけでそれに不満を持っていたり。まあ色々含めて一生懸命大人の振りしている子どもに見えるのよね。出来の悪い弟みたいで、気になっちゃうの」
「あんたと出会って半日で、まともにしゃべり出したのもさっきだろうが……」
大声こそ挙げなかったものの、今にも噛みつきそうな表情をするフリオ。
冒険者として、曲がりなりにも自立している身にとって、子どもっぽいと言われるなど屈辱でしかない。
ましてや出会って半日でろくに会話もしていなかった相手に言われているのだからなおさらだ。
実のところ、佐保の言葉は半ばあてずっぽうである。とはいえ、まったく的外れだとも彼女は考えてなかった。
この半日の間は護衛対象としてフリオたちを観察していたし、先ほどの佐保や秋吉への態度や、そこから見えるフリオの不満の原因を考えた上での発言だ。
そして今の態度も子どもっぽいと感じさせる要因だ。その上極度の童顔なので仕方がない。
2人の知るところではないが、駐日大使であるノルテ子爵がフリオにアドバイスしてやろうと感じたのも、どこか大人になりきれていないアンバランスなフリオの在り方に対する一種の庇護欲である。
「そう思われるのが嫌なら行動で示してみせてよ」
「言われるまでもないよ。せっかく機会出来たんだからここで冒険者の実力を見せないと」
「――っと、さっそく見せ場よ」
建物の壁沿いに進んでいたが、その壁がなくなるところで佐保が足を止める。
建物の裏手には2匹のゴブリンが獲物を探して辺りを見回していた。手にはどこで手に入れたのか、ナイフと鉄の棒がそれぞれ握られている。
「憑依者探しが目的だけど、見つけた以上はゴブリンも捨て置けないわね」
『3曹。この距離なら単発で十分狙撃できます』
後ろにいた士長がゴブリンを確認し佐保にささやく。
確かにこの距離なら大丈夫だろうと佐保も感じたが、その首は横に振られた。
先に秋吉司令より極力銃は使わないようにとの指示が出ていた。現在銃声はほとんど聞こえておらず、偶に聞こえるものは音の方向から察するに監視塔などからゴブリンを狙撃しているもののようだ。ここで佐保たちが銃を使えば、事情を知らない他の隊員たちにいらぬ緊張を与えることになる。
『相手はゴブリン2匹。白兵戦で仕留めるわ』
銃剣を装着しながら佐保はそう言った。
佐保の持つゴブリンの知識では、その体の構造や行動から考えて1対1で後れを取る相手ではない。苦戦しているとの情報も入っているが、装備もなく戦う羽目になった他の隊員と違って武器もある。その上、冒険者であるフリオを含め3人と数でも有利だ。
(ま、冒険者の力を見たいって理由もあるんだけどね)
先にフリオに言った妄想もそうだが、ややオタクな気がある佐保は冒険者の戦いを見てみたいという好奇心があった。
フリオに語った妄想は的外れだった。ではどんな戦いをするのか。それが知りたくてたまらなかった。
「フリオさん。私たちがそれぞれのゴブリンに向かいます。あなたは危なそうな方へ加勢をお願いします」
とはいっても、さすがにフリオを先にけしかけるような真似は出来ない。
佐保はフリオが頷くのを確認すると、合図と共にゴブリンへと駆け出した。
佐保と士長に続きフリオもその後ろから駆け出す。
「グギィ!」
現れた3人に気づいたゴブリンが声を上げ武器を振り上げ濁った唸り声を上げる。
(気持ちわるっ)
ナイフを手にしたゴブリンへと向かいながら佐保は顔をしかめた。
考えてみれば生きたゴブリンへここまで接近するのは初めてであった。
下手に人間に近い顔と体つきなだけに、他の非人型モンスターと違い気持ち悪さが際立つゴブリンだが、目の前で生きて動くそれは今まで見た死体よりも何倍も嫌悪感を覚えるものであった。
『このっ!』
気持ち悪さを振り払うように、銃剣を装着した小銃をゴブリンへと突き出す。
女性としては背丈のある佐保が、子どもの様な大きさのゴブリンへと銃剣を突き出すと、それは突き下ろすという形に近くなる。その分力も籠めていたはずだったが、その1突きはゴブリンの手にしたナイフで受け止められてしまう。
『なっ!?』
二重の意味で驚きの声を上げる。
想像と違い意外と技巧的な行動を見せることが1つ。そして、この小さな体躯で自分の突きを受け止めるだけの腕力を見せたことが1つ。
だが、驚きはしたがそれでうろたえるほど佐保もやわではない。そのまま相手の力も利用してナイフを跳ね上げると、そのまま銃床をゴブリンへと叩きつける。
「グゲェッ!」
『!!』
痛みに悲鳴のようなものを上げるゴブリンだったが、佐保は再び驚きを感じていた。
(今の骨を折るつもりで叩きつけたのに折れた手ごたえがなかった)
嫌な予感を感じつつも、銃を構え直し今度こそ銃剣をゴブリンへと突き出した。
『くっ!』
3度目の驚きは半ば納得と共に起こった。
確かにゴブリン腹へと突き出された銃剣は刺さりこそしたが、その刃先10cmも刺さってはいない。
(やっぱり、想像以上に硬い!)
佐保の知識では、ゴブリンの骨や外皮等は人間とさほど差がないはずであった。しかし、実際に殴りそして刺してみると到底人間レベルの硬さではない。
焦る佐保に対し、殴られ刺され怒り心頭になったゴブリンは、武器も持たずがむしゃらに佐保へと手を伸ばし襲い掛かる。
想像を超えたゴブリンの実態ではあるが、挑んだ以上は倒すまで相手をするほかない。そう佐保が覚悟を決めた時だった。
「甘く見すぎ」
その一言と共に突き出された拳がゴブリンの顔面を捉えた。
ゴリっと鈍い音がしてゴブリンが殴り飛ばされる。
「グアッ! ギィアア!」
鼻を押さえのたうっている所をみると鼻の骨を折られたらしい。
耳障りな声を上げ転げまわるゴブリンに、その鼻をへし折ったフリオは素早く駆け寄りその腹を力任せに踏みつけた。
無防備な腹を力任せに踏みつけられ悶絶のあまり声すらあげられないゴブリンへ、フリオは抜き放った剣を向けると、その喉元を躊躇なく刺し抜く。
『ぐあっ!!』
1匹ゴブリンを倒したところで、もう1匹を相手にしていた士長が苦悶の叫びを上げた。
鉄の棒を持ったゴブリンとの殴り合いに力負けしたらしい。脇に強烈な一撃を受け、思わず倒れ込んだところを2撃目3撃目が叩き込まれる。
「ちっ!」
4撃目。士長の頭を狙いゴブリンが大きく腕を振り上げる様を見たフリオは、舌打ちしつつ腰のナイフを抜きざまにゴブリンへと投げつけた。
5m程の距離で投げつけられたナイフは見事ゴブリンの腕へと突き刺さる。――次の瞬間、ゴブリンが炎に包まれた。
炎に飲まれ熱さと痛みから棒を放り出し、奇声をあげつつ炎を消そうと跳ね回る。
それが功を奏したわけでもないだろうが、全身を包んだ炎は5秒にも満たない時間で消え去ってしまった。
炎が消えたとはいえ、それが幻だったわけではない。火傷の苦しみから地に膝をつくゴブリン。その脊髄へ、背後に駆け寄ったフリオの剣が突き立てられた。
「……」
あっという間に2匹のゴブリンを仕留めたフリオに目を見開き見つめる佐保だった。
が、すぐに士長のことを思い出し慌てて彼の元へ駆け寄る。
『大丈夫!?』
『な、なんとか。ぐっ……』
立ち上がろうとしたところで顔をしかめる。
どうやらゴブリンに鉄棒で叩かれた際に足をやられたようだ。
『骨をやられたみたいね。悪いけど――』
『分かっています。応急処置だけして、ここの中の部屋にでも隠れています。3曹たちは任務を』
そう言いながら銃を杖にして立ち上がると、返事も聞かずにフラフラと建物へと歩き出す。
部屋の中で大人しくしていればゴブリンにも見つからないであろうし、怪我も命に係わる類ではないから大丈夫だ。
そう考える佐保にフリオが声をかけた。
「いいのか?」
「彼はベテランよ、大丈夫。私たちは捜索を急がないと。それにしても……」
死体となったゴブリンを見ながら佐保は言った。
「直接戦うとゴブリンがここまで手ごわいなんて……甘かった」
「神霊力がないとこんなもんだよ。普段のゴブリンなら殴られたり刺されたら逃げ出してるだろうけどな」
「……1つ気になったんだけど」
佐保はフリオに脊髄を刺され死んだゴブリンを見た。
フリオの投げつけたナイフから発した炎は、短時間ではあるが確実にゴブリンを焼き、ダメージを与えている。表面には何か所も火傷の痕跡があり、焼かれた毛が焦げ臭いにおいを辺りに漂わせていた。
「今の……神霊術よね? 鉱物には神霊力は込められないんじゃなかったの?」
「例外が3つあってさ。1つは神様が直接力を込める場合。1つは神霊力を蓄えることの出来る特殊な鉱物を使う。例えばミスリルとかだ」
「神様にミスリル! いかにもファンタジーね」
「……俺のこの胸当てがミスリル製。鉄より丈夫だし、神霊力を貯め込めるおかげで防御力が段違いだ。そのおかげで、よく武器や防具に使われる」
自らの装備する白い輝きを持ったミスリル製の胸当てを叩きながらフリオは説明した。
「最後の1つは、鉱物に特殊な文様を刻むことで神霊力や神霊術の1部を込めることができる。今のはナイフに炎の神霊術を込めていた物。まあ、すぐに消えてしまうけどな」
「そう言えば5秒くらいで消えたわね……じゃあ、例えば銃弾にその文様を入れれば――」
「昼間見学の時に見せてもらった、銃に入っている物か? 込められるだろうな。でも、1つ作るのにえらく手間がかかるからその分費用がかかるし、大きさによって込められる力が違うからな。あの大きさだと殆ど込められないと思うぞ」
そう言いながらフリオは投げつけたナイフを回収する。
ナイフの表面には、絵とも文字ともつかない複雑な文様が刻み込まれていた。
「切り札だったんだけどな……まあ仕方ないか。あと2本は使わずに済ませたいけど」
「それって使い捨て?」
「ああ。本当はまた神霊力を込めればいいんだけど、炎の神霊力だと発動した瞬間にナイフが少し解けて文様が崩れる。また鋳溶かさないと無理だな。このまま鍛冶屋に叩き売りだよ」
高かったのにな、と愚痴るフリオだがあそこでこれを使わなければ士長の命が危なかった。
高価な切り札を躊躇なく使ったフリオに、佐保は感心すると共に感謝の念を持った。
「どうした?」
「なんでもないわ。それより急ぎましょう。この様子だとゴブリンを抑えるのも長く持たないかも。急ぎましょう」
「同感だ。銃が使えないと意外と脆そうだからな」
神霊力を使えない自衛隊の対モンスター戦を見て、少し自信を取り戻したのだろう。本人は意識していないのかもしれないが、そんな言葉を口にするフリオに佐保は小さく溜息をつく。
(そういうことを口にするのが子どもっぽいのよ)
しかし全く的外れな意見でもない。
気を引き締めな直さないと、そう想いながら佐保が走り出そうとした時、
「待った」
フリオが佐保の手を取った。
「な、なに?」
「向こうから誰か来る」
そう言ってフリオが指さした方向から、数人の人影か近づいてきた。
自衛隊員が辺りを警戒しつつ小走りで近づいてきていた。
それぞれ、手に警棒や小銃を手にしている。小銃には銃剣が装着されているところを見ると、弾は入ってないのだろうと推測できた。
「たぶん警衛隊よ。持ち回りでここの警備を行うんだけど、ちょうど担当だった隊みたいね。さっきの戦闘に気づいてやってきたのかしら」
「……先頭の男の右手にいる男。憑かれている」
「!?」
思いがけない報告だった。
佐保は、てっきり憑依された者は暴れていると思い込んでいたがまさか他の隊員に交じって普通に行動しているとは想定外だった。
「どうするの?」
「隙を見て気絶させる。そしたら他に憑依させることは出来なくなるからそこで縛ろう。それまでは絶対触らないように」
「銃で殴る分には大丈夫?」
「問題ない」
「了解」
打ち合わせを済ませた2人に、警衛隊が駆け寄ってきた。
先頭にいた男はこの集団の隊長だったようだ。佐保も駐屯地の隊員を全て見知っているわけではない。確認すると階級は3尉だった。
手短に名乗り合い互いに状況を確認し合う。
『われわれは侵入したゴブリンと戦っていたのだが思いのほか苦戦した。……司令から隊員は出入り口を封鎖し、極力動かないようにとの指示が出たのは聞いているか?』
『ええ。聞いています』
そもそもその指示は、フリオが秋吉と話し合って決めた指示であった。
人の動きを制限して、憑依された者を見つけやすくするためだ。
『なんでもモンスターの幽霊に憑りつかれた隊員が出ているらしいな。おかげで銃が使えず大変だったが、部下から進言があってな。隊員の動きが制限されれば、武器が憑りつかれた隊員に渡ることもなくなる。今の内に弾薬庫に行って弾を調達するつもりだ』
『司令からはなんと?』
『ダメだの一点張りだ。しかし、この非常時だ。無理にでも弾薬庫を開けさせてもらう!』
3尉の言葉に佐保は頭を抱えたくなった。
おそらくこの進言をしたのは、横に居る憑依された隊員だろう。そして同じようなことが他の隊でも行われているに違いない。
多くの者はその進言を却下し司令の指示に従うだろうが、中にはこういった暴走を行ってしまう者も出てくる。
現在の自衛隊で徐々に出始めている問題なのだが、実際に戦闘を行うようになり功績を上げれば多少の指示の無視も許されるといった風潮が少しずつ出てきていた。
軍隊というものが大昔より抱える問題である。結果第一である軍隊にとっては必ずしも否定できるものではないのだが、バランスが難しいのだ。現にいま問題が起きている。
『向かっている途中で、戦闘をしている音が聞こえたのでこうして確認にきたのだ。まさか、冒険者も一緒だとは……ふむ』
3尉はそう言いながら、フリオの倒したゴブリンを見て感心したようすであった。
彼もまた冒険者というものを侮っていたのだろう。
他の隊員たちもある者は感心しながら、ある者は複雑な顔でフリオとゴブリンの死体を見ている。
(いまだ!)
目的の隊員が険しい表情でゴブリンの死体を向いた瞬間、フリオと佐保は一気に駆けた。
「どいてください!」
「邪魔だ!」
『な、なんだ!?』
フリオが3尉を突き飛ばし、佐保がその横をすり抜け銃床を隊員へ叩き込もうと構える。さすがに銃剣を使うのは気が引けたためだった。
自分が標的にされていると気づいた隊員は、躊躇なく隣にいた隊員の肩へ手を当てた。
隣に憑依されたか、と思った佐保は素早く標的を変え、肩を触られた隊員へ銃床を叩きこもうとする
「違う! 今のは振りだけだ!」
「え?」
フリオの言葉に佐保が最初の隊員に目をやると、ニヤリと唇を釣り上げた男が手にした警棒を振り上げていた。
「なめるなぁ!」
「!?」
まんまとフェイントにかかった佐保だったが、気合いの声を上げつつ片足を軸に体を捻るとそのまま銃を相手の腕に叩きつけた。
全力で走りながらの無茶な回転だったため、一歩間違えば足を痛めるところである。幸い足は大丈夫だったが、そのまま体制を崩し倒れ込んだ。
腕を銃で叩きつけられ警棒を取り落した隊員は、今度は佐保に直接触れようと手を伸ばす。今度こそは本当に佐保にファントムを憑依される気の様だ。
「させるかよ」
が、それよりも早く駆け寄ったフリオがその顎を横から殴りつける。
そう強い一撃ではなかったが、不意打ちになったこともあり隊員はあっさり脳震盪を起こし失神してしまった。
「大丈夫ですか」
「なんとかね」
倒れた佐保に手を出しだしながらフリオが尋ねると佐保はそう答えその手を取った、
『な、何が起きたんだ! 説明しろ3曹! おい!』
事態が飲み込めず喚き散らす3尉を余所に、フリオは取り出したロープで失神した隊員を縛り始めた。
『――3尉』
『な、なんだ!』
『この件はしっかり司令に報告させていただきますから』
どこか小ばかにした顔でそう言い放った佐保に、3尉は混乱と怒りで顔を真っ赤にしながら取り乱すばかりであった。




