第17話 現代っ子の理解は早い
「ふん……」
負傷した自衛官を下がらせると、1人ゴブリンを前に、フリオ不敵に笑みを浮かべた。
手には愛用のバックソード。それを片手でだらりと構えもせず無造作に持っている。あるいは、新陰流にいう「無形の位」というものであろうか。
相対するゴブリン、その数10匹。
常識で言えば、喧嘩から戦争までおおよそ戦いというものは数がその勝敗を決める最大の要因となる。もちろんそうでない少で多を打倒す例はいくつもある。しかし、それらが語り継がれるのはそれが常でないからだ。
そしてその常を覆すにはそれだけの要因が必要である。
果たして――このフリオにそれだけの要因はあるのだろうか?
ゴブリンの集団が動いた。
10匹の内3匹がまず先頭を切ってフリオへと襲い掛かる。
聞くに堪えない雄叫びを上げるゴブリンに対して、フリオは冷静にそして一瞬で自らの行動を考え対応した。
それぞれの得物は、出刃包丁持ちが1匹、鉄パイプ持ちが1匹、ナイフを棒の先端に付けた手製の槍持ちが1匹。それが3方向から得物の長さの分時間差となって迫ってきている。
フリオは数歩前に進み、突き出される槍の穂先を右下から左上へと無造作に切り上げた。そのままの勢いで体を半回転させると、穂先を切られた時にバランスを崩した相手に回し蹴りを決める。蹴り飛ばされた相手を見もせずそのまま向きを変えると、今度は鉄パイプを持ったゴブリンへと一気に駆け寄り距離を詰める。慌てて鉄パイプを振るおうにも、密着されてしまえばこの手の武器は威力を失う。
ゴブリンが焦る間に、フリオはその顔面へと剣のナックルガードを叩きこんだ。
ゴリッと鈍い音と共にゴブリンが後ろへと吹き飛ばされる。と、その背後に気配が迫る。出刃包丁を手にしたゴブリンが全速力で突っ込んできたのだ。
しかし、それもフリオには見切られていた。
後ろも見ずに、トンと左に軽く避ける。
その背中めがけ全体重をかけながらで前のめりに走り込んできたゴブリンはその動きに対応できない。
目標を失い、さりとて方向転換も出来ず空しく何もない場所を突っ走る。
それに合わせて、フリオは真横に剣を一閃させた。
一見すると軽い一振りに見えたが、体重をかけたゴブリンのスピード・切れ味の鋭い刃・鍛え上げた剣筋、それらが合わさりあっさりゴブリンの首は宙を舞うこととなる。
流れるような一連の動きに、周囲にいた者たちから感嘆の声が上がる。が、フリオはそちらを見ようともしない。
2匹を一瞬で倒し、1匹の武器をあっさり無効化した敵にゴブリンが警戒を強めているからだ。
その中の1匹――ボス格だろうか――が声を上げると、残るゴブリンがフリオをグルリと遠巻きにする。全方向から一斉攻撃をかけるつもりだ。
逃げ場を失ったフリオだったが、焦る様子はない。
もう少しこのゴブリンが賢ければ、敵の様子に更に警戒を強めたであろうが、生憎そこまで賢くはなかった。
逃げ場を失った敵に、ボスの叫び声とともに計8匹のゴブリンが同時に襲い掛かる。
やられる! 見ていた者たちは一様にそう思った。ゴブリンの手にするパイプや斧や槍が、フリオへと襲い掛かり――その瞬間、フリオの体が高く宙を舞った。
子ども程の大きさのゴブリンを、その跳躍力だけで軽々と飛び越えたのだ。
一瞬前までフリオがいた地点へ、ゴブリンの得物が付きたてられる。8匹のゴブリンが、今1箇所へと集まった。
これこそ、フリオが待っていた瞬間であった。
「炎神の名において、今ここに原始の焔を顕現させん! その神意持て、悉くを灰燼に帰さん! セイグリット・ファイアー!」
呪を唱えたフリオが左手を突き出したと同時だった。ゴブリン達の中心に赤い光が生まれそのまま一気にゴブリン達を飲み込む。
それは超高熱の火炎球だった。
空気すら燃やし尽くしそうな炎に、外も内も一瞬で焼かれたゴブリンは、苦しむ間もなくその身を炭に変えてしまう。
「これが――」
茫然とそれを見ていた者たちに向き直りながら、
「神霊術だ」
フリオはそう言い放った。
「ってな風にはならないの?」
「なんですかそれは……」
訳の分からない妄想を語る佐保登紀子に、フリオは呆れた口調でそう言い返した。
神霊術の根本は、神霊――つまりこの世界の神々が使う力である。
神霊の力その物を仮に100とするならば、冒険者が使うそれはせいぜい1~3程度である。これが神官であればその数は、神官の格によりどんどんと大きくなる。
神官の究極的な目的は、神の在り方に近づくことである。例えば、知恵の神の神官であるフェルナンドは、知識を集め知識を求め続ける姿勢こそが神官として格を高めることとなるのだ。
故に、この数は威力の大きさでなく、神の在り方の再現度と見れば良い。神は自分自身なので当然100。簡単なお布施で、「貴方を信仰しますよ」といった程度では100分の1~3といった具合である。
実際には明確に数値がある訳ではないが、とにかく多くの冒険者が使う神霊術では大したことはできないのだ。少なくとも、10匹近いゴブリンを一瞬で焼き払う様な術はない。
例外としては、神官でかつ冒険者である者であろうか。神官でありながら、国に仕え政治家や軍人となっている者はいるし、冒険者をやっている者もいる。信仰と行動がズレていなければ問題はないのだ。
神官の使う神霊術ならば、モンスターを一瞬で倒すような術もあるだろう。
「つまり、あなたたちは劣化魔法使いという認識でいい? あるいは魔法剣士? たいていそういうのは器用貧乏ってのが定番だけど」
「取りあえず、あんたが俺をバカにしているのはよく分かった」
神霊術というものに何やら過度な期待を持っていたらしい佐保は、失望からか余計なことを一言も二言も言ってしまう。
彼女の上官である仁多と共にフリオ達に同行していた佐保だったが、ほぼ通訳に徹していたため会話量が少なく、仁多ほどにはどういう人物であるのかフリオには分からなかった。
なんとなく、無駄口を叩かないタイプなのかと漠然と思っていたフリオだったが、このわずか数十分でその印象は覆されていた。
なんか残念な人だな――それが現在のフリオが抱く印象である。
それにしても、なんでこんなことを言われなきゃいけないんだと思うフリオだったが、情報がない佐保がそう思い込むのも仕方がなかった。
何しろ、彼女らが知る神霊術が行使された結果というのが、タンゲラン沖海戦におけるアメリカ海軍の敗北という事例だけなのだ。
それだけしか知らなければいったいどんな力なのだと、想像が大きくなるのは無理もない。
「じゃあ、何で冒険者はわざわざそんな使えない術を覚えるのよ」
神霊術を行使するために必要な力が、神霊力である。
これは生命ならば誰もが持っている力である。神も、人も、獣も、虫も、草木も、そしてモンスターも。
なぜすべての生命が持っているのに、「神霊」と名付けられているのか。
人が記録を残すようになって時には既にそう呼ばれていたためにはっきりしたことは分からないが、最初に神の力を神霊術と呼ぶようになり、後からそれを使うための力が生命すべてにあることに気づいたためこう呼ばれているという。
神霊術は、方向性のない生命の持つ純粋なエネルギーである神霊力を、神霊の加護という道筋をつけてやりこの世界へ現象として発現させた物である。故に術は神霊の力の模倣であり、神霊をその根本とする。それに対し、神霊力は「神霊」とその名に冠された力ではあるが、神霊を介さない生命由来のエネルギーである。
だがその力も、そのままでは世界に対してなんの影響力もない無意味なものでしかない。神霊力を世界に影響を与える物にするためのいわば変換機と、体外へと出すための回路が人には備わっていないのである。
一方モンスターは、生まれながらにそういう能力があるのか、神霊力を防護として使っていることは以前に書いた通りである。故にモンスターは他の生物に対して神霊力の分有利な存在なのである。
けれど、モンスターを護りその力の源の1つである神霊力も無敵ではない。同じ神霊力をぶつけ相殺すればその防護を無効化することができるからだ。
しかし人間には神霊力を操ることができない。
そこで出てくるのが神霊術である。
神霊の加護を受け神霊術を使えるようになると、その人間には無影響な神霊力を影響力ある物へと変える変換機と、それを体外へと出すための回路が形成される。(実際に新しい器官が体内に出来るわけではない)
これにより、人も神霊力を操ることが出来る様になり、モンスターと同じ土俵で戦えるようになるのだ。
「これ、さっき説明したはずだよな?」
「そうだっけ?」
同じ説明を繰り返すことになったフリオの言葉に、佐保は動じる風もなくサラリと交わす。
そんな彼女の後ろについて歩きながら、フリオは言った。
「そもそもこんな話をしてて大丈夫なのかね」
「大丈夫じゃないの? 相手は隠れる様子もないみたいだし。そんなに大きな声は出してないから。時々聞こえる銃声の方に気を取られるでしょ」
「まあゴブリンの方はな……」
「しっかし、どうしてこうなっちゃのかしらね」
フリオとそんな会話を交わしつつも、佐保は油断なく小銃を構え廊下を進んでいく。
「……さっきの話の続きだけど、あんた達みたいに、神霊力を使わなくてもそれなりに強い力ならゴリ押しで倒せる」
「こういうゴブリン程度なら、でしょ?」
「そう。でも、神霊力を使わずに倒す場合問題が1つ発生する」
その言葉に佐保は足を止めフリオへ顔を向ける。
「その結果がこの有様さ」
苦々しげにそう言ったフリオの表情は、たぶんに自らへの後悔を含むものだった。
話はさかのぼる。
作戦部隊より一足先に下関駐屯地へと戻ったフリオ一行は、黒須や田染たちと合流すると、仁多の案内で基地の見学を行った。
基地内の設備や自衛隊の装備――もちろん公開が許される範囲でだ――を直に見て、それらをどう使ってモンスターを退治しているかなど。
更には中国地方における自衛隊の防衛状況の説明など、いかに冒険者が不必要であるかという説明が行われる。
仁多としては指示されたことをダメ押しとして言っているのだが、あいにくとそれは無意味だったと言ってよかった。
先のゴブリンの巣での戦闘を、直接見たわけではないが知ったフリオたちは、既に考えを切り替えていたからだ。さすがにあれを見て、冒険者を売り込むのは気が引けた。
となると、当初の予定通り国民の方での需要を探りそちらから糸口を見つけようという方針に考えはシフトしており、ここで重ねて自衛隊の精強さを説明されてももう終わった話でしかないのだ。
(しかし……)
先ほどの自衛隊の戦いを知り、その武器を見て1つ気にかかることがあった。
(リタと、ヴォルフさんは思い至ってなかったな。まあまず起こらないことだから無理もないか)
自衛隊の使う火器は、フリオ達にとっては常識外の武器であった。
黒須から、神霊術・神霊力を使わないでモンスターと戦ったという話を聞いた時はどうやっているのかと思ったものだったが、この力なら確かに神霊力なしでもモンスターを倒すことができるだろう。
だが、実際にその作戦行動を遠くからではあるが見ている内に懸念が生まれる。それを確認したいがための、秋吉への申し出であったのだが、秋吉が認めなかったことと、ただ1人同じ可能性に気づいたラトゥの言葉によって確認することは出来なかった。
「このままの方がよろしいかと思います」
ラトゥの囁きが蘇る。
何もなければそれでいい、だが万が一懸念が当たってしまった場合は、自衛隊員に被害が出ることは確実である。
それを自衛隊が解決することは難しいだろう。だが、自分たちなら解決する手段を知っている。それを利用すれば冒険者の有用性・必要性をアピールすることができる。
そういう含みを持った囁きだった。
(冒険者がクエストを達成するためにあらゆる手を使うのは当然だ……でも)
でも、非常に心苦しい。
これは自分たちを気にかけてくれた秋吉の好意を仇で返すようなものだ。
申し出を断った秋吉も、事情を細やかに説明すれば同意してくれただろう。
そうすれば、万が一の可能性は限りなく0になる。
万が一と0のほんの僅かな差の分を、フリオは自己の利益のために目を瞑った。
まず起こりえない僅かな可能性を、利益の為に確保したとして誰がフリオを責めるだろうか。少なくとも、冒険者ならば誰も責めない。いや、責めることはしないであろう。
しかし、それと個人の想いとは別である。
目的のためには万が一が起こった方が良い。しかし何事もなくあってほしい。そんな相反する想いにフリオは囚われていた。
そして――フリオの懸念は的中してしまう。
「今のは?」
その夜。仲間たちと男部屋で今後のことを話していた時だった。
昼間聞いたような音――銃声が聞こえた気がした。
「……昼間聞いた音だ」
耳の良いヴォルフがそう断言する。
昼間なら訓練もありうるだろうが、夜の基地で、しかも内部で聞こえた武器の使用音。
きな臭さを感じたヴォルフの表情は既に鋭い。
「基地の人も気づいたみたいね。外が慌ただしいわよ」
窓の外を確認しリタが言った。
フリオ達に割り当てられた部屋は、基地南東に立てられた宿泊所の客室でその2階である。
近くには隊舎もあり、窓からは銃声を聞きつけ確認の為に走り出す隊員の姿が見えた。
何かあったのは間違いないようだ。そう判断したリタとラトゥは、自らの装備を取りに部屋に戻っていく。
「俺たちも装備は整えておこう。……どうしたフリオ?」
「あ、いえ……」
ヴォルフに呼びかけられ、茫然としていたフリオは気を取り直す。
「もうすぐ田染さん達がくるでしょう。そしたら……秋吉司令に会いに行きます」
「司令に?」
「ええ」
ふむ、と言って腕組みしヴォルフはジロリとフリオを見た。
「お前、何か知っているのか?」
「……懸念が当たりました」
「いったい何が起きている」
「ヴォルフさんも知っていることですよ。滅多にないことなので思い至っていないだけです……取りあえずは、俺たちにとって――喜ぶべきことです」
そう言ったフリオの顔は、どこか悲しそうな笑顔を浮かべていた。
フリオの言った通り、リタとラトゥが装備を持って戻ってくるころには、田染たち4人と黒須が、仁多に連れられる形で部屋を訪れた。
「基地内で発砲があったようです。先ほど帰投した第2中隊の一部によるものだと思われます。危険ですので皆さんはここから動かないでください」
詳細は把握していないのだろう、仁多の説明には確定的なものがなかった。
それでも銃が発砲されたのは事実だ。
吉田と李の2人は拳銃を手に周囲を警戒している。
「仁多さん。今すぐ秋吉司令のところに連れて行ってください!」
「今説明したとおり危険ですので、ここで――」
「危険なのは分かってるよ! でも時間がないんだ!」
「!?」
それまで丁寧な受け答えに終始していたフリオが見せた乱暴な喋りに、仁多は面喰ってしまう。
今までは案内されているという立場上、日本人相手には丁寧な態度を通してきたフリオだったが、ここに至ってその態度を投げ捨てた。
「案内しないというなら、自分で探すぞ」
「落ち着いてください。状況が不明なのですからせめて情報が入るまで待ってください」
仁多とて何も考えずにおしこめようとしているわけではない。
本当に状況が不明なのだ。今フリオを司令に会わせるなど、混乱しているであろう上層部に余計な手間をかけさせるだけと考えているのだ。
それに、銃を撃った相手が無差別に攻撃をしていた場合、フリオ達を護れる自信がない。
だが目の前のフリオはそんな説明では納得しそうにない雰囲気があった。
「フリオさん。何か知っているのですか?」
助け舟を出したのは田染だった。
「知ってるわけじゃないけど、心当たりが1つあるだけだ」
「……それは一体」
「説明する時間が惜しい。案内してくれたら一緒に説明する」
だからアンタでもいい、案内しろ。フリオの目はそう訴えていた。
フリオの様子に何か裏を感じる田染だったが、何やら彼が情報を持っていることと、それをここで明かす気がないことは理解できた。
「仁多2曹。申し訳ないが、案内してください」
「くっ……」
ここで断れば本当に彼らだけで出て行きそうな雰囲気である。
「分かりました。私の分隊で護衛しますが、途中何があるか分かりません。覚悟はしてください」
その言葉に、一同は当然といった風に頷き返した。
駐屯地の本部はフリオたちの宿舎から北西に直線で200mほどの場所にある。
そう離れてはいないが、途中の施設を避けて回るため実際に走る距離はもっと長い。その上、一時的に西側にあるゲートに近づくこととなってしまう。
そのゲートこそ、発砲音がした場所である。
外灯に照らし出されたゲートへ続く道は、事態を把握しようと慌ただしく駆け回る自衛官の姿がそこかしこに見られた。
その中を、仁多はフリオ達の先頭に立ち走っていた。
「仁多2曹! 小隊長がお呼びです!」
先行させていた部下が前方から声をかけてきた。
距離があるためハッキリしないが、外灯の明かりに照らされるその姿は、仁多の分隊が所属する小隊の隊長その人であった。
更に走る速度を上げ急いで駆け寄り敬礼をする。
「小山田2尉、状況はどうなっているのでしょうか」
部下は小隊長と呼んだが、現在仁多の分隊は司令の指示により独立している為、あえてそう問いかける。
小なりといえども、今は独立しているのだというちょっとした自負の表れでもあった。
「おお、今まで現場にいたところだ」
そんな仁多の思惑など気にも留めず、小山田2尉と呼ばれた小隊長は状況を説明しだした。
「戻ってきた第2中隊の第3小隊の奴らが当然暴れだしてな。周囲が取り押さえようとしたが、発砲されて負傷者が出た」
「それで、暴れた連中は?」
「中隊の他の連中や、近くにいた奴で取り押さえた。俺もちょうど近くにいて、協力して取り押さえてきたところだ」
「大丈夫……そうですね」
「はっははははは! コイツを使う必要もなかったぞ」
そういって、今や小隊長クラスまで装備している9mm拳銃を叩いてみせた。
身長175cmの仁多より頭1つ分は大きな上に、柔道・剣道・合気道の有段者である小山田だ。取り押さえ際には大活躍だったのだろう。
とはいえ、小銃を持った相手をよく抑え込んだものだと仁多は半ばあきれ気味に感心していた。
「仁多さん!」
と、急に声をかけられ仁多は後ろを振り向く。
声をかけたのはフリオだった。
「そいつから離れろ!!」
険しい顔でフリオが叫ぶ。
その言葉を仁多が理解するよりも早く、
「がっ!」
後頭部を何者かに殴られた。
一瞬意識が飛びかけるが、幸いなことにギリギリで気を失わずにすむ。
しかし背後からの一撃でバランスを崩し、前のめりに倒れ込んだ。
(一体何が)
フラフラとする視界を背後に向けた時、仁多の目に映ったのは拳銃を自分へと向ける小山田の姿だった。
(撃たれる)
何も分からないまま、それだけを仁多の頭が理解した瞬間、
「ぐわっ!」
小山田の叫びと銃声が響いた。
弾は仁多を大きく逸れ、明後日の方向へと放たれる。
見ると小山田の肩に矢が突き刺さっていた。
「ぐううううああああ!」
目を血走らせ唸り声を上げながら、小山田を再び拳銃を構える。
が、その狙いを定めるよりもはやく駆け寄った者がいた。リタだ。
一気に懐に飛び込むと、その日焼けした手を小山田の胸に当て、
「雷よ!」
そう叫んだ瞬間、小山田はビクンと痙攣しその場に崩れ落ちた。
一瞬の出来事に、仁多もその部下である分隊員も、田染やマイク、公安の2人も、そして周囲にいた自衛官たちも茫然と立ち尽くしていた。
そんな中、フリオ達冒険者だけが小山田へと駆け寄りその様子を確認していた。
「おい、フリオよ。これはまさか」
「ええ間違いありません」
「ハッキリ神霊力が見えるわね」
自らの放った矢を抜き取り、止血処理をするラトゥを見ながら3人は言葉を交わす。
「お前が懸念していたのはこれか?」
「そうです。滅多にないことですから、まさかとは思ったんですが……」
ヴォルフの問いにフリオは複雑な気持ちを抱えたまま答える。
「ファントム化現象が発生したようです」
どうしてこうなった?
本当はちゃんとフリオの戦闘が入る予定だったんですが、なんでかこんなことに。
一応、リタやラトゥの戦闘行為があるので嘘はついてない……はず。
あ、ミスリルの件は話の展開上次回に持ち越しです。
次回で、今回の冒頭(フリオと佐保が一緒にいる場面)につながる話が入り、そのあと今回の冒頭へという流れです。




