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冒険者日本へゆく  作者: 水無月
第4章 冒険者と日本
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第83話 謀は密なるをもってよしとす

 時は少し遡る。


 日本政府がジャンビ=パダン連合王国へと密かに使節団を送った頃。

 山々の木々が赤く色づき始めたそんな季節であった。



「久しぶりダナ」

「……」


 ごくありきたりな挨拶。

 自らの部屋に招き入れた目の前の者のその言葉に、椅子に座ったこの部屋の主は沈黙と鋭い視線で応えた。

 職業柄か、あるいはその立場故か、それともこの10年の戦歴の賜物か。男の放つ威圧感はそれだけで気の小さな者ならば動けなくなりそうなものがある。

 そんな威圧であるが、部屋の主の前に建つ者には何の効果もないらしい。

柳に風とばかりに、顔色1つ変えずにいた。



 思う所は色々とあったが、これはこちらから口を開かねばなるまいと心を抑え、部屋の主――この岡山の地で西日本を鎮護する陸上自衛隊の師団長百瀬陸将は口を開いた。


「直接会うのは……2年ぶりといったところか」

「そのくらいダナ」


 その間に、自衛隊そして日本を取り巻く環境は大きく変わった。

 だからこそ聞かねばならない。


「――なぜ、ベヒモス襲来の連絡が無かった」


 大きく変わった要因の1つに、大型モンスターベヒモスの岡山襲来と自衛隊による撃退があった。


 自衛隊は初めて神霊力技術を併用し、以前のモンスター侵攻の際には討ち取れなかったベヒモスを倒した。

 これは自衛隊における対モンスター戦術において重要な出来事であり、今後に繋がっていく重大な一事である。


 この戦闘に関して、政府はもちろん国民まで手放しで喝采を送り、もはやモンスターは問題ではないとの安堵感と、自衛隊への信頼感を生み出していた。


 だが、百瀬には不満が残っている。

 これまで、百瀬陸将が率いるこの師団は、モンスター群の西進をここ岡山の吉井川で防いできた。

 ベヒモスの様な大型モンスターがいなかったため一般な印象は薄いが、そのどれもが突破を許せば大惨事になっていた可能性は高い。

 そんなモンスター群を今日まで問題なく撃退し続けられたのには様々な理由があるが、その1つに東からもたらされる情報があった。


 モンスター群が来襲するよりも前におよそどの程度の規模のモンスター集団が、何時ごろ岡山へと押し寄せるか。

 事前にもたらされた情報を基に、索敵を行いそして迎撃準備は整えられそして見事撃退してきたのである。


 そんな情報の提供者が目の前の者であった。



「君たちからの情報は常に正しかった。モンスター群の規模、進行方向、予想日。それが、あのベヒモスとその直前のモンスター群に関しては一切連絡がなかったではないか」


 この吉井川に防衛戦を構築して以降、最大の危機であったベヒモスの侵攻。

 よりにもよって、それに関しての情報が一切なかったのである。


 もちろん、百瀬も情報を鵜呑みにしていたわけではないし、またその情報だけに頼り切っていたわけではない。

 現にベヒモスやその直前のモンスター群の襲来を早々と察知し迎撃準備を整えている。

 だが、事前情報があれば更に優位な状況を築けたはずなのだ。


「何故なのかね?」


 思わず、詰問調になる百瀬。


「ヨイのか? そんな態度デ?」


 だが、相手は臆することもなく、逆に脅すかのような物言いで返しくる。


「……」

「フン……」


 不遜な態度を崩そうともせず、百瀬の怒気を含んだ視線を鼻で嗤う。

 怒りをにじませる目の前の男など怖くない。

 この者が自分に逆らえるはずがない。

 上から見下すような態度。


 ここが駐屯地のど真ん中。

 百瀬の一声で屈強な自衛隊員に取り囲まれる、ということを考えれば如何にも自信過剰な態度だ。


 そんな姿を見せ付けられ、百瀬の内に抑えがたい怒りがわき起こる。


 いっそここで関係を絶つか。そんな誘惑が脳裏をかすめた。

 百瀬は自衛隊という武力集団の指揮者である。

 一時の感情に任せた行動を取るなど許されないし、またそうならない様に生きてきた。

 感情に任せ戦局を見誤ってはいけない。

 12年前の転移以来、モンスターとの戦いの中でも常にそれを意識してきた。


 ――だがこの怒りはなんだ。

 今、かつてない怒りが百瀬を襲っている。

 これに比肩するとすれば、守るべき市民を守ることが出来ずモンスター餌食となったあの時くらいであろう。


 何故、たかが不遜な態度を見せ付けられただけで、こうも怒りがわき起こるのか。


 理由も分からず怒りに突き動かされそうになりながらも、


(ダメだ。今は、まだ!)


 その感情を理性が矜持で抑え込んだ。

 一時の感情で動くなど、百瀬の立場では許されない行為である。

 また、目の前の者との関係は実利的にも絶つことができない。


「――君たちとの付き合いを変える気はない」


 感情を鎮め常の口調でそう答えた百瀬に、


「ホウ……」


 思わずといった感嘆が漏れる。

 感情を抑え込んだことに対してだろうか。


「君たちはほぼ見返りなく我々に協力してくれた。その恩は忘れてはいない。それに、我々の神霊力に関する研究は、君たち無くしては始まらなかった」


 事実である。

 かつて、公安の吉田や李が追い結局諦めざるを得なかったこと。

 自衛隊内で神霊力等を研究している陸上自衛隊研究本部総合研究部第6研究課、通称「神霊研」の前身である、第4師団の研究者たちは一体どこから神霊力・神霊術に関する情報を得ていたのか。

 その答えがこれであった。


「今後も、我々との関係ハ変わらぬ。そういうことダナ?」

「うむ。よろしく頼む」


 そう言って頭を下げた百瀬に、口元を釣り上げながら笑みを浮かべ首を縦に振る。

 やはり自分たちとの関係は立てなかったな――無言の内にそう言っている様だった。


「ヨいダロウ」


 頭を下げる百瀬の姿に、十分自尊心を満たす。

 その伏せる顔がどんな表情を浮かべているか、分かるからこそ愉しみは大きい。

 だが愉しんでばかりもいられなかった。


「ベヒモスについては、我々も完璧ではナイということダ。全テのモンスターヲ把握することナドできナイ」

「……承知した。そう心得ておこう」


 顔を上げた百瀬がそう言って頷く。


「それデモ、おおよそハ分かル――当分モンスターどもの侵攻はナイ」

「ふむ……今までのペースとは違うな」


 百瀬はその言葉の意味を考える。


「今までは年に1回程度モンスター群は出現していたが……東で何かあったのか?」

「西から来タ者たちが原因ダナ」


(冒険者のことか……?)


 今年の4月になり冒険者たちは、ここ岡山以東にも進出している。

 目的はほぼ探索だが、その過程で何度もモンスターとの戦闘があったことが報告に上がっていた。

 それによりモンスターが群れとなることを防いでいるというのだろうか。


(現地調査が必要だな)


「それで、今回は他に何かあるのかな?」

「イヤ、これだけだ」


 そういうと、クルリと振り返りその場を去ろうとする。

 何ともそっけないが前々からこうであるため、百瀬も特に止めることはなかった。


 だが、


「待ちたまえ。情報料のミスリルは――」


 その言葉にドアノブに手をかけたまま足を止めるが、振り返ろうともせず、


「要らヌ」


 とだけ短く答えドアを開ける。

 同時に、その鱗に覆われた体が空に溶けるようにスッと消えて行った。


「龍人め……見せ付けおる」




 客人が百瀬の部屋を去りしばらくして。

 百瀬の前には2人の部下が立っていた。


「やはりアレは視覚的に姿を消しているだけですねぇ。音も熱も感知できました」

「光学迷彩というやつか」

「はい、そうなりますね。まあ神霊術を使っているので、原理までは解明できませんが」

「戦場で使われた場合対処は可能か?」

「視覚的に見えないだけですので、サーモグラフィや集音装置等いくつか対処方法は考えられますな」

「良いだろう。そちらの研究も神霊研で開始してくれ」

「了解しました」


 百瀬と話している白衣姿の男。

 元は民間人であるが、今は神霊研で神霊力・神霊術の研究を行っている。

 神霊研の前身である、第4師団の研究班時代からの研究者であり、現在日本で最もと神霊力・神霊術に通じた人物と言えよう。


「いや~しかしあの龍人さんは実に良い研究対象ですね。おかげでどれだけ研究がはかどったか。今回も貴重なデータが随分取れましたよ」


 先ほどの客人を思い出しながら研究者は愉快そうに笑う。


「おお、そう言えば。陸将の会談中、この部屋で電波の乱れを感知しました!」

「つまり……どういうことかね?」

「ここで神霊力が使用された可能性があります」


 神霊研における最大の課題は、神霊力をどうやって捉えるかであった。

 現象を観測することで、その現象にまつわる研究が飛躍的に発展することは科学の歴史を振り返れば分かる。

 神霊力を観測するために様々な試みがなされたが、現在有力視され一定の成果が上がっているのが電波の乱れを用いた方法であった。


「この世界に転移した直後は、問題なく使えていた各種無線通信ですが時間経過と共に使えなくなってきたことはご存じだと思います。原因は色々と探られてきましたが、我々はこれを神霊力が影響していると仮定しました」


 現在のところ、地球とこの世界の物理法則は同じと考えられている。

 そんな中、確実に1つ違う物が神霊力であった。


「大気層の観測が出来ないため結論は出せませんでしたが、あらゆる電波が一定距離を進むと影響を受けています。その為、地球にはない物理法則により電波がその影響を受けていると考えられたのです。つまりです、例えば極超た――」

「細かい話は結構だ。結論を頼む」

「――え~、その後、コルテス氏や冒険者の方の協力を得て確認したところ、神霊力が電波に干渉することはほぼ間違いありません」

「なるほど」

「ただ、予想とは少々違う結果が出ましたが」

「どういうことかね?」


 落胆してみせる白衣の研究者に、百瀬が尋ねる。


「一般的な冒険者の使う神霊術では、ほとんど電波に影響はありません。コルテス氏の術でようやく干渉していると確信出来たくらいで――」

「だが、それはつまり。この部屋で確実に観測できるレベルの電波の乱れ、つまり強力な神霊術の行使が行われたということだな?」

「ええ、そうなりますな」


 たった今、この部屋で神霊術が使われたという。

 だが、百瀬の見ていた限りそれらしい現象はなかった様に思えた。

 一体何が、と考えてみると、


(もしやあれか)


 思い当る現象があった。


「先ほど、奴に対している時、急に感情のコントロールが出来なくなった。もしや」

「可能性は高いです! 何か精神に影響する神霊術が使われたのかもしれませんな!」


 百瀬の言葉に、白衣の男は嬉しそうに言った。


(これだから研究者という奴は……)


 百瀬の前に立つもう1人の男が内心で舌を打つ。

 肩の階級章を見れば、彼が1佐であることが分かる。

 百瀬と白衣の男との会話を黙って聞いていた1佐であったが、さすがにこれ以上は黙っていられなかった。


「百瀬陸将。すみやかにカウンセリングを受けられることを進言します」

「うむ……どういう術をかけられたが分からないからな。中尾主任?」

「はいはい。精神に影響を及ぼす神霊術はそう強いものではないですからな。何か術の触媒となるものがあれば別ですが、今回のケースならカウンセリングで異常の発見や解呪も可能ですな。コルテス氏によれば――」

「主任!」

「おっと、これは失礼をしました。椎木さん。ではさっそく準備をしてきますよ」


 椎木1佐の言葉に中尾と呼ばれた研究主任は、軽い調子そのままに部屋を後にした。

 中尾が去り、部屋には百瀬陸将と椎木1佐の2人だけとなる。


「まったく」


 中尾の態度に苛立たしげな椎木だったが、百瀬は軽い苦笑を浮かべるだけであった。

 慣れているのだ。

 当事者であり上官である百瀬が気にしてない以上、椎木もこれ以上怒るわけにもいかない。

 仕方なく話題を変えることとした。


「陸将。御身体は大丈夫ですか?」

「うむ。自分で分かる限りでは異常はないようだ」

「そうですか。まずは一安心です。しかし――」


 椎木は表情を強張らせ、言葉を続ける。


「別室で見ておりましたが、あの龍人の態度。陸将がお怒りになるのも無理はありません。完全にこちらを見下しきっている」

「今更だよ」

「ですが……東の情報も神霊力に関する情報も、今まで奴が持ち込んだものは貴重でした。しかし、もはや必要ないと考えます」

「確かにそうだが……」


 それは、先ほど百瀬も怒りの中で思いついたことであった。

 しかし、まだ関係を切る時ではないと百瀬は考えている。


「中尾主任の言葉ではないが、奴自体が貴重なデータ源でもある。それに、例の「計画」を考えると東での協力者は居て損はない」

「どこまで当てに出来るのか疑問ではありますが……」


 百瀬の意見に、椎木はあまり賛成ではないらしい。


「……陸将。その「計画」に関してなのですが」

「何かあったのかね?」

「漏れている可能性があります」


 椎木の言葉に百瀬の眉がかすかに動いた。


「どこからの情報かね?」

「警察内、及び政府内からです。公安が極秘の各所の内偵を行いその結果が上層部に報告された、らしいとのことです」

「情報漏洩には細心の注意を払っていたのだがな」

「完璧な防諜態勢などありません」


 「計画」が漏れた、と推測されている割に2人のそれほど動揺は見られない。


「政府はどう動くと思うかね?」

「おそらく、陸将を含め中心人物を師団から切り離すでしょう。現在引き上げられている定年年齢を引き下げれば陸将はそれにかかります。また、そうでなくとも既に4年も師団長を務められておりますから異動の理由も立ちます」


 椎木1佐の言葉に、百瀬は奇妙な感覚を覚えていた。

 ハッキリ言って百瀬は政府を軽く見ている。

 表には出していないが軽蔑していると言っても良い。


 転移から現在まで、与党が変わり政府が変わったが、どの政府も現状に対して有用な手を打てていない。

 転移時の政府は対応が後手に回り被害を拡大した挙句、日本が置かれている危機的状況を利用し超法規的に選挙を先のばしにしようとした結果、国民から完全に見捨てられた。

 その後政権を取ったのが現在の与党であるが、その与党の作った政府も取った方針は現状維持。

 その上、国内体制の維持を理由に自衛隊の予算を削ってしまう。

 このため、陸自は岡山の防衛線を維持するので限界となった。海自は新潟や周辺海域からの海底資源の輸送を護衛するだけの存在となり、空自に至ってはほとんど名ばかりの存在になっている。

 これでは失われた国土を取り返すなど夢のまた夢である。


 それだけではない。

 防衛戦の維持も与えられた予算ではギリギリなのだ。

 もし、先年のベヒモス侵攻がもう数年前にあれば岡山は壊滅していたであろう。


(だからだ)


 百瀬、そして歴代の新第4師団長はそれが自衛隊の在り方として逸脱していると認識しながら、岡山を中心に独自の体制を構築してきた。

 政治家に圧力をかけ、或いは繋がりを持ち人事に影響を辺り、物資を優先的にまわさせ――結果、政治家や国民の一部から軍国主義者扱いを受けながらも、護るべきもののため戦ってきたのだ。


 そんな第4師団に対して、政府は及び腰の対応を取ってきた。

 法的にグレーな部分は見て見ぬふりをしてきたし、百瀬の4年に及ぶ師団長の地位もその現れである。


(それが、今になって動き出すとは。政府もまた、変わってきたというわけか)


 この2年の日本での様々な変化は当然政府にも及んでいる。

 政府・与党では現状維持派に代わって開国派と呼ばれるグループが力を持ち海外との交流が増えた。

 冒険者という武装集団を敢えて国内に招き入れ、モンスター対策に当てている。

 情報では、来年度の防衛費は増額されるとも聞いていた。


(政府に見切りをつけたからのこその「計画」だったのだがな……)


 それがここに来て、政府の行動が自分たちの目的と合致するものになってきている。


「時すでに遅し……」

「陸将?」


 思わず漏れた百瀬の言葉に、椎木が首を傾げる。


「いや何でもない。仮に私が排除されたとしても、「計画」は潰れない。――が、「計画」その物の修正は必要ではないかね?」

「おっしゃる通りです。政府の動きもですが、大陸西部にあるという石油。そして、東日本の残留者の動き。新しい要素が増えてきましたので」

「どの道、すべては年明け後だ。準備も済んでいない。「計画」の方は事態がどう動いても対応できるようにしておいてくれ」

「はっ! 状況をシミュレートし、「計画」その物は数パターン用意し事態に備えます」




 そして再び現在。


 福岡市内中央区。

 大濠公園に近いとあるビルの1室。

 そこに、冒険者ギルド日本方面支部の福岡支部がある。


「登記書類に定款……後は――」

「悪いですねスバル」

「まったく。会社起こすのなら司法書士を雇ってくださいよ」


 頭を下げる日本方面副支部長にして福岡支部長であるエドモンド・ルマジャン・マルデーラに対し、書類を確認しながら塩見翠羽良は呆れるようにそう言った。

 塩見が確認しているのは、今度設立される会社の設立に必要な書類である。


「いや、司法書士は雇っているんですが。ちょっとした確認でしたので……」

「だからといって、あまり佐保さんに頼らないであげてください。急に電話で泣き付かれて何事かと思いましたよ。あの人もあれで忙しいのですから」


 ため息交じりにそう言いながら、目の前の種類を1つ1つ見直していく。

 エドに登記に関して手伝ってほしいと言われた佐保は、今日はどうしても外せない用事があると言って代わりに外務省職員で、冒険者ギルド設立準備室で共に働いた塩見にピンチヒッターを依頼したのである。

 佐保にこういった手続きに関する知識がない、という理由もあったのだが、塩見も門外漢である。

 それでも、何が必要なのかを調べこうして応援に駆け付けたのは、佐保からの頼みという他に、一緒に働いたエドへの情もあったからだ。


「日本の指示でギルドを法人登録するというのですから、日本ももう少し融通を効かせてくれてもいいでしょうに」

「今までが異常なほど融通をきかせてきたのですよ。今まで特例として冒険者ギルドをそのまま認めました。今回も「ラグーザ大陸における特殊派遣業務」として法人登録するに当たり、冒険者のために武器使用や持ち込みを法改正しているのですよ。私個人としてはやり過ぎだと思うくらいです」

「しかしですね……どうも、この社団法人というものが」

「法人化することは最初から決まっていたことでしょう。忙しさにかまけて用意を怠った結果です!」


 どうにも納得できないエドの言葉を、塩見はピシリと切り捨てる。

 塩見の言う通り、冒険者ギルドを法人化することは既定路線であり、エドにもそのような話はしてあった。

 何法人にすべきかという議論や、社団法人とするならどういう業種にするべきか、などの議論はあったが、法人化の方針そのものはぶれていない。

 エドは決して必要な勉強や情報収集を怠る人間ではないが、どうも法人化に関してはまた日本が譲歩してくれると思っていたようだ。


(残念だけどエド。今後日本が冒険者ギルドに譲歩していくことはだんだんと無くなっていくよ)


 困り顔のエドを見ながら、塩見は内心でそう呟く。

 日本が収集した大陸の情報。そしてそれに基づきシミュレートの結果、冒険者ギルドの重要性は低下すると見なされている。

 外務省職員として作業に携わった塩見はそれを理解している。

 だが、当事者たちは、そして大陸の多くの者はまだ気づいていないだろう。


(この世界と日本との、情報収集能力、そして分析力の差が出たな)


 だからと言って無碍に扱うわけではない。

 あくまで特別な待遇を改めるだけである。



「所でスバル。聞きたいことがあるんですけど」

「なんですか?」

「本当は、これが聞きたくて佐保さんにお願いしたんですがね――」


 と言いながら、エドは書類を机に置く。


「日本の軍――自衛隊が反乱クーデターを計画しているというのは本当ですか?」

「!?」


 冒険者ギルド――そしてこの世界。

 決して油断してはいけないことを塩見はこの瞬間再認識させられた。


今回登場した龍人は日本語を喋っています。

カタコトなのはそのせいですね。

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