03.神獣というより村の守り神のようです
翌朝、早く起きてすぐに要請のあった村へと向かった。ロックハンド領の領都からは2時間くらいで目的の村の入口が見えた。よく見ると、村の入口に灰色の自転車くらいの大きさの獣が2匹、ウロウロしている。鑑定してみるとこの近辺に生息している狼の雄と雌、夫婦のようだった。これって陳情書に書いてあった神獣の狼なのかな。
狼たちは入口付近をウロウロしているだけで、中に入ろうとはしていないし、村の入口に立っている門番に襲い掛かったりもしていない。襲われているのであれば、助けに行くんだけどなぁ。
馬車が村の入口へ近づいていくと、狼の夫婦はこちらに気付いたようで何度もちらちらとこちらを見ていた。あと10mくらいというところで、狼の夫婦は大きく鳴いた。
ワオオオォォォォン
威嚇なのかと思って護衛が身構えたのだけれど、鳴き終わると何度も振り返りながら森の中へと走り去っていった。
狼が走り去っていく姿を見ているうちに、村の入口に着いたようだ。
ボクは馬車の窓から、門番に話かけた。
「あの狼たちは襲って来ないんですか?」
「昔から、なぜかあの灰色狼たちは人を襲わねぇでぇ。村の中にも、入ってこねぇでぇ。外の熊さ、倒してくれっからぁ、村の守り神と言われてるでぇ」
「不思議なこともあるんですねぇ」
狼が走り去った森をじっと見つめていたら、咳払いが聞こえた。咳払いのした方へ視線を戻すとおどおどした様子の門番が話しかけてきた。
「き、き、貴族の方だと思うんですがぁ、本日は村に何の用があってぇ?」
「ああ、そうだった。ボクたちは王都から派遣された治癒術師なんですよ。村長の家まで案内してもらええませんか?」
ボクがそう言うと門番はおどおどした様子のまま、ボクに疑い目を向けてきた。
まぁ、門番だし少しでも怪しいと思えば疑っても仕方ないとは思う。
そもそも、今回の要請は「優秀な治癒術師を派遣してほしい」というものだったし。今回は貴族らしい服装をしてきたのもあって、ちょっと治癒術が使えるだけの貴族のボンボンとか思われてるのかな。もっと経験を積んだ治癒術師を派遣してほしかったと思ってるのかなぁ。
このまま疑われたままでは、村長の家まで案内してもらえなさそうなので、出発時に国王が放り投げた紙と鞘に鮮やかな細工が施された短刀を見せた。
「これでわかるかな?」
紙には、ボクとミアに対して『ロックハンド領の憂いを鎮静化するように』と書かれている。そこに国王のサインとハンコが押されているのだから、疑いようがない。
もう一つの短刀には、一対の翼の間に上には王冠、下には剣という王家の紋章と、第二王子ジルクスの紋章花『ヤエザクラ』が鮮やかな色合いで施されている。
正直なところ、王家の紋章がどんなものかっていうのはセリーヌ王国の民であれば、ほとんどの者が知っている。だけれど、第二王子ジルクスの紋章花は最近告知されたばかりの者なので、こんなはずれにある村の門番じゃ知らないんだろうなぁ。
ついでにおまけのように短刀の鞘紐には治癒術師の証であるピンバッジがぶら下がっている。治癒術師の証は、試験さえクリアできれば誰でももらえるのだが、まぁ……試験が難しいのは言わないでもわかるか。
門番はボクが出した『勅命書』『王家』『第二王子』『治癒術師』の4種の証を見て、二度見して驚いたあと、手をまごまごとさせて慌て始めた。
「し、し、失礼しました。こっちでぇ」
門番に誘われるようにボクたち一行は村長の家へと案内された。




