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2.紋章用の花選びをしました

「試練の祠へ行って、紋章の花を選んで来なさい」


成人の祝いの翌日、父に呼ばれるとそう言われた。


「試練の祠って、王太子が行く場所じゃないんですか?」


今までずっとそう聞いていたのに、一体どういうことなんだ!?

疑問に思って聞き返すと、父は目を逸らしながら答えた。


「すでにカーマインには伝えてあるのだが……」


試練の祠というのは、もともと紋章用の花選びをする場所で、王太子候補が訪れる場合にのみ試練の魔法を発動させるのだそうだ。

普段は池のある広い庭園らしい。


試練の魔法がどういったものか後でチェックしよう。

そう心に決めて、試練の祠へと向かった。



王都から少し離れた場所にある試練の祠へ行く途中、山の麓が薄桃色で染まっていることに気が付いた。

その場で馬車を止めさせた。


「少し、ここで休憩していてくれ」


そう伝えて、山の麓の方へ歩き出す。


「殿下はどちらへ行かれるのですか!?」


御者と近衛騎士たちが慌てて声を掛けてきた。


「すぐ戻ってくるよ」


山を指さして、飛行スキルを発動させた。すると御者と近衛騎士は驚いて目を見開いていた。


そういえば、ミア以外の前で飛んだことなかったなぁ。


ふわっと浮かんだあとは、高速で目的地まで飛んでいった。

山の麓の薄桃色……それは、桜だった。

花びらが複数枚あるから、八重桜だろう。


桜の根元に降り立ち、見上げると一面の薄桃色……いや、桜色だった。

この世界にも桜があるということを知って、なぜかほっこりとした気持ちになった。

しばらく見惚れていたのだが、ふと不自然に枝が折れている箇所があり、その下を見れば折られた枝が落ちていた。

風で折れたのか動物にやられたのか……。


たしか、ソメイヨシノは全てクローンで種ができず、挿し木でしか増やせないんだったかな。

八重桜も同じように挿し木をしてみたら、育つのだろうか。


そんなことを思い、落ちていた花のついた枝を持ち帰ることにした。


急いで戻ると、近衛騎士があたふたとしていた。

護衛対象が途中でどこかへ行けば、慌てても仕方ない。

心の中で謝りつつも、何気ない顔でまた馬車に乗り込んだ。



そこから試練の祠へは、すぐだった。


祠の入口で鑑定をしてみたけれど、試練の魔法のようなものは引っかからなかった。

もしかしたら、中にあるかもしれない。


御者と近衛騎士を入口で待たせ、祠の中へ進んでいった。

入ってすぐ思ったのだが……これは、人工的に作り出された洞窟のようだ。

10mくらい進んだ場所に池のある広い庭園があった。


庭園には色とりどりの花が咲き乱れていた。

しかも、季節無関係で咲いているのには驚いた。

キョロキョロと辺りを見渡せば、試練の祠に掛けられている魔法が見つかった。


分類としては、生活魔法にはいるのだろうか。

幻想迷路(イリュージョンメイズ)という魔法は、特定の範囲内が迷路になったように錯覚するというものだった。

ちょっと高度なものだと思う。


他にもないかとキョロキョロしていると温度管理のスキルが発動していたので、それも覚えることにした。

このスキルのおかげで、春なのに冬の花や夏の花が咲いている。


よく見ると奥の方でガサゴソと何かが動いた。

身構えつつも、じっと見つめていると花々の間から灰色の服を着たおじいさんが現れた。


おじいさんはボクの顔を見ると


「ここにある花から好きなものを一つ選んで摘んでいくがいい」


と言って優しそうな笑みを浮かべた。

おじいさんは髪も髭も真っ白でふわふわでもさもさで……。


「ま、まさか……ドワーフ!?」

「人間じゃわい!」


思いっきり怒られた。


ステータスをチェックしたら、職業:庭師、種族:人間と書かれている。

ここの世話をしている人なのだろう。


多種多様な花を庭園いっぱいに咲かせるとか、きっと手入れとか大変なんだろうな。

もしかしたら一株一株丹精心を込めて育てているのかもしれない。

そんな大事に育てた花を選んで摘んでいいのかな?

前世の母だったら、庭のガーベラ一本だって手折ったら怒ってたぞ。


花を選ぶのに迷うというより、摘むほうに躊躇していたら、先ほどの桜の枝を思い出した。


「おじいさん、ここにない花ではいけませんか?」


そう聞くとおじいさんは目玉が飛び出んばかりに驚いた顔をしていた。


「ここに持ってきてくだされば……」


だんだん声が小さくなっていたけれども返事があった。

何かまずいことを言ったのだろうか。


「取ってくるので待っててください!」


ボクは入口へと走った。

さっきの桜の枝は、馬車の中に置いてきたのだ。


すぐに八重桜の枝を持って、おじいさんの元へ戻った。


「コレなんですけど」

「ほう、珍しい……『ヤエザクラ』だのう。花言葉は『豊かな教養』『善良な教育』『しとやか』だのう」


この世界でもヤエザクラと呼ぶのかと驚いた。


「本来は別の呼び名であったのだがのう。むかぁし、『これはヤエザクラだ!』と言い張る貴族がいてのう。その貴族がありとあらゆる権限を使って、名前を変えてしまったのじゃ」


その貴族も転生者……しかも元日本人だったのかもしれないなぁ。


おじいさんは、もと来た道を指さした。

帰れって意味なんだろうけど、ボクはついでに聞きたいことがあるのだ。


「おじいさん、このヤエザクラの枝を挿し木で育てることってできますか?」


おじいさんはまたも目玉が飛び出さんばかりに驚いた。

いや、これって驚いてるんじゃないんだ。状態異常に何の表示もないから、クセなのかもしれない……。


「できますぞ。ワシの植樹スキルがあればどんな木でも、植えることが出来ますぞ」

「おおお!」


おじいさんのスキルをチェックしたら、植物に関するありとあらゆるスキルを持っているようだった。

もちろん、すべて覚えさせてもらった。


そうしておじいさんに鉢と土を分けてもらい、ヤエザクラの枝を植樹してもらった。

土に枝を挿して、スキルを使うだけで根付くなんて、やっぱり魔法って便利だなぁ。



鉢植えごと王宮へ持ち帰り、大きくなるまでボクの部屋で育てることにした。

ボクの紋章はヤエザクラの花と葉が描かれたものになった。


庭師再び!

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