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39.たぶん初めてデートしました

次の休息日、いつものティールームの外で待ち合わせをした。

今日は家庭教師ではなく、デートをするのだ!

昨日は早めに念波を切ったのにも関わらず、ワクワクして寝るのが遅くなってしまった。


待ち合わせの時間よりも早めについたのだけれど、すでにミアが立っていた。


「ごめん!待った?」

「今きたところだから」


ミアは嬉しそうに笑っていた。それを見て、ボクの顔が蕩けそうになったがぐっと堪えた。


「今日は春祭りへ行くんだよね?」

「そうそう。中央広場を中心に楽団や曲芸、屋台や露店とかたくさん出てるって」

「面白そう……早く行こう!」


ミアはすぐに歩き出そうとした。ボクは慌ててミアの手を掴み、絡めるようにつないだ。

いわゆる恋人つなぎっていうやつをすると、ミアがはにかんだような笑みを浮かべた。

前もこうやってつないでいたのだけれど、意識しだすと変わるものなのだろう。

だって、ボクだってニヤけるのをぐっと我慢中なんだしね!


学術特区からほど近い場所から、屋台や露店がぽつぽつ見え始めた。

薬草やポーション、貝で出来たアクセサリー、炭や薪などの生活用品、香水を売っているお店まである。

普段はあまり見かけない店が並んでいるため、ついついキョロキョロしてしまう。

その間もミアの手は離さない。時々、ふっとミアを見つめてはニヤってしてしまうのは仕方ないこと。


中央広場に近づくにしたがって、屋台が増えてきた。

クレープみたいな薄い生地に肉や野菜を包んで四角く折りたたんだもの、揚げた饅頭のようなもの、カットしたフルーツ、どう見てもたこ焼きにしか見えないもの、焼きとうもろこし……食欲をそそる匂いがプンプンする。

ミアがぎゅっと手を握って引っ張ってきた。


「ん?」


引っ張られて進んだ先には、リンゴ飴が売られていた。


「小さい頃、親に頼んで買ってもらって、でもいっつも食べきれないで残してた」


ミアはぼそりと言った。

今世の親ではないんだろうなぁ。

懐かしい気持ちと少しだけ寂しい気持ちになった。


「試してみようか」


そう言ってリンゴ飴を1つ買い、ミアへ渡した。


「家に帰ったら食べて、もし残したら呼んで?残りを食べてあげるから」

「うん!」


間接キスになるなんてミアは気付いていないんだろうなぁ。


他にサンドイッチや飲み物などを買って、楽団や曲芸を見て回った。

歩き疲れてキョロキョロしていたら、ちょうどベンチが空いたので2人で座った。

先ほど買ったサンドイッチやクレープもどき、カットフルーツや飲み物を2人で分けて食べた。


ひとごこちついたところで、この一週間考えていたことを聞いてみることにした。


『恋人になったばかりだけど、いつ婚約しよっか?』


前回の教訓をもとに、日本語で話しかけてみると、ミアはきょとんとした顔をした。

この世界の王族貴族は、基本的には政略結婚をする。

親同士が相手を決めて婚約し、その後結婚するというものだ。

だが、時々恋愛結婚をする場合がある。

その場合は、本人同士の間で恋人になり、両方の親の許可を取り婚約、その後結婚に発展する。


『あ、そっか……』

『今のままだと、別に婚約者用意されてしまう可能性もあるからね。早めにそれはつぶしたい』


ぐっと握りこぶしを作って話すとミアはくすっと笑って言った。


『大丈夫だよー。私はジル一筋だから』


ミアがそうであっても、スウィーニー侯爵がどうかはわからない。

マイン兄の結婚披露宴での一言やその後の護衛と称した監視などの行動を考えれば、ボクが相手なのは気に入ってないのだと思う。

もしくは、すべての男を拒否している可能性もあるが……確認してみないとわからないな。


『ボクもミアのことしか見てないよ。だから、すぐにでも婚約の許可を取りに行ってもいい?』

『う、うん。照れるけどいいよ!』


2人で見つめ合ってニコニコしていた。


『それじゃ、国王への謁見の許可取ってくるよ』

『!?』


ミアが驚いた表情のあとすごく残念なものを見るような目で見られた。


『あ、そういえば、ジルって王子様だったね……』

『そうだよ!?一応、王子だよ!?』

『すっかり忘れてた……ごめん』

『ちょ、ひどくない!?』


ちょっとムッとしたので、問答無用ですぐに王宮へ向かうことにした。



ミアは普段着のままだったのだけれど、そのまま王宮の応接室へと連行した。

居心地が悪そうにソファーに座っているミアを見ているとなんだか悪い心がムクムクと湧いてくる。

戸惑っているミアも可愛い……クスクス。


しばらくすると、国王()が走って応接室へ入ってきた。

その姿にミアもボクも驚いた。


「ジルクスが婚約者を連れてきたって!?」


父ってこんなキャラだっただろうか……。


「はい、こちらがスウィーニー侯爵家のミア嬢で、ボクの恋人です」


ミアの腰をぎゅっと抱きしめてそう答えた。

ミアは立ち上がりたいのに立てずにあたふたしていた。


「ミア・フォン・スウィーニーでございます。本日はこのような格好で申し訳ございません」


スカートのすそをちょこんとつまんで座ったまま挨拶した。

父はミアを上から下まで凝視し、その後下から上へと視線を戻しにんまりと笑った。


「楽にしてよい。ジルクスの恋人であれば、気を遣わずともよい」


そう言われたけれど、ミアは緊張しているようで体が強張ったままだった。


父に婚約したいと伝えるとすぐに許可を出そうとした。

その前に1つ頼みごとを伝えると、父はくくくと笑って引き受けてくれた。


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