09.ミアの成人を祝いました
ミアの十五歳の誕生日……成人の祝いの日がきた。
スウィーニー侯爵が用意したミアの成人の祝いは、ガーデンパーティ風に装飾された部屋で立食形式で行うというものだった。
室内にはたくさんの観葉植物や樹木が置かれてあり、庭にいるような感覚になる。
あまりみない形式の装飾なので、参加している貴族たちは普段よりも楽しそうに見える。
さらにテーブルにはいろんな地方の名物料理やスイーツがたくさん並んでいる。
よく見れば、王立学院近くのティールームで出されるスイーツと全く同じものが並んでいる。
もしかしたら、マスターが臨時出張して作っているのかもしれない。
ボクは真っ先にミアのもとへと向かう。
「招待ありがとう」
「来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってね」
声を掛けるとミアは恭しく淑女の礼をして、にこりと微笑んだ。
今日のミアは淡いパステルカラーの桃色のドレス、膝から下部分に赤や黄色などのカラフルな大きい花が飾られているという変わったもの。その飾られている花と同じ花でできた花冠が、ガーデンパーティ風の室内にぴったりだ。
「来たのか……」
そう言ったのはミアの父であるスウィーニー侯爵。
ミアの隣ですごく嫌そうな顔をしている。
「父様……ジルクス殿下に失礼です」
ミアが口をへの字に曲げてそういうとスウィーニー侯爵がふんっとそっぽ向いた。
「気を悪くしたらごめんなさい」
「いつものことだから大丈夫だよ」
ボクが苦笑しながらそう言うとミアも同じように苦笑いを浮かべていた。
「あいさつ回りをしたら戻ってくるよ。またあとで」
ミアが頷くのを見たあと、ボクは他の貴族へ挨拶するために離れた。
最近は、令嬢よりも子息を紹介してくる貴族が増えた。
ボクがセリーヌ王国内の領地を巡る……監査のような役割を担ったことは発表済みだ。
その旅のお供にうちの息子はどうですか? って言われてもねぇ。
今以上の人数で動くと目立つから、間に合っているとしか言いようがない。
ある程度、挨拶が済んで、ミアのもとへ向かおうとしたところでゆったりとしたダンスの曲が流れ始めた。
すると部屋の中央部分にいた人々が移動して、瞬時にダンスフロアができた。
曲が流れても誰も踊ろうとしない。
本日の主役であるミアが踊らないと始まらないのだ。
ミアと誰が踊るかなんて……婚約者であるボク以外いないわけで……。
ボクは少し離れた場所にいるミアのもとまで向かう。
ミアはボクが近づくにつれて満面の笑みへと変わった。
「ミア嬢……ボクと踊っていただけますか?」
「はい」
ミアの腰に手を回してダンスフロアへ向かう。
二人だけでゆっくりとダンスを踊れば、自然と顔が緩んでくる。
「誕生日おめでとう、ミア」
「ありがとう、ジル」
「あのさ……」
ボクはこの成人の祝いに参加するにあたって一つやりたいと思っていることがあって……。
それをミアに告げると恥ずかしそうにしながらも頷いてくれた。
曲が終わる前にボクとミアはダンスをやめて立ち止まった。突然の行動に周囲にいた貴族たちは怪訝な顔をする。
ボクは一度周囲を確認したあと、ミアを見つめて……その場で跪いた。
「初めて出会った日からずっと惹かれている。もう、婚約者では満足できないんだ。ミア、どうかボクと結婚してください」
そこまで大きい声を出していなかったんだけどなぁ。
曲を演奏していた楽師たちも含めて、みんながみんな動きを止めた。
そして、視線がミアへと移っている。
ミアは恥ずかしそうに顔を赤くしながら言った。
「はい、ずっとあなたのそばにいさせてください」
そっと手を差し伸べるとミアが手を乗せてくれた。
その瞬間、ボクたちを見ていた貴族たちから拍手が起こり、楽師たちは演奏を再開した。
ボクは立ち上がり、周りの貴族たちに向かって言った。
「ボクはミア一筋なので、愛人を作る気はない。令嬢たちにはそのあたり理解した上で接していただきたい」
きっぱりとそういうとこれまでミアに文句を言っていた令嬢たちが視線を彷徨わせていた。
さっさと諦めて他の子息たちを捕まえにいかないと、いい男はどんどん売れていくって理解してほしいとこだよねぇ。




