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06.前世を明かしました

 すぐに追いかけたんだけど……リザベラに阻止されて、会話をさせてもらえなかった。

 それならば念話で……とイヤーカフに魔力を送ったら、一瞬熱くなってすぐに冷えた。

 もう一度魔力を送ったら熱くならなかった。

 たぶん、イヤーカフを耳から外して念話が届かないようにしたんだと思う。

 それほど怒っているのかぁ……。

 あまりのことに愕然として、その後どうやって過ごしたか覚えていない。

 気がついたら朝になっていた……。


 一晩中あれこれと悩んだけど、このままでいいはずがない。

 ボクは覚悟を決めて、スウィーニー侯爵家へ向かうことにした。

 普段なら馬車で向かう道を馬で走らせる。

 すぐにスウィーニー侯爵邸へとついた。

 連絡なしの突然の訪問にもかかわらず、スウィーニー侯爵家の執事はすんなりと応接室に案内してくれた。

 ソファーに座り、ミアが来るのを待つ。

 突然の訪問だから、準備がかかるだろう。

 もしかしたら、ボクが帰るまで来ないかもしれない。

 大きなため息をついたところで、ノックの音とともに口をへの字に曲げたミアが現れた。

 どんなミアでもかわいいなぁ……と思っていたら、向かいの一人掛けのソファーへと座った。

 隣に座ってもらえないというのは……堪えるなぁ……。


「お話があるとのことですが……!」


 とげとげしく話すミアを見つめながら、小さくため息をついた。

 ボクが前世に囚われすぎていたせいでミアをこんなに怒らせてしまうなんて……。


「人払いをお願いしてもいいだろうか?」


 ボクがそう言うとミアはリザベラに視線を送った。リザベラは大きく頷くとそそくさと他の侍女とともに出て行った。

 しばらく無言のままじっとミアを見つめる。

 昨日の言動について説明するためには、前世が女だったことを伝えないとならない。

 聞いた後、ミアがどういった反応するか想像すると不安になる。

 でも、言わないままでもこのまま疎遠になって婚約破棄されるかもしれない。

 ボクは覚悟を決めると口を開いた。


「ミアに今まで言っていなかったことがある。実は」


 そこで区切って大きく深呼吸をしたあと続けた。


「ボクは前世では女だったんだ」


 ミアは目を見開いて驚いたあと、口をパクパクとさせたまま何も言わなかった。


「結婚を控えた時期になくなって……そして第二王子として生まれ変わった。ミアと出会って身も心も男だと自覚したはずだったのに……前世の記憶に左右されて、ミアに不快な思いをさせた。本当にごめん」


 ボクはその場で深々と頭を下げた。

 頭を下げたまま、しばらくするとミアの声が聞こえてきた。


「……もう、いいよ。顔をあげて……」


 ゆっくりと頭を上げると視線を泳がせたミアがいた。


「前世で着れなかったから、代わりに着てほしかったんだね……」

「ボクが間違っていたんだ。ミアが言ったとおり、一生に一度なんだから、身代わりにされたら気分悪くするよね」


 前世の恋人も『一生に一度』だと言って、自由にさせてくれた。

 それってきっとこんな気持ちだったのかもしれない。


「その一生に一度が前世では叶わなかったんでしょう? それを今世の私に託したかったんじゃないの?」


 ミアはまだ視線を彷徨わせたままだったけど、そう言った。


「結果的には託したかったんだと思うよ」


 しばらく無言が続いたあと、ミアはしっかりと視線をボクに据えて言った。


「もう一度ちゃんと話をしよう……ジルの前世を託されるなら、できるかぎりのことをしたい。できないこともあると思うけど、できることもあると思うの。だから……」

「……ありがとう、ミア」


 前世が女性だったボクを受け入れてくれるミアには感謝しかない。

 

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