05.ミアが怒りました
スウィーニー侯爵から結婚の許可が下りたことで、本格的に準備を始めることになった。
と言っても何から始めればいいのかわからない。
前世だったら結婚情報誌が売られていたから、それを読むことでだいたいのことはわかった。
今世ではそういった書物は売られていない。
ではどうやって結婚についての情報を得るか……というと、既婚済の身近な者から聞いて参考にするのだそうだ。
そんなわけで、ボクはマイン兄とルミリアラ義姉にお願いして時間を作ってもらった。
「本日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
中庭が見える広間でミアとともに軽く頭を下げると、マイン兄とルミリアラ義姉がにっこりと微笑んだ。
「まずは……プロポーズ成功、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
マイン兄の言葉に照れつつお礼を言う。横にいるミアも恥ずかしそうだ。
「どんな風にプロポーズされたのかすごく気になるところだけど……まずは座りましょ!」
ルミリアラ義姉の言葉に促されてソファーに座ると、侍女たちが紅茶やスイーツを運び始めた。
「結婚式の流れについて……だったよね?」
「はい。ボクはマイン兄たちの結婚式に参列したことがあるので多少は知っているのですが、ミアはそういった経験がないので……」
「ぜひともお二人がどのように計画を立て、どのような結婚式を行ったのか……ご教授いただければ……と」
「そんなに硬くならなくても大丈夫よ。せっかくだし、スイーツを堪能しながらお話しましょ!」
ルミリアラ義姉はそう言ったけど、ミアは緊張した様子のまま視線を彷徨わせていた。
ボクは落ち着かせるようにそっとミアの背中を撫でた。
するとミアはボクの顔を見つめて小さく頷いた。
「ふふっ……相変わらず二人とも仲睦まじいようで嬉しいわ」
あ……マイン兄とルミリアラ義姉の前だっていうのに、ついつい二人の世界に浸ってしまった。
「さっそくだけど、結婚式の流れについて……だったね?」
「はい。ボクはマイン兄たちの結婚式に参列したので多少は知っているのですが、ミアはそういった経験がないので……」
「よろしくお願いします」
「では、私のほうから簡単に説明するわね」
ルミリアラ義姉は結婚式の入場から退場までの流れを順々に教えてくれた。
そこへマイン兄が補足を加える。
「結婚式というものは神に対して報告を兼ねた儀式の一種なんだ。だから、いくつかは必ず行わなければならないんだけど、いくつかは省略することができる。逆に付け足すことも可能なんだ」
「最近の流行りは、紋章花の交換のときに小さな花束を未来の旦那様から託されることみたいね。私たちのときは誓いの言葉だけじゃ足りないから、親愛のキスを頰にしたし……」
ルミリアラ義姉は自分たちの結婚式を思い出したようでほんのりと頰を染めた。
その姿をマイン兄が眩しそうにしながら見つめている。
この二人は本当に仲がいいんだなぁ。
「付け足せるんですか……いいですね」
「ジルは何かやりたいことがあるんだね?」
「いろいろあるので、その辺はミアと相談して……ですね」
ボクがそう答えるとマイン兄はにっこりと微笑んで言った。
「そうだね、二人の結婚式なんだから、二人で相談するのが大事だよ」
「私たちのときはね……」
その後は、マイン兄とルミリアラ義姉の結婚式はどういう流れだったか、結婚式を行うまでにどういった話し合いをしたかなどを聞き、時間が過ぎていった。
***
マイン兄とルミリアラ義姉の話を聞いた後、ボクとミアは別室へ移り、結婚式について話し合うことになった。
大事な話し合いであるため、扉付近にリザベラが立ち、窓のそばにはヘキサとテトラが立っている。
他の侍女たちには席を外すよう伝えた。
「ルミリアラ様のドレスへのこだわりすごかったね」
ソファーに座ったミアがどこか遠くを見つめながらそう言った。
きっと、先ほどまでのルミリアラ義姉の様子を思い出しながら話しているのだろう。
「そこまでこだわっていたとは知らなかったよ。ミアも同じようにしたい?」
「私はレースたっぷりだったらいいかな……」
「ボクはミアには純白のウェディングドレスを着てほしいな……」
「え? 結婚式で着るドレスやタキシードは神様に見てもらいやすいように髪か瞳の色に合わせたものを着るんでしょう?」
ミアはボクの発言にきょとんとした顔をしながら答えた。
結婚式は儀式の一種だから、ドレスの色は変更できない。
それはわかっているんだけど、どうしてもミアの純白ウェディングドレス姿を見たいと思ってしまう。
「そう……だよね」
仕方ないと思いつつもしょんぼりとしてしまう。
それなら……。
「じゃあ、紋章花の交換のところでミアにはブーケを渡すから、結婚式場を出たあとにブーケトスとか……」
「結婚式って三親等までの親族だけでしょ? 未婚ってシルル姫しかいないんじゃない?」
「あ……そうか……じゃあ、せめてフラワーシャワーを……」
「結婚式場を出たらすぐにパレードでしょう?」
「うう……」
ボクが前世で行いたかったものを伝えれば伝えるほど、ミアは首を傾げていく。
「ねえ、ジル。どうしてそこまで……前世の結婚式にこだわるの?」
そういえば、ミアにボクの前世を伝えていなかった気がする。
「ああそれは、ボクは前世で結婚式を目前に控えた状態で亡くなったから」
そう言った途端、ミアの表情が一気に曇った。
「それって前世の彼女と私を重ねて見てるってことだよね?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
前世の彼女にさせたかったこと……じゃなくて、前世の自分が叶わなかったことを口に出していただけなんだけどねぇ……。
ボクの前世が女だったということはまだミアに伝えていない。
それを聞いたら離れていくんじゃないかという不安があるから……。
どうしようかと悩んでいるうちにミアは口をへの字に曲げた。
「一生に一度の結婚式なのに、前世の彼女の代わりなんて……ひどすぎる! ジルのばかー!」
ミアはそう言うと部屋から出て行った。
それに合わせて、リザベラも部屋を出て行く。
「って、え? ちょ、ちょっと待って、ミア~!!」
ボクは慌ててミアを追いかけた。




