03.初々しく見えたようです
「ミアはどんな結婚式を挙げたい?」
ボクは照れながら、ミアにそう質問をした。
するとミアは顔を赤くしながら、首を傾げた。
「昔も今も結婚式って参加したことがないの」
昔も今も? あ、昔っていうのが前世で、今っていうのが今世ってことかなぁ。
ティールームのマスターたちが聞いているかもしれないから、言葉をぼかしたんだろうねぇ。
前世でも今世でも結婚式の経験がないなら、想像がつかないはずだ。
「昔の結婚式は純白のウェディングドレスを着てね……」
ミアの言葉に合わせつつ、ボクは昔……前世で行おうとしていた結婚式について話した。
教会で新婦は父親と腕を組んでバージンロードを歩くこと、神父の前で結婚の誓いを行うこと、リングの交換や誓いのキスを行うことなどなど。
「教会を出たあとは、フラワーシャワーがあって、そのあとにブーケトスっていうのが流れだったよ」
「ブーケトスって、後ろ向いてぽーんっと投げるアレ?」
「そうそう、花嫁が投げたブーケを手に入れたら、次はその人の番~って言われていたやつ」
「早く結婚したい人たちで奪い合うんだよね! ドラマで見た覚えがある~」
「今はないんだよ」
「え? そうなの?」
「うん。今の結婚式は……」
自分の髪または瞳の色と同じ色のドレスを着ること、リングの交換ではなく紋章花の交換を行うことなどを説明した。
「もっと細かい決まりがあるかもしれないから、今度一緒に詳しい人に話を聞こうか」
「うん、そうだね!」
もう一つ話しておかないといけないことがあるんだけど、内容的にこの場で口に出すのはマズイだろう。
お忍びでやってきているのに素性がバレるようなことは言うのはちょっとなぁ。
どうしようかなぁ? と思っていたら、イヤーカフが熱を持ち始めた。
【どうしたの? 何か言えないこと?】
【ナイスだよ! ミア!】
【え?】
ボクはつい思ったことをそのまま念話で伝えてしまい、急に恥ずかしくなった。
【えっと、結婚式なんだけど、こちらの都合で来年のボクかミアの誕生月のどちらかにしなきゃいけないんだって】
【え? どうして?】
【結婚式には父が……国王が参加するからさ、一年以上先じゃないと予定が組めないって】
【あ~……そっか、ジルは王族だもんね】
【そうだよ……王族だから、パレードもあるし、近隣諸国から賓客も来るんだよ】
【うぅ……パレードはちょっと恥ずかしいね……】
ミアはパレードを想像したようでほんのりと頰を赤くした。
離れた場所から咳払いが聞こえてきた。
振り向くとにこにこと笑顔のマスターが大きく頷いた。そして、これまた笑顔のウェイトレスが淹れなおした紅茶とショートケーキを運んできた。
「こちらをどうぞ」
どうしてこんなに笑顔なんだろうか。
不思議に思っていたら、ミアから念話が届いた。
【ジル~……私たちって念話で話してるから……他の人から見たら、無言で見つめ合ってるように見えるかも……】
【あ……だから、暖かい目で見られているのか……とりあえず、食べようか】
【そうだね……】
何とも言えない気持ちになりながら、両手を合わせて呟いた。
「「いただきます」」
ミアと同じタイミングでそういうと自然に笑みがこぼれた。
きっと、将来、一つの食卓で同じように食事の挨拶を交わすんだろうなぁ。
そう考えるとさらに笑みが深くなった。




