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14.閑話:バートのゆううつその2

 いきなり現れた悪魔によって何度も紐なしバンジーをやらされた。

 あの男をご主人様と呼ぶアレは悪魔に違いない。

 見た目は天使のような真っ白い翼を持っていたけど、あんなことを笑顔で嬉々としてやったあげく、宿泊している建物の屋根の上に置き去りにするとか、天使のはずがない! アレは絶対、悪魔だ!


 あの男が現れてから、オレの予定は狂った。

 オレはソフィア姫の伴侶となり、帝国を支配するはずだったんだ。

 それをあの男が現れたことによって、ソフィア姫の目はオレを全く見ようとしない。


 ああ、イライラする。


 あの男自身に手を出せば、またあの悪魔がやってくるだろう。

 さすがにそれは避けたい。

 ……となれば、次に手を出すべきはあの男の婚約者だろう。

 

 まずはあの男の婚約者がどういった人間かを探るところからだ。

 情報屋を通じて調べたところ、あの男の婚約者は黒髪紅眼の少し変わった服を着たスウィーニー侯爵家の令嬢のようだ。

 

 すぐにスウィーニー侯爵家まで偵察に向かったが、敷地が広すぎて庭の様子は見れない。

 馬車に乗っている姿でも拝見するかと思ったが、カーテンに遮られて見えない。

 王宮の入り口で待ち伏せしてみたが、なぜか近衛騎士に追い払われて近寄ることすらできない。


 厳重な警戒態勢に嫌になっていたら、パッと閃いた。

 スウィーニー侯爵家の屋敷に商人として品物を売りつけに行けば、会えるじゃないか。


 宝飾品を用意し、スウィーニー侯爵家へと向かうとすんなりと敷地内に入ることができた。

 そして、出迎えたのは情報どおりの黒髪紅眼の美少女だった。


「ごめんなさい、今日はお父様もお母様もお出かけしてますので、私が対応させていただきますね」


 にっこりと微笑みながら、そう言われた。少し自分の頬が熱い気がしたが気のせいだろう。

 なぜかドキドキしてしまい、うつむくと細い足が見えた。

 この世界で、貴族の令嬢は短いスカートを履かないのだが、この美少女は膝丈のレースたっぷりのスカートを履いていた。

 日本にいたころこういった服をきたアニメキャラがいたことを思い出した。


「今日はとても天気がいいので、こちらへどうぞ」


 案内されたのは屋敷の中ではなく、庭にある東屋だった。

 東屋と言っても、簡素なものではなかった。ゴージャスというよりは、デリシャス? いや、違うな……エレガントといった感じだ。

 だんだんと日本語……というか英語を忘れていってることにショックを受けた。


「どういったものをお持ちになったんですか?」


 美少女がまた、にっこりと微笑みながら言った。

 その横で、侍女がお茶の用意をしてくれた。用意が終わると、侍女は東屋から出て行った。


 これで美少女と二人っきりになれる。チャンスがやってきたのだ。


「実はですね……」


 オレは荷物を開けるふりをしつつ、美少女に近づいていく。

 美少女はきょとんとした表情でこちらを見ている。

 緊張のせいか、手に汗をかきはじめた。


 そして……美少女の手をつかもうとしたら、バチンという音とともに弾かれた。


「へ?」


 何度も何度も繰り返し、つかもうとしたのだが掴むことができない。


「どうなってるんだ!」


 そう声をあげ、美少女の顔を見るとさきほどまでとはまったく違った表情をしていた。


「悪い商人には、オシオキが必要ですよね! オール~」


 にんまりといった感じの笑みを浮かべながら、そう言うと東屋の入り口に大きな犬が入ってきた。


 ヤバイ。オレ……犬はダメなんだよ!!


「この人で、好きなだけ遊んでいいよ」


 オールと呼ばれた犬は美少女の言葉が理解できるようで、ウォンと一声吠えるとオレに突進してきた。


『く、くるなあああああああ!!』


 この後、日が暮れるまで延々と犬に追いかけまわされた。

 敷地内から出ればよかったんじゃ? とか思うだろうが、きっちり門を閉められて出られなかった!


 あの男の関係者とかかわるのは、やめるべきだったのだろうか……。


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