13.護衛が増えました
「主様、さっきの人を送り届けてきたよー!」
王宮の建物から門へと向かう途中でテトラが空から降りてきた。
ゴスロリメイド姿で天使の翼を広げて降りてきたものだから、近衛騎士たちが驚いて変な声をあげている。
しかし、どこへ送り届けたんだろうか。まぁ、バートだしいいか。
「そうか。そういえば、どうしてテトラは急に現れたんだ?」
「主様がなかなか呼び出してくれないから、遊びにきたんだよー! そしたらいきなり胸倉つかまれそうになってー」
あれは、狙って現れたわけじゃないのか。
一人で納得していたら、テトラが口をとがらせて言った。
「どうしてもっと早く呼んでくれなかったのー? あんな面白い人がいるなら、いっぱい楽しめたのに! ヘキサもヒマしてるから、呼んであげてねー」
「あ~そうなんだ……じゃあ、呼ぼう。……呼出・ヘキサ!」
ボクの呼び声に反応して、何もない空間からヘキサが現れた。
「……お待ちしておりました。ジルクス様」
「ヘキサも久しぶり……元気そう……でもないね。なんだか、悲壮感漂うというか……」
「ジルクス様がお呼びしてくださらなかったので、我々のことは不要になったのかと……」
「不要になるわけないよ。帝国のお姫様やこの間の領主の事件で黒幕ぽかった男がきたりで忙しかったんだ」
忘れがちだけど、バートはロックハンド領を混乱に陥れた犯人だ。すぐにでも捕まえて処罰を下したいところだけど、一介の商人のくせにソフィア姫の従者としてきているため、なかなか手出しができない。
先ほどのボクに対する発言だって、処罰されないと思って言っていたようだし……。
ボク自身だけでなく、セリーヌ王国に対しても舐めすぎだろう。
堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だよなぁ。
「そういう人物が現れたのであれば、なおさら我々を呼んでくだされば!」
「悪かった」
ボクが謝るとヘキサは大きく頷いた。
「これからミアを迎えに行くんだけど、ミアの護衛を頼めないか?」
「護衛……でございますか?」
「うん」
ボクがそういうとヘキサは難しい顔をして言った。
「ミア様には、不要だと思います」
「え?」
聞き返そうとしたけど、ヘキサはそれ以上答えなかった。
しばらくすると門についた。
門の近くの応接室にはミアとリザベラがいた。
「今日はリザベラと一緒だったんだね」
「そうなの。なぜかお父様が一緒に行くようにって言ったの」
きっとスウィーニー侯爵のことだから、ミアがソフィア姫に絡まれた話をどこかから聞いたんだろうなぁ。リザベラなら侍女であると同時に護衛もできるしね。
もしかして、さっきヘキサが護衛しないと言ったのはリザベラが一緒に来ていたからだろうか。
会う前にリザベラいるって判断してのことか?
なんだか腑に落ちなくてモヤモヤした気持ちでいるとそれに気づいたテトラが言った。
「主様ー? ミアちゃんには護衛がすでにいるからうちらは要らないんだよー」
「リザベラがいるってこと?」
「ううん、違うよー。少し小さい狼だよー!」
「「え?」」
ボクとミアは同時に驚いて、首を傾げた。
「ミア様の首に掛けてある翡翠の玉を依代として呼び出すことが可能でございます」
ヘキサがそう言って、ミアの首元に視線を送った。
「あ、もしかしてロングフィールド領で治癒術を施した狼の子どもからもらったコレ?」
ミアは服の内側から翡翠色の丸い石を取り出した。
「呼ぶってことは召喚かな。事前詠唱と発動言語
を教えるね」
ボクはミアに事前詠唱と発動言語を教えると外へ出るように促した。
あの時の狼の子どもが召喚された場合は、シベリアンハスキーサイズで済むけど、もし大人の狼が召喚された場合は自転車のサイズを超える場合もある。
そんなサイズのものを召喚するならば、外に出るしかないだろう。
「……召喚!」
ミアの声が響くと淡い光を放ちながら、少し小さめの自転車サイズの狼が現れた。その狼の尻尾には、ミアが結んだリボンが付いている。
「あのときの子だね」
ボクがミアにそう声をかけたのだけど、反応がなかった。
ミアはじっと狼の子どもと目を合わせたまま動かない。
しばらくすると狼の子どもは地面に伏せた。そして、ヘキサとテトラの時と同じように、ミアが狼の子どもに触れると透明だった体が実態化した。
「この子の名前は、オール。召喚獣になるために翡翠の石を渡したのになかなか呼んでくれないから寂しかったんだって」
頰を赤くしながら楽しそうにミアは言った。
あとで聞いたところ、召喚者と召喚獣は意思の疎通ができるらしく、ミアはオールの声なき声がきこえるそうだ。




