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10.閑話:ソフィア姫とお茶会

!注意!

書籍版でカーマイン王子の嫁の名前が

リュミリアナ(ミリア)からルミリアラ(ルゥ)になりました!


ミアとミリアで似すぎですよね!(滝汗)

今後はWeb版書籍版ともにルミリアラ(ルゥ)で書いていきます。

よろしくお願いします!


 ある日、ソフィア姫はシルル姫とルミリアラ王太子妃に誘われて、ローズガーデンでお茶会を行うことになりました。


「突然の誘いにもかかわらず、お越しいただきありがとうございます」

「まぁ、シルルちゃん! そんな固い言い回しはなしにしましょう?」


 黒髪のシルル姫の隣には、銀髪のルミリアラ王太子妃が座り、その向かいに翡翠色の髪をしたソフィア姫が座りました。


「そちらの方はどなたなんですの?」


 ソフィア姫は少し睨みをきかせるような視線をルミリアラ王太子妃に送りました。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくしの名は、ルミリアラ・ローズフォード・セリーヌ。カーマイン王太子の妃でございます」


 ルミリアラ王太子妃はにっこりと微笑んでそう言いました。

 その言葉に、ソフィア姫は急に態度を変えました。


「まあそうだったんですの。ではここにいるのは、全員、王族なんですのね」


 今度はルミリアラ王太子妃がソフィア姫の言葉に首を傾けました。


「申し訳ございません、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 それは全く知らない人に対しての言葉であり、ソフィア姫はむっとした表情を浮かべました。


「あたくしは、ソフィア・タルクィーニ・パマグラニッド。パマグラニッド帝国唯一の皇女ですわ。あたくしのことを知らないだなんて、王太子妃としてどうなんでしょうね?」


 ルミリアラ王太子妃は、ソフィア姫の言葉を受けるとさらに首を傾けて言いました。


「セリーヌ王国では、たとえ噂話で相手のことを知っていたとしても、自己紹介をするまではお互いに知らない人として通す暗黙のルールがあるのですわ。ソフィア姫こそ、王国にいらしているのにそういったことはご存じないのですね」


 ルミリアラ王太子妃は、まるで子どもをあやすかのような笑みを浮かべておりました。


「たかが、王太子妃が次期女帝であるあたくしに何を言っているのかしら」

「あら、おかしいですわ。だって、ソフィア姫はまだ『第一皇女』でしょう? 皇太女ではないんですもの、次期女帝と言うのはおかしいのでは?」

「……!」


 どうもルミリアラ王太子妃は、ソフィア姫の弱点をついたようです。ソフィア姫は反論ができなくなり黙ってしまいました。


「えーっと、お二人ともお茶会を始めてもよいかしら?」

「あら、ごめんなさい。シルルちゃん。始めてくださいな」

「……ええ、始めてください」


 シルル姫がその場はとりなして、なんとかお茶会が始まりました。


 侍女たちが焼き菓子やケーキ、フルーツを運び、さらにお茶の入ったティーポットを持ってきて、各自のカップに注いでいきました。


「何をなさるんですの!」


 侍女がカップにお茶を注いでいるのを見て、ソフィア姫が叫びました。

 シルル姫とルミリアラ王太子妃はきょとんとした表情を浮かべながら言いました。


「侍女がお茶の用意をしているだけですわ」

「どうかなさいました?」

「侍女が毒を入れていたらどうするのよ! お茶は自分で入れるものなのよ!」


 ソフィア姫はそう言うと、カップに注がれたお茶を地面に捨てました。


「まぁ! なんてことなさるのかしら……。セリーヌ王国では、侍女が用意するものなんですのよ」

「ソフィア姫ったら、おかしいですわ! 毒なんて入っているわけないじゃない」

「おかしいのはあなたたち二人のほうですわ! 侍女なんて信用できません!」


 ルミリアラ王太子妃は困ったように笑い、シルル姫はくすくすと忍び笑いのように笑いました。


「何がおかしいんですの!」

「パマグラニッド帝国には、鑑定の魔道具ってないのかしら?」

「鑑定の魔道具がなかったとしても、鑑定スキル持ちの宮廷魔術師くらいはいるでしょう?」


 ルミリアラ王太子妃とシルル姫の言葉を聞いて、ソフィア姫は目をそらしつつ言いました。


「そ、それでも毒が入っていて飲んでしまったら、どうするのですか!?」

「それでしたら、宮廷治癒術師が常にいますわ。もし宮廷治癒術師に解毒できない毒だったとしても、ジルクスお兄様やミアお義姉様がいらっしゃるから大丈夫ですわ!」

「そうね、ジルクスくんの治癒術もすごいけれど、ミアさんの治癒術も最高峰だものね」

「ジルクスお兄様は言わなくてもわかるでしょうけど、ミアお義姉様は聖女様候補に名を連ねるたほどの治癒術師なんですのよ!」


 もう、ソフィア姫は目を見開いて驚くしかないようです。


「うそよ! 聖女様候補に一度名を連ねたら、教会から出ることなんて許されないはずですわ!」

「そこはジルクスお兄様の愛の力で、ミアお義姉様を救出したんですわ! だって、二人はお互いに愛し合ってますもの!」


 ジルクス殿下とミア嬢の話をしだしたシルル姫の目はきらきらと輝いていました。


「ジルクスくんがミアさんのことが大好きなのは、有名な話ですからね」


 ルミリアラ王太子妃は、そんなシルル姫を横目で見ながら同調しました。


「そんな……二人は政略結婚ではないんですの?」

「ジルクスくんとミアさんは自由恋愛の末に婚約いたしましたの。帝国ではそういったこと認められないんです?」

「それは……」


 ソフィア姫はまた、黙ってしまいました。


「セリーヌ王国より、パマグラニッド帝国のが発展しているのでしょう? 認められているはずですわ! それに、ソフィア姫はジルクスお兄様にその……求婚なさっていたでしょう?」


 シルル姫はそう言うと口元に手をあててくすりと笑いました。


「ソフィア姫は、婚約者がいる男性に求婚するなんて……恥ずかしくありませんでした?」

「どういうことですの?」

「えっと、それはその……」


 今度はシルル姫が目を泳がせながら黙ってしまい、仕方ないとばかりにルミリアラ王太子妃が言葉を続けました。


「セリーヌ王国では、婚約者がいる異性に求婚することを『厚かましい』というんですの。それとなく相手に婚約破棄をしてくださるようにアピールすることはあっても、あんなに堂々と言ったりはしないのですよ」


 ルミリアラ王太子妃はだんだんと眉をハの字にして、苦笑いを浮かべだしました。


 シルル姫やルミリアラ王太子妃の態度を見て、この時ようやくソフィア姫は理解しました。

 パマグラニッド帝国とセリーヌ王国とでは、マナーやルール、習慣などに違いがあるということを。

 それからは、少しだけ侍女に文句を言うのを控えたそうです。

少しはざまぁできたかなぁ?

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