06.たくさん疑問があるようです
ベッドで仰向けになり、ミアを胸の上に乗せて抱きしめていたら、もそもそと動き始めた。少しだけ腕の力を緩めるとミアはするりと逃れて、ボクと同じように隣で仰向けになった。
横から顔を覗き込んでみれば、もう怒っている様子はなかった。
怒りは解けたけど、疑問はたくさんあるようでいくつも質問が飛んできた。
「ソフィア姫はいつまでいるの?」
「帝国から迎えがくるから、それまではいるみたい」
「ソフィア姫が泊まるのって……」
「王宮の一室だね。今ごろ、侍女たちが慌てて準備してると思うよ」
「大変そう……突然やってくるって失礼だよね」
「何の連絡もなしに、王宮の門前で騒ぐとか本当に姫かと疑いたくなったよ」
思い返せば、怪しさ満点だ。実は偽物だって話の方がまだ対処しやすかったかもなぁ。
「王宮にいるなら毎日顔合わせることになるよね……」
「そうだね……それが一番厄介かなぁ」
「夜這いとかされそう!」
一般的な貴族令嬢だったら、そんな言葉知らないんじゃないかなぁ。
こういう時にミアも転生者なんだなぁと実感する。
「……ちゃんと鍵かけておくよ」
「魔法鍵もしてね!」
物理的な鍵も魔法的な鍵もしておくつもりだけど、姫のそばにはバートがいる。
夜這いならまだいいけど、襲撃を受けるとかだったら困るし、しばらく別の部屋で寝るべきだろうか……。
「私も毎日、ジルに会いに行くね!」
「ボクも婚約者へのご機嫌伺いってことでミアに会いに行くよ」
正直なところ、瞬間移動ができてしまうので、ミア自身に念波で連絡さえ入れておけば、いつでも会いに行ける。
侯爵家に事前連絡とか面倒だし、こっそりミアの部屋に通おうかなぁ。
「領地巡りってどうなっちゃうのかな?」
「姫が帝国へ戻るまで自粛だね」
「そっかぁ……」
ミアは大きくため息をつくととても残念そうな表情になった。
ボクは少し起き上がり仰向けから横向きになってそっとミアの頭を撫でた。ミアはまるで猫のように目を閉じて気持ちよさそうにしていた。されるがままになってるとかボクが男だって忘れてないかな!?
「ミア、ベッドの上で目を閉じるとかこのまま何かされても文句言えないよ?」
少しいたずらっぽい口調でそう言うと、ミアは慌てて目を開け、じっとボクの顔を覗き込んだ。
「この世界では、結婚前の男女がそういうことしちゃいけないって知ってるでしょー?」
「知ってるよ」
「ジルはしないって信じてるもん」
逆にそういう風に言われるとしたくなるんだけどなぁ。
もう少し意地悪をしようと、撫でているのとは反対の手でミアの頬に触れようとした時だった。
「お嬢様、よろしいですか」
コンコンというノックの後、リザベラの声が響いた。
「ちょ、ちょっと待って」
ミアはそう言うと慌てて起き上がった。
まず貴族の令嬢がこんな昼間にベッドに横になってるなんてはしたないと言われる。
次にそのベッドに婚約者と一緒に横になってるなんて見られたら何を言われるかわからない。
最後に、その婚約者は不法侵入だってことで侯爵がキレること間違いなしだろう。
ボクはイヤーカフを通して、目の前にいるミアに念波を送った。
【ホントはもっと一緒にいたかったけど、仕方ないから帰るよ】
ミアは少し寂しそうな表情をしつつも大きく頷いた。ボクもたぶん同じように寂しい表情になっているかもしれない。
【今度、時間があるときにミアにも瞬間移動のスキル覚えさせてあげるね】
「ミアお嬢様、もうよろしいでしょうか?」
リザベラの声がもう一度響いたため、ボクはミアに手を振って自分の部屋へと瞬間移動した。




