20.王の執務室で報告しました
ひさしぶりに3000字超えた……
ロックハンド領の領主一家から事情聴取が終わってすぐ王都へと戻り、国王に報告する機会を設けてもらった。
先に影を帰らせてあり、話が伝わっていたのもあって報告の席にはマイン兄も一緒に同席することになった。
「順番に報告させていただきます」
そう言って、まずは第一の目的であった、狼の子どもの治癒について話した。神獣というよりも守り神として扱われていたこと、村の結界の補強を依頼したけれど領館が機能していなかったこと、仕方なく熊よけの罠を仕掛けたことなどを話した。
もちろん、結界の補強というか結界鐘に魔力の供給を行ってきたことも伝えた。
「結界鐘か、そんなものがあったとは知らなかったな」
「すぐに人を派遣して構造を確認させましょう」
「そうだな。他の領地で活用できないか検討するか」
結界鐘はロックハンド領だけにあるもののようで、国王とマイン兄は驚きつつも真剣な表情で話を聞いていた。
「効果範囲はそこまで広くないのですが、村の居住範囲くらいは守られると思います」
「それだけでも、今までの害獣対策を考えれば画期的なものだろう」
「まぁ、そうなんですけどね。ただ構造が複雑なのとそれなりの大きさの魔石が必要になりますんで、量産するのには時間がかかると思います」
ボクは率直に思ったことを伝えると、二人はうんうんとうなずいた。
「次に、領都で起こっていた問題についてですが……」
たぶん、影から報告を受けているとは思ったけれど、再度確認を込めて話した。
帝国から来た商人が領主に呪いの『ジオラマ』を売りつけ領都を麻痺させたこと、その商人はロックハンド領で鉄と食料を買い込んで帝国へ戻ったこと。
「領主が『ジオラマ』にはまっている間に、領主夫人が勝手に税を上げたり、それを見かねた領主子息が税を下げたり、また上げたり下げたりなどを繰り返して、領都は大混乱に陥ったようです」
そう締めくくると、国王とマイン兄は渋い表情を浮かべた。
鉄と食料という2つキーワードで戦争を連想するのは、この世界でも当たり前なんだろうなぁ。二人の頭の中でもそれが浮いているに違いない。
「実はだな、報告を受ける前から帝国が鉄と食料を集めているという噂は流れていた」
「え? そうなんですか」
「影に確認に行かせたのだが、帝国では鉄と食料を集めてはいなかった……」
「……はい?」
「噂だけ一人歩きして、物流には一切変動がない。つまり、その商人が噂だけを広めているのかもしれないな」
ボクは父の言葉に間の抜けた返事をしてしまった。
「てっきり、呪いの『ジオラマ』を使って領都が麻痺している間に、鉄と食料を集めた帝国が攻めてくるのかと思っていました」
「俺もその考えが浮かんだんだがな、戦争につながる証拠が見つからない」
「でも、警戒はしていたほうがよいでしょう」
マイン兄の言葉にボクと国王はうなずいた。
「他に気付いたことはなかったか?」
国王の言葉に首を傾げながら考える。そういえば、商人の情報をボクは持ち歩いている。
「領主の呪いを解除する前に、こういうものを手に入れまして」
何もない空間から瓶詰めを取り出して二人の前に置いた。すると二人の表情が一気に驚いたものに変わり、マイン兄に至っては口を大きく開けた。
「この瓶詰めは呪われていた領主の周りを漂っていたものです。鑑定すると『領主を取り巻く空気、作成者:バート』というとても怪しいものだったので、空いたジャム瓶に詰めました」
ボクの言葉を聞いても二人は驚いたまま動こうとしない。むしろ驚きすぎて動けないという感じかな。何に対してそんなに驚いているのだろうか? ボクは気にせずそのままどんどん話を続ける。
「この空気の作成者というのが今回の事件に絡んでいる商人の名前だと思われます。さらに言うとですが、この空気は粉末の魔石に対してスキルないし魔法を込めるという高度なものであり、こんな特殊な魔道具は今まで見たことも聞いたこともありません」
やっぱり二人は全く反応しない。少しだけおかしいなぁ? という気持ちになりつつも続ける。
「結論としてこの商人は、転生者もしくは転移者の可能性があると考えています」
と、話を締めくくったら、二人は驚きの表情からすごく変な表情になった。たとえて言えば酸っぱいものを口に含んだときのような顔かなぁ。
国王から生唾をごくりと飲む音が聞こえた。どうしたんだろうか。
「……ジルクス、お前も転生者なのか?」
「はい。あれ言ってませんでしたっけ?」
「少し他の魔術師たちより優れているとは思っていたけど!」
二人は何をいまさら聞いてきているんだろうと思い首を傾げたら、マイン兄が珍しく声を出しつつ笑い始めた。
「ま、まさかこんな身近にいるとは思わないよ! アイテムバックを使えるのは転生者か転移者だけなんだよ。それをここで披露してくるとは思わなかったよ」
そう言われてみれば、カバンを持ち歩いていなかったので何もない空間から瓶詰めを取り出したっけ!
「転生者・転移者はその意思を尊重すれば国に恩恵をもたらす存在となり、無碍に扱えば一国を軽々と滅ぼすとあちこちの文献に書かれているし、お前も習っただろう?」
国王は渋い表情のまま、王立学院の授業で習うごく初歩的な内容を口にした。
「はい、習いましたし、その文献も読みました。もともとボクは王家の一員でしょう? 国に恩恵をもたらす側であって、滅ぼす側ではないので言う必要もないと思っていました」
転移者はまだ出会ったことがないからわからないけれど、転生者だったらミアがいる。
他にも今回の件の商人に、ロックハンド領の結界鐘を考え出した人、ティールームで出てくるスイーツを世に広めた人だってそうだろうし……言わないだけであちこちに混じってると思うんだけど、そうでない人にはわからないものなのかなぁ。
「正直なところ、お前が転生者であると聞いて驚きを隠せない。文献の通りであれば、お前は国を滅ぼすことができるのか?」
「国を滅ぼすというのが物理的なことを言うのであれば、魔術を駆使して……でも騎士団長たちのほうが強いので止められると思います。経済的なことであれば……ボクの頭では想像がつかないので難しいと思います」
もしミアの身に何かあったり、ボクとミアを引き離すようなことがあれば、やるかもしれないので出来ないとは答えなかった。まぁ、国を滅ぼすのは面倒くさそうだし、ミアと一緒に国から離れることを選びそうだけど。
ボクの答えを聞いて、あからさまに国王は安堵のため息をついた。
「私としてはこのままジルクスが王弟公爵となって、助けていってくれるといいと思っているよ」
マイン兄はすごくイイ笑顔でそう言った。
むしろ五歳のころから国王にはなりたくないと思っていたんだ。いまさらやれと言われたってやりたくない。やらない代わりにマイン兄を支えるくらい当然だろう。
「ボクはこのセリーヌ王国が好きです。父と母、兄やシルルがいるし、可愛い婚約者だっている。まだ二箇所しか領地めぐりは出来ていないけれど、よい場所だってたくさんある。過度の期待には応えられませんが、適度に国を豊かにするお手伝いをマイン兄のもとでしたいと思ってますよ」
言ったあと少し照れくさくなって顔が赤くなったけれど、気付かれてないといいな!
活動報告にイラストレーターさんが決まったよーっていうお知らせ書いてあります!




