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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
99/100

99・回想(85)




 卒園試験の後、採用担当者に連れられてエノンは王都へ向かった。



 そして帰って来たエノンに、なぜか僕は謝られていた。


「ごめん、リティっ!」

「何? どうしたの、エノン? 王都へ移動にでもなった?」


 エノンが書いておいたという細かい希望が通らなかったのだろうか?

 でも、それだけならエノンが僕に謝る必要はないと思う。


「それが、そのっ。オレの希望を通す代わりに、リティが家と縁を切る事が前提条件になっちゃったんだ」

「……ん? もしかしてエノンの希望の中に僕の事も入ってるの?」


 問い掛けた僕に、実は……とエノンが頷いた。


「毎日毎日、戦場跡地みたいな場所へ行ったり、癒したりはキツそうで」

「うん、そうだろうね」


「希望の中に休憩がてら、スエートを拠点にして園生に今回の魔術を伝えたいって入れたんだ」

「いい考えだと思うよ、エノン」


「オレの能力がいつ衰えたり消えたりしてもいい様にしたかったしさ」


 エノンの魔力が衰えたり消えたりは、いつの話になるやらだが……絶対に休憩は大事だ。

 毎日戦場跡地に行くなど、心を壊しに行くようなもの。


 後進育成も、エノンだけに重圧が掛り過ぎるのは心配だし。

 微小魔石の件でアーラカから説明された僕以上に、エノン1人だけが大地を癒す術を使える現状の方がマズイというのは分かる。


「大地を癒す時にリティが側に居るか居ないかじゃ、何か違うし。それと、その講義になるのかな? を、リティも一緒にどんな風に進めたらいいかを考えて欲しくってさ」

「なるほど。それで僕の事が出てきたんだ」


 本当は癒しを行う時、タッゾに付いて来て欲しいのだろう。

 癒しで魔力を限界まで使うみたいだし、タッゾが居ると現場までの行き来の安心感が違う。


 でも講義の内容を考える時に、僕の力を当てにしてくれているのは本当に嬉しい。


「だけど、そんな風に近くに居る僕を取っ掛かりに、僕の一族がエノンの能力を好き勝手に使いでもしたら困るって事だね?」

「え~っと、うん、そう。ホントごめん……」


「大丈夫だよ、エノン。僕の事が出てきたのが不思議だったから、聞いただけだから。縁なんて、とっくの昔に切られてるよ」

「だけど、リティずっと親が訪ねて来てくれるのを待ってただろ? オレのせいで、命令される形で切る事になっちゃって本当に……」


 エノンは夏が近付くにつれて、毎年不安定になった僕を見ていたからな。

 いつも心配を掛けていた。


 だからこそ王様から沙汰が下りた時、本当に弱っただろう。

 エノンが重ねて謝って来ようとしたので、僕は首を何度も横に振る。


「本当に、本当に大丈夫っ! というか僕自身がタッゾと結婚した事で、公的にも家からは抜けた事になったはずなんだけど」

「接触禁止令っていうのが、リティにも、それから向こうにも出るらしい」


「国の1番偉い人が出した命令には、ちゃんと従わなきゃだよ」

 まるで両親に会わずに済む言い訳を、新しく与えられた気分だ。


 そんな反面、小さく不満も心の中に湧く。

 両親に縛られているべきだという気持ちも、まだ僕には存在していたから。


 だからきっと僕にとっては、強制的にしてもらった方が両親との関係を絶ち切りやすい。


「接触禁止令を出すくらい、エノンの能力を買ってもらえてるって事だね」

「あッ! それでさ。繋がりを絶つ為なんだろうけど、借金ごとオレを買ってくれたんだ。だからリティから預かってたお金、返すよ」


「それは……。エノンはこれから何かと物入りになるんじゃない? 国に雇われるって事は、それなりの格好も求められるだろうし」

「それは支度金っていうのをもらったから、そっから出す」


 むむ。

 国もそれくらい考え済みだったか。


 小さい頃からエノンの未来を歪めた慰謝料だ、なんて理由にするわけにはいかないだろうし。

 せっかくエノン自身が僕の為に術を作ったと言ってくれているのだから、そのままにして置きたい。


 どう受け取り拒否すればいいだろうかと僕が唸っていると、エノンが言って来る。


「リティがさ、何だかんだと返させてくれなさそうだな~と思って、オレ考えたんだけどッ!」

「うんうんっ」


「園にぽ~んっと寄付しちゃうのはどうかな? もちろん、ちゃんとオレとリティの連名でッ!」

「連名、じゃなくてもいいんだけど?」


「連名じゃないと、やだ」

「やだ……って、エノン」


 園への寄付がたぶん落としどころなのだろう。

 エノンが返したがっている事を考えると、連名にするくらい些細な問題だという事にしておいた方が良さそうだ。


 何せこれからも、エノンと僕は園でお世話になるのだから。



 こうして僕とエノンは園に残る事になった。



 エノンと戦場跡地に通いながら、エノンの講義の補佐をして、それからアーラカの研究にもちゃっかり参加した。


 僕の方からだけではなく、両親や一族からも僕には接触禁止。

 つまり僕がアーラカの研究を横流しする可能性を心配する必要もなくなった。


 人工魔石は1回きりの魔術しか入れられない。

 だが人工魔石は、研究仲間が増えた事から、魔物が消える時に落とす魔石よりも大量生産出来ている。


 始めはスエートの出入門での、馴染みのお客さんにお試しで配ってみた。

 不意打ちを食らった時用の、防御魔術を込めた人工魔石が今のところ好評だ。



 園生に教えるのだから、当然スエートの園には出入り自由。

 しかも出張講義となれば、他の園へも行けて、ついでに資料棟も覗かせてもらえたりする。


「リティさ~ん。リティさ~~~んっ!」

「……何だ、タッゾ。これを読むのに忙しいんだが」


「今、完全に俺の存在、頭の中から消え去ってませんでしたかっ?」

「ん~? まあ、よくある事だろ? お前は今、椅子だ」


「相変わらず、リティさんが酷いっ」

 タッゾが何やら喚き出した。


 さすがに希少本は園外へは持ち出し禁止だから頑張って、区切りのいいところまで……。


「リティさ~んっっ」


 そんなこんなで、とても僕は充実した生活を送らせてもらっている。





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