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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
94/100

94・回想(80)




 ここ何日か僕はそわそわと落ち着かない気分だ。


 まずエノンとレミの結婚の後押しは考えない様にしている時点で、考えているも同然。

 2人のどちらかに、早いところ話しておくに越した事はないのに。


 更に魔物との激戦跡地での事が僕の脳裏でぐるぐる回る。

 かといって、卒園試験に関しては僕に何か出来るわけでもない。


 何となく、エノンにお葬式での歌だと教わった弔いの歌を口ずさみ始めた。

 続けて何度か弔歌を歌う。


 今更ながら思ったが、エノンが僕を変な子だと称したのは当然だったかも知れない。

 何せ少し前に出会ったばかりの子が、いきなり泣いている自分の目の前でお葬式の歌を歌い出したのだから。


 むしろ、変な子止まりで助かったのかもしれない。

 エノンが僕を見てくれるどころか、完全に引かれていた可能性だって大きい。


 回りに人がいないのをいい事に、弔いの歌を繰り返し歌い続けているうち、エノンと出会った時の事とこれまでの感謝が浮かんできた。


 人を避け、園の隅の隅で歌っていたのに、物凄い勢いで近付いて来たヒミノが懐かしさからか異様に興奮している。


 弔いの歌は少し、不謹慎だっただろうか?

 そう後から反省するだろうなと思うが、今の僕にとって歌の本来の意味なんてどうでも良くなってしまっていた。


 でも歌い続けていたからか、心の波が落ち着いていた。


 卒園試験で自分が出来る事はエノンを応援する事だけだ。

 そう思えるようになった。


 エノンの卒園試験の場所は本当に驚いたが、聖域への旅に行けた事は僕にとって行幸であった。

 たぶん僕はもう激戦跡地を目前にしても、固まって動けなくなるという事はないと思う。


 力一杯エノンを応援しよう。



「主様。エノン様の卒試の件で少々心配があるのですが、よろしいでしょうか?」


 そのヒミノの言葉に、さすがだと思う。

 どこに居たのかは分からなかったが、アーラカの研究室でエノンの守護としてヒミノもちゃんと控えてくれていたのだろう。


 どうやら歌を聞き付けてここまで来たわけではなく、そもそもヒミノは僕を探していたらしい。

 気になる事を言い出した。


「もちろん」


 ヒミノは僕とは違う視線からエノンの卒園試験が見えているに違いない。

 もし予め解決出来る問題点があるなら、潰しておくべきだと僕は頷いた。


「ラァフ様の暴れっぷりによっては、主様の守りが疎かになるやも知れません」

「あっ」


 その時になって僕はエノンの結婚問題だけではなく、試験会場での身の守り方も全く考えていなかった事に気付かされた。


 それは確認してもいないくせに、タッゾが一緒に付いて来て、守ってくれるものと思い込んでいたからだ。


 日にちが決まったとエノンが言った時、タッゾからは行くも行かないも聞いていない。

 その後もタッゾから卒園試験での話題が出る事はなかったはずだ。


 現地へはエノンと一緒に行く事になっているし、レミも当然来るに違いない。

 卒園試験での園の判定官と、来るのだろうエノンの就職希望先の採用担当者は、戦場跡地にも耐えられる人材が選ばれるだろうから心配無用だろう。


 どうやらヒミノは入園する前に戦場跡地へ寄り道した時の様に、ヒミノ自身がエノンを含め、たぶんレミと僕も守ってくれるつもりだったらしい。


「ヒミノ、ありがとう。守りはタッゾに頼んでみたい。もし断られたら、お願いしていいかな?」

「はい、主様」



 ヒミノとそんな話をした次の日の登園時間。


「へ? 俺はとっくに付いて行くつもりでいましたけど?」

 卒園試験の事を頼んだら、逆にタッゾから不思議顔を浮かべられてしまった。


「良かった」

 どうやら僕の一方通行な思い込みではなかったらしい。


 なぜか唐突にそんな気分になったので、タッゾにぎゅ~っと抱き付いてみた。


「え、何ですか? リティさん? リティさんは俺が守ります、そんなの決まってますよね」


 これでヒミノはラァフに集中出来ると、僕は少し安心出来た。


「本当はっ! 気も漫ろでリティさん、ここ数日ちっとも構ってくれなかったからどうしようかな~? と意地悪を言いたいところですが」

「あ~、悪かった」


「大人しくしていたご褒美下さい、リティさん」

「……考えとく」


 ちゃっかりタッゾから要求された。

 これがなければ、僕も素直に感謝の念だけをタッゾに向けていたかも知れないのに。


 そんな風に思う反面、このタッゾらしさが僕は嫌いではないのだ。

 不満を溜めていないと分かるし、タッゾの内心をあれこれと疑って、また1人勝手に思い込んでは疲弊せずに済むから。



 講義が始まっても、考え事は続いてしまって身が入らないでいた。

 今や僕の考え事はエノンの卒園試験を通り越している。


 少なくともエノンの事だから、無事に卒園試験を終わらせるだろう。

 そうなれば、エノンは卒園だ。

 園生ではなくなり、寮からも出て行く。


 学ぶ事は好きな方だと思うが、エノンが卒園するというなら僕もそうする。

 そもそも僕はいつ卒園しても不思議ではないくらい、長く園に在籍している。


 エノンがどんな風に、卒園後もスエートに留まろうとしているのかも僕は知らない。

 けれどエノンがスエートに留まるなら、僕だって居たい。


 前にクラスの皆にちらっと相談を持ち掛けたが、どうやら僕に1人暮らしは無理らしい。

 ワコさんとヤースさんをお手本にするなら、もし結婚したら僕はタッゾと一緒に暮らすから1人ではない。


 う~ん?

 一緒に暮らせるのだろうか?


 確かにタッゾが言っていた通り、婚約者の状態は今までと変わらなかった。

 婚約者から結婚に移行するとなると、果たしてどうだろう?


 そもそも僕は結婚を実体験していない。

 いまいち具体的に想像すら出来ないものを、エノンに勧める事が間違いな気がしてきた。





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