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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
92/100

92・回想(78)




 まず忘れないうちにと講聴者から聞き出し、控えておいた名前一覧をアーラカに渡した。


「リティの妹も入ってるのか」

「僕が見ていた限り、1番始めに微小魔石を作り出せる様になっていた」


 ちょっとイメージが特殊ではあったが……。


「リティと姉妹だからかな? 微小魔石作りの能力に家系は関係あるんだろうか? 血縁だと魔力の質が似ているのは、よく知られているし」

「どうだろう」


 もし関係あるとしたら、異母弟妹全員が作り出せる事になる。

 必然的に父も。

 もし一族的にそうなら、母も。


 微小魔石に母が興味を持つ可能性が高まった。


「アーラカ。なぜ、論文の最後に僕の名を出したんだ?」

「私1人では、どうしたって無理な研究だからだよ。リティがいてこその研究だからだ」


「だから研究を奪われてもいいって言うのかッ?」

 思わず、荒げてしまった。


 アーラカが論文を書く前にあれだけ言ったにも関わらず、出されてしまった僕の名前。

 僕ひいては母に、研究を奪われるかもしれないという危惧を明確に言おうとしない僕も悪い。


 それにアーラカが別に奪われても構わない程度にしか、微小魔石の研究に対して思い入れがないのではないかとも疑ってしまう。


 更に捲し立て掛けた時、エノンが割って入ってきた。


「リティ、ストップっ! そこまでっ!」

「……ッ?」


「さっきのリティの質問に、まだアーラカが答えられてない」

「……」


 1問1答にするなんて聞いてないと、危うくエノンにまで屁理屈を言うところだった。

 言葉を呑み込んだ僕に、アーラカではなくタッゾが問い掛けてくる。


「この研究者さんに対する感情だけにしては揺れ過ぎじゃないですか、リティさん?」

「黙れ」


 睨み付ける相手を、アーラカからタッゾに変える。


「雛先輩も関係ないし~? 親絡みですか?」

「だからお前は嫌いだ。ここから失せろ」


 わざわざ言わないでいる事を、アッサリと口にするのだ。


「言葉遣いの悪いリティさんも素敵です。だから婚約破棄は受け付けませんよ~」

「……」


「いやで~す」

「まだ何も言ってない。……タッゾ、お前」


 まさか僕がアーラカを睨むのも怒鳴るのも、気に食わないとか言わないよな?

 高確率で肯定が返って来そうだったので、結局僕は口を噤む。


「最後にあれだけの講聴者が来たって事は、きっと微小魔石の研究は園生から他家にもすぐ広まりますよ。研究を奪うも奪わないもないんじゃないですか?」

「発表した内容の部分はそうかもしれないが、これから新しく分かっていく部分を僕が奪う可能性はある」


 タッゾから真っ当だと思われる質問が来たので、僕もちゃんと答えたがまずかった。


「それを親に横流しするわけですか~。でも、それってまだ言い付けられたわけじゃないでしょう。リティさんが先走って心配してるだけですよね?」

「……」


「講演会の前に、リティさんから親に微小魔石の情報を流したなら別ですけど?」

「そんな事、僕からはしない」


 タッゾの声音は僕を疑ってもいない風だった、けれど。

 それだけは沈黙を保てず、きっぱりと断言した。



 何も言って来ない両親に、エノンと現状維持を約束している今、僕の方から連絡を取る事はない。


 同じ園内にいるリュディーナにさえ、研究棟へは一緒に行かずに秘密にしていた。

 リュディーナから両親に研究内容が伝わり、興味を持たれる事が怖かったからだ。


 でも、もう。

 僕は、銀行への振り込みをしてくれていたのが、両親ではないと知ってしまっている。


 両親が僕に会いに来ないこの数年間、銀行への毎月の振り込みは僕にとって、両親の愛を感じられるただ1つのよすがだった。


 毎月銀行に振り込みがあるから、両親はまだ僕に興味があると信じていられた。

 だから僕は両親に愛されたかったし、その興味を引きたかった。


 両親の僕への関心が引けるなら、友の手掛けている研究だろうが、いくらでも差し出しただろう。

 今でも絶対に両親が喜んでくれるという確信があれば、微小魔石の研究を自ら流していたかもしれない。


 だが、両親からしてみれば僕はとっくに捨てた子供なのだろう。


 家族と縁の薄いリュディーナでさえ、ヒミノトの屋敷と僕が入園した時期を照らし合わせて、人外ヒミノらとの関係を疑った。

 それなのに、一緒に屋敷で暮らした父は、面会時に聞き出す事すらないほど、人外と僕の関係を思い付きもしなかった。


 今では僕の事を頭の片隅にも覚えていないのではなかろうか。



 などと両親に思いを馳せていると、アーラカに名前を呼ばれた。


「リティ」

「……何だ?」


 何だかアーラカに怒りたい気分ではなくなってきてしまった。


 元々アーラカはもし母が微小魔石に興味を持ったら、僕が研究を横流しし兼ねない事を薄々察していたのではないだろうか。

 そんな僕がアーラカの微小魔石への心意気を疑える立場にあるわけがない。


 そんな僕を協力者として論文に載せたのには、アーラカなりの考えがあったはずだ。

 これからアーラカが何を言い出そうとも、ひとまずは反論せずに受け止めようと僕は思った。


「私達はどう抗おうと家からは逃げられない。特に精神的な面でね。だったら対外的に家以外に、この身を示せるものを持てるだけ持つ方がいいと私は思い始めている」

「……うん?」


 この身を示せるもの。

 今1つピンと来なかったが、曖昧に頷く。


「そいつが言ったように、もう微小魔石は私達だけの研究じゃない。今回の発表で興味を持った他の研究者が、先に色々な成果を上げていく事もあると思う」

「うん」


 これには同意。


「だけど今日発表した事で、1番に私達が微小魔石の研究に取り掛かったのは揺らがない。つまり対外的に私は何々家のアーラカだけでなく、微小魔石研究家のアーラカという面を持つ事になるっ。これはリティも当てはまるっ!」


「……う、?」


 え、僕もっ?

 内心そう思ったが、一応、反論だけはしなかった。





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