85・タッゾ⑦
雛の為に、またレミは行きたい場所があるらしい。
リティさん経由で乞われれば、少しでも一緒にいる時間を持ちたい俺は断れない。
リティさんに頼りになる奴と思われたい俺は、使い捨てアイテムも何個か使い、そりゃ~もう全力で頑張った。
辿り着いた聖域に見惚れるリティさんは綺麗だった。
込み上げてきた言葉を口にしたら、リティさんには理解出来ないという表情をされたわけだが。
俺の思考を逸らそうとしてだろう。
聖域で語るな……なんて言葉が出てくるって事は、ちょっとリティさんは信じているって事だな?
真偽なんてどうでもいい、もちろん付け込む。
愛を交わすというより、押し付けた。
1つといわず、たくさん。
抵抗を止めてリティさんが俺の目を見た後、受け入れてくれる様に閉じてからは一層激しく。
そうしたらそうしたで、聖域に相応しくないとリティさんから再び拒否られた。
しばらく聖域に見惚れた後、何か考え付いたらしいリティさんがキラキラ団子とやらを作っていく。
しかも一体いくつ作るつもりなのかと思うくらい、次々と。
キラキラ団子を作るリティさんは楽しそうで、俺も混ざりたくなった。
聖杖のダンジョンで小耳に挟んでいた、微小魔石の説明をしてもらう。
出来ない。
これでも俺は器用な方だと自負がある。
それなのにリティさんに何度も説明してもらったが、1個も出来ない。
焦りが沸く。
キラキラ団子は聖獣の為に作ったものだったらしい。
レミと雛が聖域に戻って来た途端、リティさんが作り出した以上の早さで消えていく。
その雛の卒園試験もどうでもいい。
突っかかって来られたが、リティさんを守るなんて言われるまでもない。
言われたくもないが、心配する気持ちも分かったので答える。
しかも単にキラキラを固めただけではなく、外見さえ完全に違う杖まで作ってしまった。
雛めっ。
リティさんからのプレゼントなんて、俺はもらった事がないっていうのにっ!
たぶんこんな風に、次々と作れるのはリティさんだけなのだ。
だから共同研究を断られたはずの研究者がまた、リティさんに手伝いを求めて来た。
リティさんは実験が好き。
講義中の態度や、書籍を読む時の集中の仕方でも分かるが、文字の読み書きに抵抗がないし、知識を増やす事も好きなんだろう。
案の定、リティさんは研究の手伝いを引き受け、次回の約束もして帰って来ている。
また研究にリティさんを奪われるのか。
レミに説明をしつつ、またキラキラ団子を量産しているリティさんの背中に抱き付いた。
リティさんには必要ないと言われたが、俺はやっぱり正式に契約がしたい。
今のリティさんとの関係は、リティさんにそんな認識はないだろうが、一般的な言葉に当て嵌めるなら恋人同士だ。
断じて、セフレではない。
放課後の教室デートも、ダンジョンデートも重ねている。
リティさんには他に目的があっての事だから、全く分かっていないと思うが……。
飼い主と飼い犬は、一緒に住んでいて当然だろう。
何せ、普段は予想だにしない時にチュ~して来るくせに、聖域での口づけの契約は最初のうち断固拒否だったから。
リティさんの反応を確かめる兼じわじわ外堀から埋めてみようかなと、リティさんの婚約者を名乗り、研究棟に潜り込んだ。
「確かに1番近いのはタッゾだ。だが一体いつ僕は婚約した?」
リティさんからの意外な反応に、俺の方が反対に驚いた。
「勝手に婚約者を騙るな」
とか、そんな感じで。
正直、リティさんに反発され、瞬間冷凍な視線も覚悟していたのに、拍子抜けする。
それなのに、婚約者が居る事に驚いているリティさん。
むしろその後の、研究の手伝い止めて欲しいな~作戦の方が、ご立腹であった。
リティさんの基準が分からない。
この感じなら、結婚だっていけた気がする。
リティさんの常識の欠如は、リティさんを捕まえるのに使える。
今まで通り丸め込み、このまま外堀から埋め続けよう。
それにしても、なぜ聖域の契約は駄目で婚約者は許容なのか?
リティさんにとって夫婦は、家族枠に入らないのだろうか?
正式な契約でも、結婚はリティさんにとって物凄く軽い?
そんな事をつらつら考えていると、研究者がまた余計な事を言い出しやがった。
と思ったのだが……。
どうやら、いくつになっても万年新婚夫婦の手本であるらしい、雛の両親の影響をリティさんもかなり受けているらしいと知る事が出来た。
つまり?
聖域の契約は、お互いが嫌になっても、物理的に離れられなくなる可能性があるから、駄目で。
ただの結婚なら、引っ付いていようが、好き勝手に行動して離れていようが、お互いの気持ち次第で自由だから、許容。
って、事か?
ちゃんと夫婦も家族枠らしいリティさんの場合、お互いにというか、主に俺の気持ち次第?
そっか~、俺次第か~~~っ!
何にも確認してないけど、そういう解釈で正解だよな。
リティさんと俺の関係に正式な契約を付けるなら、浮かんでくるのはやはり結婚の2文字しかない。
リティさんがラブラブ新婚さんしてくれる妄想は全く沸かない。
結婚したって、リティさんが俺の事を1番に考えてくれる予感も全くしない。
無駄な期待はしない。
だが俺にとっては、それ以上の特典がある。
正式な契約の名の元に、リティさんとの関係が恋人から家族になりさえすれば、リティさんは俺の事を今以上には気に掛ける様になる。
リティさんにとって家族はどんなに腐っていようが特別で、なかなか切り捨ててしまえない存在だ。
人生の墓場らしい、結婚。
リティさんは結婚に対し、腐った親のせいで、あまりいいイメージを持っていない気がする。
だが、俺にとってはそうじゃない。
リティさんと、結婚……いい考えだ。
うん、結婚しよう。
リティさんから始めて俺限定に向けられた和やかな笑顔を見て、強く思った。




