84・タッゾ⑥
リティさんが聖獣の憑き主だと、俺は確信している。
ただそれを表に出すと、リティさんが神殿行きになってしまう。
リティさんも神殿から雛の幸せを祈ってるから、とか言い出してさっさと神殿に行ってしまいそうだし。
それはいかにもリティさんが好みそうな思想で、しかも想像すると実際似合いそうなのが怖い。
許さないけど。
神殿を護る聖騎士とはやり合った事はないが、ガチガチに固められた神殿の中から、リティさんを誘拐するのはさすがに手間がかかりそうだ。
それにリティさんは聖獣の憑き主は雛であると信じている。
ならばそのまま真実を暴かずに、そっとしておけばいい。
そもそも聞き出そうとしたのだって、リティさんがあまりにも俺を構ってくれないからだ。
それに俺には見えないが居るらしい聖獣を、リティさんが愛でるのが気に食わない。
なのであえて聖獣が傍にいるなんて俺は気付いていませんよ~と、素知らぬふりを続ける事にした。
リティさん自身でさえ気付いていない、リティさんの秘密を俺は知ってるなんて、凄くイイ。
リティさんに始めて会った時なんて、不審者扱いに近かった。
エノンの温室を奪ったんだから、当たり前だと返されそうだが、当時はリティさんに警戒されまくりだった気がする。
だが今のリティさんは俺に対し、相当気を許してくれているのだと俺は思う。
なぜなら今リティさんの背中は俺に対し、緊張していないから。
数日前まで、リティさんは図書資料棟にいた。
資料を探して読み漁っている、真剣な姿のリティさんは美しかった。
だが俺を一顧だにしてくれない、その美しい姿勢に本気でイラついた。
ここに居る俺を見て欲しいと。
何とかリティさんに振り向いてほしくて、だがその場所柄を考慮し、最初は俺もボディーランゲージでアピールした。
ものの見事に撃沈した。
全くの塩対応だった。
もらえたのは、たった一言。
「タッゾ、重い」
しょうがないので、構って欲しいとしきりに話しかけてみた。
図書資料棟が私語厳禁だからだろう、こちらの方がリティさんの反応が良かった。
書籍を山と積み上げ俺に持たせると、いつもの温室を見下ろせる教室まで連れ出された。
俺とリティさんの2人きり。
喜んでリティさんに手を出そうとした。
怒られた。
「調べものの最中だ。邪魔するな」
それでもリティさんに構われたい俺はちょっかいを掛け続けた。
……背もたれにされた。
だがま~、いいだろう。
背中からはリティさんの温もりを感じる事が出来るし、両手も空いている。
ちょうど装備の修繕や更新をせねばと思っていたところだ。
暇過ぎてリティさんにちょっかいを出して怒られるのを、防止するのに丁度良い。
俺は教室に装備の修繕や更新の材料を色々と持ち込んだ。
リティさんが静かに書籍のページをめくる音がする中、俺はチマチマとした作業をする。
背中側のリティさんが両手を上げ、伸びをする気配がした。
そろそろ今日は終わりか。
急いで切りの良いところまで終わらせてしまおう。
そう思い、ラストスパートをかけていると、思いがけない声がした。
「それは何だ?」
リティさんだった。
俺の手元を覗き込み、不思議そうにしていた。
「装備の修繕を兼ねた強化中です。なかなか良い材料が手に入ったんで」
「材料?」
「ダンジョンの魔物が落としたドロップ品ですよ。良さそうなのを取っておいて使うんです」
「どんな魔物だ?」
リティさんが俺に興味を示してくれる事など、なかなか無いので俺はついつい喋り過ぎた。
普通の女なら、みんな引いていただろう。
それなのにリティさんは、
「へぇ~」
やら。
「そうなのか~」
とか。
楽しそうに相槌を打ってくれた。
あまりに興味深げにリティさんが俺の話を聞いてくれるものだから、味をしめた。
装備の修繕が終わった後、俺は小物作りに手を出した。
ますますリティさんの興味を引けたらしく、材料見たさなリティさんをたまに部屋まで連れ込めた。
そんな作業中、リティさんがポツリと言った。
「それなら、こっちの材料の方が良いんじゃないか?」
見比べてみる。
リティさんにプレゼントしたダンジョンドロップの方が、俺との魔力的相性が良さげだった。
何だか悔しい。
「リティさん真偽眼持ちですか?」
「たまたまだ。習ったものの中にあったんだ」
「習ったもの……ですか」
確かにそうだった。
知識量は俺より断然リティさんの方が上。
俺は完成一歩手前まで出来上がったら、見せびらかしも兼ねてリティさんに見てもらう事にした。
たまに心臓にグサッとくる的確な見解がもらえた。
それよりもリティさんが興味深げに質問してくれるのが嬉しい。
「これは何の材料を使っている?」
俺は材料の元である魔物を、詳しくリティさんに話すようにした。
その方が長くリティさんの興味を俺に引ける。
ついでに俺はお買い得品だと、リティさんに感じてもらえるかもしれない。
リティさんにとって、俺は側に居て当たり前の存在になりつつあるのを感じる。
だが当たり前になりつつあるからか、リティさんは聖具だけではなく聖獣の書籍まで、隠そうとせずに堂々と俺の目の前で読み続ける。
知られてはマズイ内容のはずだろうに、俺がバラすと思わないのだろうか?
だから、もしかして……と期待が募るようになっていた。
もしかしてリティさんも、俺と一緒に居たいと思い始めてくれたんだと。
それはまだまだ甘い期待だったと後で思い知らされた。




