表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
83/100

83・回想(74)




 今日、僕は1人だ。


 少し前から1人になれる機会が欲しかった。

 人工魔石の実験がしたかったのだ。


 そんな折り、たまたまお小遣い制度の方から、タッゾに指名の依頼が入っている事を僕は知った。

 依頼を何とか受けてもらうべく、僕はタッゾに声を掛けた。


「指名が入るなんて、タッゾが順調に制度の中で名を上げてる証拠だな。嬉しいよ」

「イヤです。受けません。リティさんと一緒が良いんです」


「僕は金が掛かる女だぞ? 2人の将来の為にも頑張って働いて来てくれ、婚約者殿」

「リティさんっ」


 直後にタッゾから締め付け攻撃を喰らった。


「ちょっ。くるし……」

「愛してます、リティさん」

「いい加減に離せっ」


 なんとか耐えた僕は今日、タッゾをにこやかにスエートから送り出した。




「よし、実験だ」


 作っておいた人工魔石のナイフを持てるだけ持ち、僕は意気揚々ダンジョンに向かった。

 前に歌の実験にも使った、弱い魔物しか出ない例のダンジョンである。



 この実験に当たって難関は2つあった。


 まず1つ目は、ナイフを作る事。

 ダンジョンに持って行くと決めてもいたから、初めのうちの数本は触れられないナイフが出来、しばらく経たずに融けてしまった。


 なので攻撃に使う物じゃないと思いながら、ナイフを作るようにした。

 それでも半分は触れないナイフが出来てしまった。


 ろくに何も考えずに作り出した方が、微小魔石を上手く扱える気がする。


 次に難関の2つ目。

 タッゾが一緒だと、実験にならなさそうな事。


 僕には指1本触れさせないと、タッゾは魔物の存在に気付いた時点で消すだろう。

 微小魔石のナイフ型を使って敵を倒せるかが実験の目的なので、倒す相手がいなくなってしまっては意味がない。



 万が一、実験している様子を誰かに見られたら困るので少し奥に進む。

 そこまでは普通に倒していった。


「身を守る為だ」

 そうわざと口に出して、ナイフを手に持とうとして……融けた。

 場所が場所だけに、難しい。


 既にナイフは作り出せている。

 問題は僕の中の攻撃性だけだ。


 向かって来た魔物の。

 攻撃が届く直前にナイフの柄を握り、受け流す。


 防げたが、同時に融けた?

 1回目で融けるとは思っていなかったので、瞬間呆けてしまったらしい。


 魔物からの2撃目を危うく避け損ねるところだった。

 新しくナイフを取る事はなく、一旦それは普通に倒す。


 何度か試してみたが、防げるのは1回きりだった。


 そうして試す中、防ぎついでに魔物を傷付ける事があった。

 それならばと、1回目に身を守ると同時に向かって来た魔物を狙いにいったが。

 攻撃と見做されて、ナイフが消えた。


 狙っている時点で、やっぱり駄目か。

 これは予測出来ていたので、間を置かずに通常攻撃に移る。


 う~ん、僕の性根の問題だとは思いたくない。

 作り出す時だけではなく、実際に使う時も攻撃性の有無が関係していると考えて間違いない。


 果物の皮剥きや切り分けなら、1個分はナイフが保っていた。


 1回きりの防御に、果たして需要はあるだろうか?

 かといって、僕が生きているうちに無我の境地に辿り着くのはまず無理だ。


 微小魔石はどうやって、人の攻撃性の有無を感じ取っているのだろう?

 不思議だ。


 キラキラがずっと降っていた聖地の微小魔石も、人間の愛を感じ取れるのだろう。

 だからこそ、聖域の契約の伝承が生じたのだろうから。



 そういえば人工魔石の方はどうなのだろうか?

 1回きりなら、ナイフより人工魔石の方が嵩張らない。


 通常の魔石は元々宿る魔力の分だけ、付加した魔法・魔術を行使出来る。

 そして魔石によって、込めやすい魔法・魔術の種類が決まっていた。


 人工魔石に初級魔術を込めた時、攻撃魔術以外は込めやすい・込めにくいはなかった気がする。

 そういえばアーラカとこの点は話さなかったから、今度聞いてみよう。


 形は悪いが、人工魔石ならナイフ型より日々作り出している。

 それに何度も試したから、武器の形を取らせた微小魔石が融ける理由の裏付けを、1人で実験する事に対しての興奮も静まっている。


 ラァフも遊びに来ていないので少々心許ないが、たぶん今は近くに魔物も誰も居ないはず。

 今、人工魔石も試してしまおう。


 実験に使う、人工魔石。


 通常の魔石に宿っている魔力の差は、微小魔石の集め具合を少なくするか、多くするかをイメージしながらでいいな。

 出来上がったものに、物理防御の魔術を。


 よし、完成だ。


 実験を始める前までは、今日はようやく1人だ、実験だっ! とやる気に溢れていた。

 それなのに早くも僕は奥へ進むのではなく、入口へ戻る方へと足を進める。


 実験に対しての感想を言ってくれたり、意見交換してくれたり、後は可愛い姿も見れず。

 誰も側に居ないという状況が、何だか寂しくなってしまったのだ。


 もう少し強い魔物が出るダンジョンで1人なら、それどころではなく必死だったと思う。

 決して1人で居る事が嫌になったわけではない。


 構われ過ぎると鬱陶しく感じ、そのくせ1人だと人恋しい。

 いつもの天の邪鬼が出てきただけだと、言い訳のように内心で付け加えた。


 結果、微小魔石の集め具合の多少に関わらず、人工魔石も1回きりだった。




 天の邪鬼な気分を抱えたまま、エノンに会いに行き、それからエノンを一緒に見守った仲間達に会いに行った。

 イルミネーション壁の宣伝役を頼む為だ。


 ほぼ色好い返事をもらえたので、ヒミノにも頼んでみた。

 大勢で宣伝すれば、ヒミノの主が誰なのかなんて誰も探らないはずだ。


 タッゾへのお帰りなさいのチュ~は、ちょっとだけ長くなった。

 が、程度というものがある。


 そうして結局、鬱陶しいと感じる僕に戻った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ