83・回想(74)
今日、僕は1人だ。
少し前から1人になれる機会が欲しかった。
人工魔石の実験がしたかったのだ。
そんな折り、たまたまお小遣い制度の方から、タッゾに指名の依頼が入っている事を僕は知った。
依頼を何とか受けてもらうべく、僕はタッゾに声を掛けた。
「指名が入るなんて、タッゾが順調に制度の中で名を上げてる証拠だな。嬉しいよ」
「イヤです。受けません。リティさんと一緒が良いんです」
「僕は金が掛かる女だぞ? 2人の将来の為にも頑張って働いて来てくれ、婚約者殿」
「リティさんっ」
直後にタッゾから締め付け攻撃を喰らった。
「ちょっ。くるし……」
「愛してます、リティさん」
「いい加減に離せっ」
なんとか耐えた僕は今日、タッゾをにこやかにスエートから送り出した。
「よし、実験だ」
作っておいた人工魔石のナイフを持てるだけ持ち、僕は意気揚々ダンジョンに向かった。
前に歌の実験にも使った、弱い魔物しか出ない例のダンジョンである。
この実験に当たって難関は2つあった。
まず1つ目は、ナイフを作る事。
ダンジョンに持って行くと決めてもいたから、初めのうちの数本は触れられないナイフが出来、しばらく経たずに融けてしまった。
なので攻撃に使う物じゃないと思いながら、ナイフを作るようにした。
それでも半分は触れないナイフが出来てしまった。
ろくに何も考えずに作り出した方が、微小魔石を上手く扱える気がする。
次に難関の2つ目。
タッゾが一緒だと、実験にならなさそうな事。
僕には指1本触れさせないと、タッゾは魔物の存在に気付いた時点で消すだろう。
微小魔石のナイフ型を使って敵を倒せるかが実験の目的なので、倒す相手がいなくなってしまっては意味がない。
万が一、実験している様子を誰かに見られたら困るので少し奥に進む。
そこまでは普通に倒していった。
「身を守る為だ」
そうわざと口に出して、ナイフを手に持とうとして……融けた。
場所が場所だけに、難しい。
既にナイフは作り出せている。
問題は僕の中の攻撃性だけだ。
向かって来た魔物の。
攻撃が届く直前にナイフの柄を握り、受け流す。
防げたが、同時に融けた?
1回目で融けるとは思っていなかったので、瞬間呆けてしまったらしい。
魔物からの2撃目を危うく避け損ねるところだった。
新しくナイフを取る事はなく、一旦それは普通に倒す。
何度か試してみたが、防げるのは1回きりだった。
そうして試す中、防ぎついでに魔物を傷付ける事があった。
それならばと、1回目に身を守ると同時に向かって来た魔物を狙いにいったが。
攻撃と見做されて、ナイフが消えた。
狙っている時点で、やっぱり駄目か。
これは予測出来ていたので、間を置かずに通常攻撃に移る。
う~ん、僕の性根の問題だとは思いたくない。
作り出す時だけではなく、実際に使う時も攻撃性の有無が関係していると考えて間違いない。
果物の皮剥きや切り分けなら、1個分はナイフが保っていた。
1回きりの防御に、果たして需要はあるだろうか?
かといって、僕が生きているうちに無我の境地に辿り着くのはまず無理だ。
微小魔石はどうやって、人の攻撃性の有無を感じ取っているのだろう?
不思議だ。
キラキラがずっと降っていた聖地の微小魔石も、人間の愛を感じ取れるのだろう。
だからこそ、聖域の契約の伝承が生じたのだろうから。
そういえば人工魔石の方はどうなのだろうか?
1回きりなら、ナイフより人工魔石の方が嵩張らない。
通常の魔石は元々宿る魔力の分だけ、付加した魔法・魔術を行使出来る。
そして魔石によって、込めやすい魔法・魔術の種類が決まっていた。
人工魔石に初級魔術を込めた時、攻撃魔術以外は込めやすい・込めにくいはなかった気がする。
そういえばアーラカとこの点は話さなかったから、今度聞いてみよう。
形は悪いが、人工魔石ならナイフ型より日々作り出している。
それに何度も試したから、武器の形を取らせた微小魔石が融ける理由の裏付けを、1人で実験する事に対しての興奮も静まっている。
ラァフも遊びに来ていないので少々心許ないが、たぶん今は近くに魔物も誰も居ないはず。
今、人工魔石も試してしまおう。
実験に使う、人工魔石。
通常の魔石に宿っている魔力の差は、微小魔石の集め具合を少なくするか、多くするかをイメージしながらでいいな。
出来上がったものに、物理防御の魔術を。
よし、完成だ。
実験を始める前までは、今日はようやく1人だ、実験だっ! とやる気に溢れていた。
それなのに早くも僕は奥へ進むのではなく、入口へ戻る方へと足を進める。
実験に対しての感想を言ってくれたり、意見交換してくれたり、後は可愛い姿も見れず。
誰も側に居ないという状況が、何だか寂しくなってしまったのだ。
もう少し強い魔物が出るダンジョンで1人なら、それどころではなく必死だったと思う。
決して1人で居る事が嫌になったわけではない。
構われ過ぎると鬱陶しく感じ、そのくせ1人だと人恋しい。
いつもの天の邪鬼が出てきただけだと、言い訳のように内心で付け加えた。
結果、微小魔石の集め具合の多少に関わらず、人工魔石も1回きりだった。
天の邪鬼な気分を抱えたまま、エノンに会いに行き、それからエノンを一緒に見守った仲間達に会いに行った。
イルミネーション壁の宣伝役を頼む為だ。
ほぼ色好い返事をもらえたので、ヒミノにも頼んでみた。
大勢で宣伝すれば、ヒミノの主が誰なのかなんて誰も探らないはずだ。
タッゾへのお帰りなさいのチュ~は、ちょっとだけ長くなった。
が、程度というものがある。
そうして結局、鬱陶しいと感じる僕に戻った。




