表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
82/100

82・回想(73)




 夕食後、自室へ戻ってのんびりしていると、扉がノックされた。

 リュディーナからの面会希望があった時の事を思い出し、また寮母さんかなと返事をしながら扉に近付く。


「はい?」

「夜分に恐れ入ります」


 この声と話し方はヒミノだ。

 もし寮母さんだったら、今回は何事が起きるのだろうかと内心緊張していたので、そっと息を漏らし、ヒミノを迎え入れる。


「ヒミノトの屋敷跡の片付けをありがとう。お疲れ様」

「勿体無いお言葉です、主様」


 屋敷は廃墟同然になってしまったが残った家具等があり、その移動や処分をヒミノらに押し付け一任してしまったのだ。


「主様。少々手間取りましたが、合わさる事で数少なく園に参じる事が叶いました」

「合わさる……」


 ヒミノトの屋敷にいた人外は昔より増えているとヒミノは言っていたが、どれくらいの数が集まっていたかは知らない。

 ただ、あまり大勢で園に押し掛けて来られても困るから、他の屋敷に転職してほしいとお願いした。


 それが、まさかの融合? をヒミノらは選んだらしい。

 さすがに1つの存在に戻るのは無理だったらしいが、想定外だ。


「あれこれと大変だっただろう、無理してないか?」


 それにしてもヒミノが寮の部屋の前から僕を尋ねて来て、しかもノックまでしてくれるとは思わなかった。

 何の前触れもなく、目の前にヒミノが現れている事も出来ただろう。


 もしかしたら、ヒミノは僕を気遣って、わざわざ部屋の扉をノックしてくれたのかもしれない。

 何の前触れもなくヒミノが現れていたら、僕はプライベートの時間がなくなる気がして、それは嫌な気分になっていたに違いないから。


「お許し頂けたからには、一刻でも早く少しでも主様の御側近くにと思いまして」

「挨拶は明日でも良かったのに」


「実はお尋ねしたい事もありまして」

「何か問題でも起きた?」


「申し訳ありません、主様。こちらの園で使えないだろうかと、残された物の中にあった種や肥料を運んで来たのですが、保管場所の当たりを付ける事を失念しておりました」


「あっ、そうか……」


 ヒミノトの屋敷が無くなっても、庭は手入れされた状態で残されていた。

 という事は、今ヒミノが言ったように園芸用品は残っていて当然だ。


 しかも、どうやら園庭の方にも手を入れてくれる気らしい。

 園の管理の手伝いを頼んだが、何だかヒミノの方が具体的に考えていそうで、逆に申し訳なくなる。


 園から僕が居なくなった途端、ヒミノの保存保護が解かれたヒミノトの屋敷のようにボロッと壊れでもしたら大変だ。


 だから廃墟になる前のヒミノトの屋敷の、エントランスホールの様にピカピカにとまでは言わない。

 少しずつ経年劣化で、薄汚れた感が出てきている園内が少しでも良くなればいいな~くらいにしか僕は考えていなかった。


「どれくらいの量がある? 今、どこに? いや、見た方が早いか」

「御足労お掛け致します、主様」


 部屋を出て、ヒミノに付いて行く。

 寮の裏手にある、ごみ置き場に連れていかれた。



「これです、主様」


 ごみ置き場に置くには違和感のある園芸用品の数々が一角に置かれていた。

 たぶん季節ごとに適度な分を買い足していたのだろう、そこまで多くはない。


 だが、このままここに置いておくのはまずかった。


 ここに置かれている物達は、必要な者が好きに持って行って良い事になっている。

 ある意味、リサイクル場になっていたからだ。


 どこか他の所に置ける場所はないかと考え、これくらいなら、と思い付いたのはエノンの温室だ。


 でも中には、暑さに弱い植物があるかもしれない。

 今年はしばらく残暑が厳しいと聞く。


「園芸に詳しくないから教えてほしいんだが、保管場所が物凄く暑いと種も弱ってしまうだろうか?」

「問題ありません。こちらで対処出来ます」


 周りにはヒミノしかいないが、すぐに答えが返って来た。


 ヒミノは建物の管理人をしている執事系の人外だと思っていたのだが、庭師系でもあるのだろうか?

 それとも見えないだけで、庭師系の人外も側に居るのだろうか?


 一体どれほどの数が園に来ているのやら?

 知りたいか、知りたくないかなら、僕はもちろん後者である。


 だが、これからあれこれと頼む事になるのだ。

 知らないのは失礼な気もする。

 でも、やはり知りたくない。


 もし可能なら、元は1つだろうが今は別々の存在なのだ。


 初めの理由がどうであれ、せっかく多種多様な人々が集っている園にヒミノらは来た。

 人外達が他の主を見つけられればいいのだがと、諦め半分で密かに願う。


「そうか、良かった。それなら、もうちょっとだけ待っていてほしい」

「分かりました」


 ヒミノに園芸用品の管理を頼み、僕は走ってエノンの部屋へ向かう。



 さすがにエノンはまだ寝ていないと思う。

 それでも、あまり誰かの部屋を尋ねていい時間ではない。

 仕方ないだろう。


「エノン、居る?」

 ちゃんとノックはして、すぐ声を掛ける。


「リティっ? 何かあったのかッ?」


 凄い勢いでエノンが出てきた。

 しかも怖いくらいの表情で、1歩下がってしまう。


「夜にごめん、エノン。もしかして、忙しかった?」

「オレは全然。だけど、リティは、何でっ?」


「いつもエノンが使ってる温室の1角に物を置かせてほしいんだけど、いい?」

「……え、それだけ?」


「うん、それだけ」

 頷き返すと、エノンの肩から力が抜けた。


「リティがオレの部屋に来るなんて最近は全くなかったから、何か大事件でも起こしたのかと思った」


 起こした?

 起きたじゃなくて?


 気になるところではあるが、ヒミノを待たせているので、エノンから許可を得る方を優先する。


「驚かせて本当にごめん。それで、置いてもいいかな?」

「いいよっていうか、あの温室はオレのじゃないし」


「ありがとうっ! それじゃ、また明日」

「また、明日……?」


 エノンの部屋に来た時と同様、ヒミノの元へと急いで走って戻る。

 ヒミノと手分けし、魔術も使って無事に温室に種と肥料を置く事が出来た。




「もしかして温室に怪しげな物でも置いた?」


 だが次の日の朝、エノンから開口一番にそう問われた。

 どうも最近エノンから変な子だけではなく、危険人物扱いされている様な気がする。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ