81・回想(72)
イルミネーション壁を作る為に見繕った場所を、アーラカに案内してもらう事にした。
「記念すべき第1回目の研究発表の場所なんだけどね、リティ。講堂じゃなくて、小講義室を借りてになると思うんだよ」
「微小魔石なんて全く知られていないから、仕方ない」
「知ってもらう為には、とにかく話を聞いてもらうっ。聞いてもらう為に、まずは足を運んでもらわなければならないっ。ビラを配る事も考えたが、手間の割に集客効果は期待出来ない」
何だかアーラカが新商品を売り込もうと目論む商売人に見えてきた。
「そこで、まずっ。イルミネーション壁で視覚から攻めようっ! というわけなのさっ」
「なるほど。ただの見本として作るわけじゃなかったのか」
ただ、アーラカの考え方に感心出来たのはここまでだった。
研究室を出て、研究棟の出入り口でアーラカの足は止まる。
「どどぉ~んと、ここの壁いっぱいに塗るのはどうだろうかっ?」
「ここに?」
微小魔石は数日で融けるが、塗料はそのまま残る。
それも魔術で消せなくはないだろうが、この広い壁一面に塗料を塗るのも剥がすのも一苦労になりそうだ。
「イルミネーション壁を作るなら、暗い場所じゃないと。棟の出入り口を暗くするのは、さすがにマズイんじゃないか?」
まず許可が出ないだろう。
「人通りの多い場所で、いかに目立たせるかばっかりを考えていたよ」
「うん。アーラカの発表会に対する意気込みは伝わって来た、が……」
アーラカががっくりと肩を落としている。<
この様子では、どうやら見繕った他の場所も棟の出入り口と大差なさそうだ。
「大人しく小講義室の壁の大きさの衝立でも作ったらどうですか?」
「……え?」
「何も知らない連中から見たら、得体の知れない物を直に塗るなんて言語道断ってやつでしょうし」
瞬く微小魔石を混ぜた塗料を塗った板の話を僕はタッゾに話していないし、見てもいない。
どうせタッゾの事なので、これまでのアーラカとの会話で何となく想像が付いたのだろう。
それはいいとして、今のは本当にタッゾが言ったのだろうか?
衝撃を受けた僕は目を見開いて、タッゾを凝視する。
「あの~何ですか、リティさん? あんまり見つめられると……」
タッゾの定番の言葉を僕はぶった切る。
「お前が研究に協力的な、真っ当な意見を出してくれるとは思ってなかった」
「微小魔石やらの作り手が増える事は、俺としても賛成なんで」
作り手が増えればアーラカと僕は仲間が増えて嬉しいが、タッゾにとってはそうではないはず。
エノンを一緒に見守ってきた仲間に対してでさえ、嫌な顔を隠そうとしなかったのに。
「作り手が増えても、アーラカの研究の手伝いを僕は止めないぞ」
「そうでしょうね~」
もしかして? と思って告げたのだが、どうやら違うらしい。
タッゾの協力的な提案が具体的に続く。
「移動式の衝立も作りましょうよ、リティさん。発表会の題名やら書いた紙を下げるとかして回れば、文化祭とやらも一緒に楽しめますし~」
「小講義室に衝立を並べるのは良い案だと思う。塗るのも楽そうだ」
室内を遮光するだけで、立派なイルミネーション室になるだろう。
「ただ移動させるのは必要ないんじゃないか? 日暮れまで瞬くキラキラが見えないから、人目は引けない」
「じゃあ折り畳み式の移動衝立ならどうです? 陰になる部分が出来ますよ。もしくは、いっそ箱型にして、内側がキラキラで外側に案内の紙を貼るとか?」
どれくらいの暗さでキラキラが見えるかが問題だ。
聖杖があった神殿跡ほどの輝きを、果たして作り出せるだろうか?
それに。
先程からのタッゾの言い方だと、まるで。
「その移動衝立を、お前と僕が持って回ると決まっている風なんだが?」
「宣伝衝立を持ってじゃないと、リティさん小講義室から動いてくれないでしょう?」
「微小魔石の研究はアーラカのものだから、宣伝役をする気がない」
「そうなんですか?」
とりあえず僕は目立ちたくない。
イルミネーション移動衝立が完成するとして、それを持ち歩いたら大量に視線が飛んできそうな気がする。
もちろん本当に衝立を作るなら、微小魔石を作りついでに手伝うつもりだ。
でも宣伝までしてしまうと、研究に僕が関わっていると捉えられてしまわないだろうか?
「……リティ。発表と、その合間に来てくれるかも知れない人への説明やらを、私1人では出来そうにない。だから宣伝も手伝ってくれないかい?」
「確かにアーラカ1人では厳しいか。そう言ったら、アーラカと僕だけでも厳しくないか?」
う~ん。
宣伝も、手伝いのうちになる?
宣伝役が多ければ、視線も分散されそうな気がする。
「そうだなぁ~」
たぶんアーラカと僕の脳裏に浮かんだのは、エノンだ。
それから、エノンを一緒に見守った仲間達だと思う。




