表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
8/100

8・回想(7)




 両親に黙っている事に<お小遣い制度>の、お手伝いがある。


「平民と馴れ合ってはいけない」

「お小遣い稼ぎに出てはいけない」


 という両親からの言葉を、決して忘れたわけではない。


 僕は友達が困っていたから、その手伝いをしただけ。

 それが、たまたま、お小遣い制度の、仕事だったという形式をとる事にしただけだ。


 両親からの僕への関心の現れとして、僕に1番分かりやすかったのは、両親から毎月必ずある銀行への振り込みだった。


 だが両親の不興を買うと、振り込みが断ち切られるかも知れない。

 もしそうなった場合、僕は生きていく術がないと感じていた。


 形式はどうであれ、実際には両親からの言葉に背いている。

 内心の葛藤は激しかったが、僕にとって、制度のお手伝いという言い分は、お小遣い稼ぎする為の苦肉の策だったのだ。


 <お小遣い制度>はスエートのみならず、国内の街ごと、もしくは近隣の村々で連携して、行われている制度だ。


 例えば、買い出しや草むしり・水やり、種植え・害虫駆除・収穫、裁縫、小物作り、引っ越しや模様替え、片付け・清掃、ペットの散歩、売り出し期間中の売り子・内勤、家事・イベント手伝い等々。


 引き受けた仕事によって、大体の相場が決められていて、内容によってはお小遣い以上の賃金をもらえる。


 体が動かないけれど、近所に頼むには気が引ける。

 常時雇う事は出来ないが、少々の余裕はある。

 長期で雇う事の程ではないが、短期間・短時間の人手が欲しい。

 制度ついでに、話し相手が欲しいなんていう理由で、依頼する人もいるらしい。


 引き受け手は子供から大人までの、ちょっとした時間がある人。

 予め、こんな経験・技術がありますと、窓口に伝えておく事も可能だ。




 僕が初めてお小遣い制度を知ったのは、エノンからだ。


「リティ、一緒にやろっ」

 そう言って連れて行かれたのが、草むしりの現場。


 小1時間そのお宅の人とお喋りしながら、草むしりをするエノンをたまに眺めながら、僕も手を動かした。

 てっきりエノンが家の人に声を掛けられて、草むしりを頼まれたのだろうと思っていた。


「じゃあ、終わろっ」

「エノン、園はこっちだよ?」


「いいから。リティ、こっちこっちッ!」

 と着いた先が、スエートの街のお小遣い制度を統括する建物の受付だった。


「終わりましたッ!」

 にっこにこのエノンは慣れた様子で、窓口らしき人に声を掛けに行く。


「あら、エノン! お疲れ様。受付用紙をお願いね」

「はいッ!」


「ありがとう。じゃあ、確認してね」

「大丈夫でしたッ!」


「またお願いねっ」

「はいッ!」


 元気良く返事をしたエノンは受付から戻るや否や、握りしめた手を僕に差し出して来る。


「リティ、受け取ってッ!」

 慌てて広げた僕の手に、何枚かの小銭が乗った。


「……エノン?」

「リティの分ッ! 今日の稼ぎ。半分ずつだよ~」


「僕は……お金はあるから、いいよ」

「だ~め。これはリティの」


 僕は返そうしたが、エノンは全く受け取ってくれない。

 完全に困惑する僕に対し、ちょっとだけ考えてから、ひらめいたッ! という表情をエノンが浮かべる。


「じゃあッ、代わりにジュースをおごって!」

「それでいいの?」


「もちろん。こっちこっちッ!」

 受付前から喫茶コーナーに引っ張っていかれ、ジュースを飲みながら、エノンは制度の説明もしてくれた。


 その日から、エノンが見つけたお小遣い稼ぎに誘われ始め、一緒に過ごせる幸せを僕は味わった。



 スエートの園でも、寮生は買い物に慣れた子……といっても早くて6・7歳から、この制度を利用する事を奨励している。

 終わった後、楽しくおしゃべりしているうちに、エノンを通した仲間との関係も深まっていく気がした。


 10歳までの園での生活費等は無償とはいえ、一定額だ。

 上を見たら限がないが、卒園生が置いて行った衣類や勉強道具・武具類を活用して、遣り繰りしている。


 そういう状況が寮生の目の前にあるから、お菓子が食べたい、おしゃれをしたいという理由は二の次。

 しかも将来の事まで考えなくてはいけない。


 10歳を越えても園に残るか、それとも……?

 どうするにせよ、お金はないよりもあった方が良いに決まっている。


 子供に任せられる仕事にも限度というものがあるから、制度が寮生にとって、仕事体験になっているかどうかは疑わしい。

 ただ社会の様々な事柄に触れる、切っ掛けにはなっている。


 とりあえず制度を利用して、園外へ出るたび、確実に顔見知りが増えるのは、エノンにとって悪い事ばかりではないはずだ。

 性的倒錯者も増えるが、エノンのファンの方が何倍も増えるのだから。


 そうすれば外で、エノンが無理矢理に何かされそうになったら、止めに入ってくれるかも知れないし、エノンの側にいた僕達を覚えてもらっていれば、教えに来てくれる事だってあるだろう。


 もしかしたら制度の利用が、1番始めに両親からの言葉に背いた事かも知れない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ