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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
78/100

78・回想(69)




 アーラカが忙しそうにしていたら、すぐに帰ろうと思い、研究室の扉を少しだけ僕は開いた。


「……アーラカ?」

「リティっ」


「今、お邪魔じゃないか?」

「とんでもない。聞いてほしい事があったから、エノンに伝言を頼む前にリティの方から来てくれて嬉しいよ」


 顔を扉から覗かせ、アーラカに声を掛けた。

 アーラカの返事に邪魔しても大丈夫らしいと、僕は研究室に入った。


「エノンから聞いたよ、リティ。むっ。今日も背中にへばり付いてる婚約詐称者は、入らないで……」

「詐称じゃなくて、正式に婚約者になったんで~。あしからずっ」


 僕が口を挟む間もなく、タッゾが訂正を入れている。

 前回詐称したのは事実なのに、何だか偉そうだ。


 タッゾの言葉を聞いた、アーラカはというと。

 先程まで僕がここに来た事を喜んでくれていたのに、すっかり表情が重たくなってしまった。


「……ちゃんとよく考えたのかい、リティ?」

「アーラカも教えてくれただろう、お互いの意思のみだと。だから破棄も簡単に出来る」


「簡単って、リティさんっ!」

「いちいち割り込んでくるな、タッゾ。そう出来るって話なだけだ。とにかく大丈夫だから、アーラカ」


 そう答えたものの、アーラカの表情は全く晴れない。


「僕には搾り取れるようなお金もないし、付いてくる身分もない。タッゾが結婚詐欺したいなら、さっさと別に行ってるさ」


 まぁ相手がアーラカにとって信用度底辺のタッゾだからなぁ。

 僕を心配してくれているんだろう。


 正直なところ、婚約に関してもタッゾの口先に巻かれた様な。

 押し切られた様な。

 あとタッゾが婚約者である方が状況的にも良かったというか。


 思い返すと、よく考えたとは言い難いかもしれない。

 かといって、じゃあ婚約破棄をタッゾに叩き付けるかというと、今のところ僕にはその気はない。


 そこら辺の経緯を1つ1つ説明すると、アーラカは余計にタッゾに対して反感を強めるだろう。


 今でさえアーラカがタッゾを見る目は険しい。

 今以上に悪くなると、面倒臭くなりそうだ。



 ひとまず、ここは定番の話題変更をしよう。


「ところで、アーラカ。さっき言い掛けていた続きは、リュディーナの事で当たってるか?」

「そうそう。リティはそいつだけじゃなく、異母妹にも付き纏われてるんだって? あ、もちろんエノンはこんな言い方はしなかったよ」


「急に約束を破る事になってしまって、ごめん。リュディーナとは、たぶん仲良くなった」

 少なくともヒミノトの屋敷の件が片付いてからは、リュディーナから観察されるような視線は1度も向けられていない。


 そういえば今年の夏休みは、両親の訪問があるかないかを考え過ぎて、気が気でない思いをする目に遭わずに済んだ。

 これも、おかしな時期に入園してきたリュディーナに意識を割いていたお陰だ。


「家の関係が面倒臭いのは、重々分かっているからねぇ。リティが研究棟まで来れる様になるまでには、もうしばらく掛かるかもなぁと思っていた」

「心配ありがとう、アーラカ。それで? 僕に聞いてほしいっていうのは?」


 僕絡みの話よりも、絶対にアーラカの話の方が面白そうだ。


「前に最後に会った時、いくつか私が作った人工魔石を覚えているかい? それがまだ実は残ってるんだ」

「そうなのかっ?」


 アーラカの方でも残っているという事は、ヒミノへの名付けは関係ないという事か?

 それじゃ、この糸は自慢にならないな。


「これは毎日の練習の成果がようやく出たのかと、初心に戻って微小魔石を何度か作ってみたんだけどねぇ……」

「うん?」


「これまで通り、すぐに消えてしまった」

「その何度か分の全部がか?」

「そう全部」


 そういえば僕はここ最近、作った微小魔石は全部ラァフに食べさせるばっかりで、どれくらい残り続けるかの検証はしていなかった。

 そもそも例えリュディーナの件がなくても、僕ではそんな検証を再度行おうという考えすら浮かばなかったに違いない。


 そこが既に研究者であるアーラカと、手伝いしかしない僕の差なのかもしれないと、相槌を返しながらも思う。

 結局、僕はちょこっと齧るのが楽しいだけの半端者だ。


「それなのに、人工魔石の方は残り続けている……と。それは、つまり? えっ?」

「そうなんだ。微小じゃなくて、ある程度の大きさと形の物が作り出せれば、消えずに残るという事なんじゃないだろうか?」


「なるほど、一理あるっっ。言われてみれば確かにそうだっ!」


 そうか、だからだったのかっ!

 言われて、ようやく気付けた真実だ。


 人工魔石も、糸巻き板も、魔紡糸も。

 アーラカの言葉を反芻して、僕は何度も繰り返し頷く。


 僕としては物凄く目から鱗だったのだが、アーラカ自身はそこまでの事だとは感じていないらしい。


「良かった。リティにもそう思ってもらえたかぁ」

 ただ呑気に安心しているだけだ。


「アーラカはもっと自分が立派な研究者であるって事を誇っていいと思うっ!」

 たびたびアーラカから言われている言葉をもじり、僕は主張した。





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