69・回想(60)
入る前に外から見れた通り、エントランスまでのアプローチには、ちゃんと青々とした葉や鮮やかな夏の花が風に揺れ、匂いも感じる。
時間も空気の流れも外と同じで、特に違和感もない。
小さな昆虫も見られるし、手を入れているのが人外だとしても、造り物ではなく生きている庭だ。
よしっ。
い、行くぞっ!
勢いよくとは行かなかったが門を開け、1歩1歩僕はヒミノトの屋敷の敷地を進んだ。
僕の後にはタッゾも付いてくる。
「え~、デートは~?」
そうぶつぶつ言ってくるのが、緊張しながら歩いている僕の気に障った。
なので、聞いてみた。
「タッゾ、お前にとってデートとは何だ?」
もともと僕はデートには、好きあった2人がふわふわ楽しく何かをするというイメージしかない。
だけど疑問でもあったのだ。
何かをするって、何をするんだ?
デートの話を聞いているかぎりでは、人や場所によって千差万別。
これがデートだ!
そういう決められた形式美が感じられない為、僕にふわふわ甘いイメージしか残らないのだ。
「リティさんと2人きりで」
「今も2人だな」
「一緒の時間を過ごして」
「うん。過ごしてるな」
「合流してからお出掛け」
「ちょうど合流してから歩いてるぞ」
「ワクワクするとかドキドキな感動を共にして」
「先が分からないハラハラを、今お前も感じてないか?」
「一緒に楽しむ」
「あ~、楽しくはないな。すまん」
タッゾのデートの原則を聞いてみれば、現状もデートじゃないかと最初は思った。
だが、一緒に楽しむ?
これまでのタッゾとの時間を僕は思い返す。
……ああ、あるな。
ふわふわ甘くはなかったが、タッゾと2人でいて楽しいと感じた事が。
「タッゾ、僕は今までお前とデートしていた事があるか?」
「ありますよ。俺にとってはデートでした」
「それはすまん。気づかなかった」
「俺もすみません。今もデートなのに空気を悪くして」
「はぁ?」
結局、どうなんだ?
「せっかくリティさんを独占出来てるのに、何してんだ俺は」
「……分からない。どこがデートなんだ?」
するとタッゾが提案してくる。
「じゃあリティさん、分かりやすくデートの雰囲気を出して良いですか?」
「かまわないぞ」
「じゃあ片手を貸してください」
「ん」
片手を上げると、タッゾは指を絡めて握ってきた。
「テンション上がりましたっ!」
「それは良かった」
タッゾのグチがなくなるなら、僕にとって問題ない。
さらに玄関へ歩き続ける。
そういえば、入れないのはどこからだ?
アプローチを玄関に向かって歩きながら、リュディーナから聞いていなかった事に気がついた。
「タッゾ。お前、リュディーナからこの屋敷の話は聞いてきたか?」
「リティさんがここに来ている事だけ聞いています」
「……」
全く役に立たない。
「下調べという言葉はお前にはないのか?」
「そのままそっくり返します、リティさん」
「「……」」
ちょっとの間立ち止まり、僕とタッゾは睨み合った。
だが睨み合っても現状が変わるわけがない。
「……行くか」
「……ですね」
早くも楽しくなくなり掛けるが、何とか持ち直した。
一見・庭園デート風を続けながら、正面玄関までの道のりを歩く。
正面玄関がはっきり見えてきた、と思ったら突然、その扉が自動で静かに開いた。
屋敷の中に入れという事だろう、怖い。
しかし、進む。
園とは違い、エントランスホールは磨きたての様にピカピカだ。
入園する前まで住んでいたはずなのだが、非常に場違い感を覚え、これ以上入る事に抵抗が沸いた。
そこへ声を掛けられた。
「お帰りなさいませ、主様。そちらの方は?」
予想通り、スエートまでの送り役をしてくれた人外だった。




