表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
64/100

64・回想(55)




 朝ご飯後、夏休みの入った事で人が疎らになっている園を、リュディーナに案内する事になった。


 そもそもリュディーナは入園の時期がおかしい。


 園の雰囲気に慣れる為という理由で、夏休みが終わる1週間くらい前なら、新しく園生が入って来る事もある。

 それが夏休み始まってすぐに入園だなんて、疑ってくれといわんばかりだ。


 タッゾとの恋に嵌まり込んでいて、その事に僕が気付かないと決めてかかっているのか?

 もしくは逆に気付く事で、僕の意識がリュディーナに集中するのを狙っているのか?


 しばらく疑問は尽きそうにない。


 リュディーナの目的が分かるまでは、研究棟にも近寄らない方がいいだろう。


 アーラカには悪いが、次回の約束は破る事になる。

 エノンが気を利かせて、アーラカに伝えてくれるだろうから、一言もなく約束破りにならないのは救いだ。


 一旦それぞれの部屋に戻ったのだが、面会と朝食時間の間は、糸巻き板も人工魔石も全部消えずに残っていた。


 いつこれらが消えるかの観察もしたかったが、諦めるしかないだろうか?

 小袋に入れ、持ち歩くつもりだったのに。


 実験したさに、もう妹と仲良くするのが面倒になっているだなんて、駄目な姉だな……。

 自己嫌悪だ。




 リュディーナと待ち合わせした寮の出入り口へ向かうと、タッゾが来ていた。


「おはようございま~す、リティさん。何か、元気ないです?」

「おはよう、タッゾ。会った早々表情を読むな」


 というか今回ばかりは読むまでもなく、完全に出てしまっているのだろう。


「すまない、八つ当たりだ。それから今日は予定が入った」

「そりゃ~別に~、念入りな計画があったわけじゃないからいいですけど~。……あれのせいですか?」


 ちっとも、いいとは思っていなさそうな声音である。

 タッゾには糸の巻き付けを手伝わせようとしていたくらいだから、念入りどころか計画も何もなかった。


 そして振り向くと、リュディーナが少し離れた場所から、こちらの様子を窺っている。

 探っているというよりは、所在なさげだ。


「あれ、じゃない。妹だ。あからさまに威嚇するな、タッゾ」

 近付くのを躊躇っているらしいリュディーナを、僕は手招きした。


 今ここでタッゾを追い払ったとしても、リュディーナと会う機会はいくらでもある。

 表面上だけでも仲良くしてもらいたいので、さっさと紹介してしまおう。


「タッゾ。妹の、リュディーナ。昨日、入園してきたばかりなんだ。今日はこれから園を案内しようと思う」

「ふ~ん?」


 じろじろとリュディーナを見下ろすタッゾの態度が、思いっ切り悪い。

 僕の妹に好印象を与えようという思考は、残念ながら働かなかったらしい。


「リュディーナ。僕の恋人の、タッゾだ」

 異母弟妹に向けてタッゾを紹介するなら、恋人という言葉で正しい。


 だが恋人っ?

 タッゾと僕の間に、ふわふわ甘々な空気なんて流れた事があったか?


 1度もない。

 自分で言っておいて、物凄い違和感だ。


 マズイ。

 違和感があり過ぎて、逆に笑えて来た。


 いい加減その威嚇を止めろという意味で、僕はタッゾに頭をぐりぐりと捻じ込む。

 そうした理由の大半は、もちろん笑いで歪みそうな顔を隠す為だった。


「リティさん。照れないで、ちゃんと正しく紹介して下さいよ~。俺はリティさんの恋人じゃなくて、婚約者でしょう」


「……っ」

 ますます正しくなくなったじゃないかっ。


 ぐりぐりが、ごりごりになる。

 前頭部から額に掛けて痛い。


「それくらいにしておかないと赤くなっちゃいますよ、リティさん」

「……。……もう手遅れだ」


 これは絶対すでに赤い。


 でも、確かにそうだな。

 僕のイメージの中で、恋人より婚約者の方がふわふわ感は消える。


「リティ姉さまの、婚約者のタッゾさま……覚えました」


 しまった。

 否定しないでいたら、リュディーナにおかしな覚えた方をされてしまった。


 だが今さら否定するのも、何だかおかしい気がする。

 面倒だ。

 リュディーナに対しては、もうタッゾは僕の婚約者でいい。


 だがタッゾはすんなり受け入れてしまったリュディーナの反応が詰まらなかったのだろう。

 何とか衝動的な笑いが収まった僕が顔を上げたところで、タッゾから額にキスされた。


 たぶん僕の赤い額の簡単な治癒も兼ねてである。

 若干、痛みが引いた。


 想い合う婚約者からのキスだとしたら、きっと嬉し恥ずかしで頬を染める場面だ。

 が、そんな高度な演技力は僕に備わっていない。


 リュディーナの方へは振り向かずに、タッゾと見つめ合う振りをしなくてはならなくなった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ